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    SmartHR印南貴弘 #THELEADERS
インタビュー

細分化と型化によるインサイドセールス戦略。
SmartHR印南貴弘 #THELEADERS

現場で活躍するインサイドセールスのキーマンに、SALES ROBOTICSの冨田貴徳が取材する連載企画「THE LEADERS」。

今回のゲストは、株式会社SmartHRの印南 貴弘さんです。

SmartHRは、2015年にクラウド人事労務ソフト「SmartHR」の提供を開始。4年連続で同分野のシェアNo.1を獲得し、登録者数も50,000社を超えるなど、国内で圧倒的な知名度を誇ります。印南さんは、SmartHRのインサイドセールスグループにて、2,000名以上規模の企業群をターゲットとするエンタープライズチームのリーダーを務めています。

印南さんはこれまで、複数の企業で新規事業立ち上げや、フィールドセールスに携わってきました。多彩なキャリアを経験してきた印南さんに、SmartHRならではのインサイドセールス戦略の特徴や、印南さん自身の仕事へのこだわりを聞きました。

(執筆:サトートモロー 進行・編集:いいたかゆうた 撮影:小林一真)

印南貴弘 株式会社SmartHR インサイドセールス リーダー
新卒で人材業界に就職。IT業界専任の人材紹介と学生インターン事業の立ち上げ・運営を行う。広告代理店へ転職し、合弁会社の立ち上げに参画。ITベンチャーに転職し、IS・FSを兼任。九州エリアの責任者を務める。2020年6月より株式会社SmartHR に参画。インサイドセールス部門にて、エンタープライズ領域を管掌。

お客様のニーズに合わせ、チームを細分化

冨田:
印南さんの、これまでのキャリアについて教えていただけますか?

印南:
私はこれまでに、SmartHRを含め4つの会社を経験しています。2016年、新卒入社した会社がパソナ社でした。パソナ社では、IT業界専任で転職支援を行なったあと、学生インターン・新卒紹介とそのメディア企画・運営を新規事業として立ち上げました。

サービスの黒字化を見届けてから、2社目であるサイバーエージェント社に転職。ここでは、AIベンチャーと共同出資で立ち上げた合弁会社に、フィールドセールスとしてジョインしました。

事業会社側でサービスを創る楽しさを覚え、小規模の会社にて手触り感を味わいながらサービス普及に従事したいと考え、3社目である空社(現ハルモニア社)へ転職しました。空社は、ホテル業界向けの、AIを活用したダイナミックプライシングシステムを提供する会社です。私はここで、フィールドセールスとインサイドセールスを兼任し、九州エリア責任者としてセールス活動に従事していました。

そして、コロナ禍で空社が事業を転換するというタイミングで転職を考え、2020年6月にSmartHRにジョインしました。

冨田:
様々な業界で働いてきたんですね。印南さんはどんな基準を持って、転職先の企業を選んできたんですか?

印南:
私は学生時代、ココナラ社、freee社でインターンに参加させていただきました。そこで出会った大人たちを見て、事業を作ることのやりがいや面白さを学びました。その結果、事業立ち上げに挑戦できる環境を選ぼうと思い、パソナ社やサイバーエージェント社を選択しました。

その後も、自社プロダクトを展開する、あるいはそれを作るまでのプロセスを学べる環境があるかどうかを、転職の軸足に考えていました。

冨田:
一貫して、事業の立ち上げやプロダクトが展開できるという点にこだわっているんですね。印南さんのキャリアは、フィールドセールスの経験の方が長く感じられます。インサイドセールスは、どのように学んでいったんですか?

印南:
「現場経験」の一言に尽きます。

フィールドセールスがミクロの観点で物事を考える一方で、インサイドセールスはマクロの観点を持つ必要があります。また、インサイドセールスは他の営業と異なり、大半の部分でデータを可視化できるのも大きな特徴です。

現場では、データを元にした「よしあしの判断材料」をどう作っていくか、どう自分の引き出しを増やしていくかを考えながら、日々勉強していきました。

冨田:
なるほど。SmartHR社のインサイドセールスチームには、どんな特徴がありますか?

印南:
チームそれぞれで、取り組んでいる施策が大きく異なります。

弊社は、エリアや役割によってチームが細かく分類されています。新たなエリアに進出する場合、お客様の大半が※アーリーアダプター層に該当します。一方で、東京エリアはほとんどの企業がキャズムを超えており、レイトマジョリティにセールスするという段階です。

※イノベーター理論
新しい商品やサービスの市場浸透に関する理論のこと。
消費者の反応するタイミングが早い順に、以下の5つのタイプに分類。

  1. イノベーター(革新者)
  2. アーリーアダプター(初期採用者)
  3. アーリーマジョリティ(前期追随者)
  4. レイトマジョリティ(後期追随者)
  5. ラガード(遅滞者)

アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間には、キャズムという市場に普及するために超える必要のある溝がある。
この大きな溝を越えるための方法論をキャズム理論と呼ぶ。
それぞれのターゲットで、使う筋肉も分析方法も大きく違うため、自然と取るべき施策も変わっていきます。

冨田:
noteでも拝見しましたが、SmartHR社は社内組織をかなり細かいユニットで分けて、コンパクトに対応しているイメージがあります。

Entrance Book for インサイドセールス(SmartHRにご興味をお持ちいただいた皆さまへ)

印南:
弊社はお客様の従業員規模やエリアごとに、どんな仕組み・役割が必要かをリーダーが考え、必要な戦略を実行できる裁量権があります。それゆえに、チームごとに戦略を細分化して実行する傾向が強いです。

細分化によるエリア戦略と業界へのアプローチ

冨田:
細かく細分化したチームで戦略を組んでいるという点で、お聞きしたいことがあります。

最近はSaaS市場を中心に、キャズムを超えていないエリアをターゲットに「地方を攻略したい」という企業が増えている気がします。印南さんは、地方顧客開拓でどんな点に気を付けていますか?

印南:
前職の空社時代の経験なのですが、いわゆる「城から城下町へ」という戦略を意識していました。ここでいう「城」とは、「地場の有力企業」のことです。開拓したいエリアの有力企業をターゲットに、彼らからの信頼獲得とご契約実績を作れるかを意識して活動しています。

それと、コミュニティマーケティングも意識していました。売上のためというより、信頼獲得を重視した活動という意味合いが強いです。

同じく福岡の事例で言うと、福岡市内の旧福岡市立大名小学校の跡地に、Fukuoka Growth Nextというスタートアップ企業を支援する福岡市の施設があります。その施設内に「awabar」という、起業家やフリーランス、会社員、学生など多彩な人が集うコミュニティが形成されています。運営元である福岡地所さま、時には福岡市長も来訪されていました。

ベンチャーが福岡で展開するなら、ここを起点にコミュニティ設計すると思いました。コミュニティに入り、自分が誰で何をしているのかを知ってもらう。こうした入口の接点が地方戦略では大切だと思います。

冨田:
すごく面白い取り組みですね。城となる企業さんは、どのように見つけていますか?

印南:
ほとんどが紹介によるものです。福岡でも、銀行や金融機関が経営するVCさまや、Fukuoka Growth Nextなどから紹介をいただきました。彼らと信頼関係を築き、かついいサービスを提供しているのであれば、自然と紹介先は増えていくと思います。

冨田:
多くの企業様が、ぜひ取り組むべき施策かもしれないですね。エリア戦略以外の、例えばエンタープライズに向けた活動はどんな工夫をしていますか?組織が大きいため、架電によるキーマンとの接触が難しいターゲットだと思うのですが。

印南:
架電については、データを踏まえたトライ&エラーを意識しています。つながりにくいとは言っても、「○時は不在が多い」といったデータは蓄積されていますからね。電話でのアプローチが難しい場合、メールでのやり取りや、銀行さんを介したアプローチに切り替えています。

冨田:
ここでも、紹介を活かした活動を行っているんですね。

印南:
はい。あとは手紙を送ったり、資料郵送などチャネルを変えることを意識しています。例えば、医療業界やホテル業界などは電話やメール、FAXが刺さるかもしれないですからね。
相手の業界の慣習に合わせて、チャネルを変えることが大切だと思います。

シンプルゆえに効果を生んだ「即対応リード」

冨田:
その他に、インサイドセールスで効果的だった施策はありますか?

印南:
弊社では「即対応リード」という施策に取り組んでいます。こちらは、現ISマネージャーが現場課題から着想を得て実行した施策の1つです。

複数のサービス資料を一括ダウンロードできるメディアがあるじゃないですか。こうしたメディアでSmartHRの資料がダウンロードされると、Slackで社内に通知が流れます。

その通知を見たら、競合より早くお電話するようにしているんです。

インサイドセールスあるあるとして、「リードタイム(架電までの時間)を短くするほど初期接点を持ちやすい」という考え方があります。実際に、一番最初にお客様に架電できるかどうかで、アポイントを獲得できるかが大きく変わります。

冨田:
10社以上の資料を請求したということは、言い換えれば「10社以上から電話がかかってくる」ということですからね。競合に先んじて、スピーディに行動するのはとても重要だと思います。

印南:
インサイドセールスを行う全チームは、通知を見て自分のTierかを確認します。ある程度ルールはありますが、基本的には「早い方がカッコいい」という基準で対応しています。

※Tier(ティアー)
ターゲット企業を重要度別にセグメント分けしたもの。
Tierを作成するとセグメントごとの優先順位と取るべき施策が明確になる。

  • Tier1(最優先ターゲット)
  • Tier2(重要ターゲット企業)
  • Tier3(ターゲットになりうる企業)

冨田:
チーム間でいい競争が生まれる仕組みですね。

印南:
即対応リードを始める前は、「商談化のコンバージョンが低い」という課題がありました。

問い合わせはあるのに、コンバージョンが低い原因はなにか。どこに機会損失があるのかを模索して、現マネージャーが「即対応してみよう」と提案し、Slackのチャンネルを立ち上げました。その結果、コンバージョンも改善されたんです。

冨田:
自分たちではなく、他社が先にリーチしていた状況を改善したわけですね。シンプルですが、すごく効果的な施策だと思います。

逆に、「これは失敗だった」という施策はありましたか?

印南:
私が入社してすぐ実施した施策なのですが…(笑)。商談獲得後から初回提案までのリードタイムで、お客様に会社の設立背景やCS体制などをまとめたメールをお送りしていました。リードタイムは、場合によっては1~2週間空いてしまいます。

その間、お客様の温度感が下がらないようにメールをお送りすることで、有効商談につなげようと思ったんです。結果的に、有効商談とメールの相関関係が見出せず、やめてしまいました(泣)。

ToDoリストの件名運用のすすめ

冨田:
インサイドセールス部門の、大まかな1日の仕事の流れも教えてください。

印南:
基本的に、マーケットが開いている9時〜18時を架電に当てています。弊社では、IP電話の記録とセールスフォース、BIツールを連携しています。そこで取れたデータや、エリア・役職などのデータをそれぞれ分析し、どう攻めるか考えていますね。

冨田:
架電以外の時間は、どのように活用していますか?

印南:
大きく2つの活動をしています。

ひとつ目が「リスト作成と精査」です。翌日ないしは当日の午後、リストの整備を行います。午前中に持っているリストが芳しくない場合、何が悪いかを考えPDCAを回し、午後の行動に活かします。

ふたつ目が「セールスにトスアップする内容と商談ページの作成」です。17時半〜18時以降に、翌日の架電リストを整理しつつ、セールスフォースやSlackなどで情報を共有します。

冨田:
一日最低2回は、リストを見直して活動の改善に当てているんですね。

印南:
はい。チームメンバーに対しても、朝のタイミングでリストの優先順位を聞き、架電の結果に応じて個別に修正していただくという流れになっています。

冨田:
セールスにおいて、商談先の全企業に対して「※Why You Now」を明確化できることが理想だと思います。印南さんやSmartHR社は、どのようにして「Why You Now」を実現していますか?

※Why You Now(なぜ、あなたに、いま)
商談先に対して、「なぜ今、あなたにこの情報をお伝えしているのか」を明確にするというセールスの考え方。これらの情報を明確にすることで、商談先の課題を正しく理解し、相手に有益な情報を届けられる。

印南:
弊社では、全てのリストに対して「Why You Now」を重要視しています。実際の手法としては、セールスフォースのToDo入力画面の「件名欄」に、商談先のネクストアクションを記載しています。

件名を商談先の企業名といった「活動名」にしていると、30〜40件とタスクが蓄積された時に、優先順位が分からなくなります。その結果、一度調べた情報もゼロベースで探すことになってしまいかねません。

件名でのToDo管理は、どの企業さんにもおすすめしたい手法です。

冨田:
ToDoリストの件名を一目見れば、ある程度情報やアクションをチェックできるわけですね。

型化とプラスアルファの価値提供

冨田:
チームや印南さん個人で、現在取り組んでいる施策はありますか?

印南:
従来の「商談を獲得できたかどうか」というゼロイチの活動を、さらに細分化した活動に落とし込もうとしています。マーケティングにおけるカスタマージャーニーマップの、インサイドセールス版を作っていると言えばいいでしょうか。

ここ最近、弊社では過去のリードの掘り起こしを行っていることにより、商談獲得までのリードタイムが長期化する傾向にあります。3ヶ月かけて複数回接点を持ち、ようやく商談に至るケースも珍しくありません。

そこで、お客様が現在どのフェーズにあるのかを、※4つの不などのフレームワークで分類し、ある程度の型化が可能かを検証しているところです。

※4つの不
商談先が検討を止めてしまう、4つの壁を表したもの。商談時により網羅的な対策を講じるうえで、有効な分類法

  • 不信の壁(あなたは信用できない)
  • 不要の壁(その商品は私には必要ない)
  • 不適の壁(その商品は私に適切ではない)
  • 不急の壁(今その商品を買う必要がない)

冨田:
実は…。弊社もリードタイムが長期化しているという背景から、SmartHR社とまったく同じことに取り組んでいます(笑)。検証中ということですが、具体的にはどんなことをしているんですか?

印南:
現在は、各フェーズでの商談結果や、どの段階での商談が有効商談に至ったかをチェックしています。例えば、不信の壁で失注に至っているケースが多い、予算が壁となっている場合の商談は、有効商談になりやすいといった感じです。

普及のタイミング、課題は認識している。ある程度手段としてSmartHRを検討している、現在は予算や時期が合わないというものが、ほんとうに商談獲得して商談を行ったとき、有効商談になったのかどうか。

こうした各ファネルの検証と型化に、すごく苦労しました。

冨田:
なるほど。今後試していきたい施策などはありますか?

印南:
商談獲得までの、ナーチャリング(顧客育成)の精度を上げていきたいです。「このお客様のフェーズアップに必要なアクションは何か」を、ある程度平準化して提供していけるようになりたいと考えています。セールスにおける道筋を整備して、個人の能力に依存しない型を作ることができれば、組織のボトムを設定できるじゃないですか

セールスフォース社の新ソリューションである「Einstein High Velocity Sales Cloud」を参考に、オペレーション精度向上できたらいいなと妄想しています。

新ソリューション「Einstein High Velocity Sales Cloud」 、AIテクノロジーで「営業のデジタル化」を強力に支援 – Salesforceブログ

型化されたら自由度が低くなるという意見もあると思いますが、それ以上のプラスアルファの価値を、インサイドセールスの「余白」として楽しみながら生み出すことができればと思っています。

冨田:
「Einstein High Velocity Sales Cloud」のようなシステムは、確かに見込みのお客様をフォローアップするいい方法ですね。印南さんは、Twitterをはじめさまざまな媒体で情報発信をしていますよね。今後、個人としてどのようなキャリアを築いていきたいかを、最後に聞かせてください。

印南:
生存戦略という意味でも、インサイドセールスを軸に今後のキャリアを積んでいきたいです。

冨田:
生存戦略というと?

印南:
インサイドセールスは、まだ日本に導入されて10年も経っていません。一方で、フィールドセールスはすでに何十年と歴史があり、多くの強者が存在します。

まだ競技人口が少ないインサイドセールスでポジションを確立することで、人材としての希少性が生まれるかなと思うんですよね。

また、インサイドセールスは歴史が浅い分、役割や定義を私たちの手で変えられると思っています。自分たちで変えられるからこそ、縦にキャリアを伸ばしつつ、新しいことに挑戦していきたい。インサイドセールスの新しい概念を、SmartHRから発信できれば嬉しいです。

そうやって、事業成長に必要な役割を果たしつつ、楽しく意思決定していく。そんな私らしい働き方ができればと思っています。

SmartHR社では、インサイドセールスを募集しています。ご興味のある方は、下記URLよりお気軽にご応募ください!
株式会社SmartHR 採用ページ

今回の「THE LEADERS」は、お楽しみいただけましたか? 本シリーズでは、今後も各業界で活躍するインサイドセールスのリーダーをお招きして対談を行ないます。次回もぜひ、ご覧ください。

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スマタイ編集部
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