相手を想うコミュニケーションが、継続的な成果を生み出す。 日本財託 及川瑞生 #THELEADERS
現場で活躍するインサイドセールスのキーマンに、SALES ROBOTICSの冨田貴徳が取材する連載企画「THE LEADERS」。
今回のゲストは、株式会社日本財託の及川瑞生さんです。ブライダル業界での経験を経て、不動産業界で大活躍する及川さん。入社以来、3年連続でインサイドセールス部内のMVPに選ばれています。
投資用不動産という高額商材において、日本財託社はどうやって商談や成約を勝ち取っているのか。限られた時間とリソースの中で実施している、さまざまな工夫と施策を教えていただきました。MVPを取り続ける及川さんの、仕事への向き合い方にもご注目ください。
(執筆:サトートモロー 編集:いいたかゆうた 撮影:小林一真 音声編集:増田那々海)
及川瑞生 マーケティング本部 インサイドセールス部 主任
ブライダル業界で4年従事し、2020年1月に株式会社日本財託へ入社。現在インサイドセールス部のプレイングマネージャーとして、メンバーの育成にも携わる。3年連続商談創出数1位、月間商談数過去最高の111件を達成。
商談数だけでなく成約数も意識したKPI
冨田:
日本財託社の事業内容と、及川さんのこれまでのキャリアについて教えていただけますか?
及川:
弊社は投資用不動産を扱う不動産会社です。主に、東京都内の中古ワンルーム物件の販売と管理を行っています。私が入社したのは2020年で、それ以前はブライダル業界で働いていました。
現在は、日本財託のマーケティング本部インサイドセールス部に所属しています。主な仕事内容は、アポイントの獲得や商談創出のための企画立案、コミュニティイベントの運営、SNS運用です。
冨田:
お客様へのアプローチは、具体的にどのようにしているのでしょうか?
及川:
弊社では、毎日マンション投資のセミナーを開催しています。無作為なテレアポはしておらず、セミナーにお申し込みいただいたお客様に架電して、商談へとつなげています。
冨田:
※SDRの活動が中心なのですね。マンション投資について興味があり、積極的に貴社と接点を持とうという方に対して、フォローアップをしていると。
※SDR(Sales Development Representative)
インバウンド対応がメインのインサイドセールス。「反響型」の営業手法とも呼ぶ。
KPIは商談化数ですか?
及川:
商談化数はKPIになっていますが、商談数ばかりを見ていると、質より量にフォーカスが当たってしまいます。インサイドセールスでは成約数をチェックしており、成約率を高める指標として、お客様の個人情報をヒアリングできているかを重視しています。
具体的には、年収やご年齢、勤続年数、負債状況などです。こうしたお客様の属性を「ヒアリング項目」と呼んで、月〇件ヒアリングできるようにしようと目標設定しています。
冨田:
「ヒアリング項目」は、BtoBにおける※BANT情報と同じような要素というわけですね。
BANT情報
Budget(予算)、Authority(決裁権)、Needs(必要性)、Timeframe(導入時期)を表す言葉。相手企業への理解を深め、円滑に商談を進めるフレームワークである。
上記に加え、Competitor(競合相手)、Human resources(人的資源)を追加したフレームワークをBANTCH(バントチャネル)と呼ぶ。
成約に欠かせない個人情報をどう聞き出すのか
冨田:
ヒアリング項目の中身は、成約に欠かせない情報だとイメージできますが、非常にデリケートな情報でもありますよね。皆さんはどんなプロセスで、情報を引き出すのでしょうか?
及川:
アポイントが取れた後、「当日のお時間を有意義にするために、いくつかご質問させていただきたいのですが、1分ほど大丈夫でしょうか?」と、後付けで質問することがあります。この場合は、アポイントが取れている時点で心を開いている方が多いので、答えていただけることが多いです。
仮にローンを検討しているお客様で、ヒアリングした結果借り入れが難しいという場合は、アポイントそのものを見直すこともあります。
それは、無理に商談に進んだとしても結果としてお客様のご要望に応えられない可能性も高いからです。
だからこそ、ローンの基本的な情報をお伝えしつつ、面談当日はお客様のご要望以上の内容をお伝えするようにしております。
冨田:
皆さんからの質問に、答えづらいという反応を示す方もいらっしゃると思うのですが、その時はどのように対応しているのでしょうか?
及川:
一定数いらっしゃいます。その場合は、「失礼しました。当日担当させていただくコンサルタントとのお話の中で、お話しいただければ大丈夫です」と話を終えます。代わりに、「〇〇様は、マンション投資について勉強中とのことですが…」と、状況について掘り下げる質問を行います。
冨田:
※SPIN話法のSituation(状況)についての質問に切り替えるのですね。
SPIN話法
営業時のフレームワークの1つで、Situation(状況)、Problem(問題)、Implication(示唆)、Need-payoff(解決質問)の頭文字を取っている。SPIN話法を活用することで、見込み顧客が言語化出来ていない潜在ニーズを引き出すことができるとされている。
ここまでの対話プロセスについて、スクリプトはあるのでしょうか?
及川:
スクリプトは、「セミナー出席者用」「セミナー欠席者用」「ホームページからのお問い合わせ用」のように、細かく分けて用意しています。
冨田:
状況質問や「この場合は何を聞くべきか」というシーン別のシナリオも、別途作っているということなのでしょうか?
及川:
ある程度の型は作成していますが、細分化しているというよりも、よくあるケースを型にしてまとめているというのに近いです。
冨田:
大まかなペルソナとチャネルに対して、軸と必ず入れるべきシナリオをスクリプトにまとめているのですね。
カスタマーサクセスとナレッジを共有
冨田:
及川さんが入社した時点で、すでにインサイドセールス部はあったのでしょうか?
及川:
ありました。
冨田:
インサイドセールス部が立ち上げられた経緯をお伺いできますか。
及川:
私には上司が2人いて、その2人がインサイドセールス部を立ち上げました。会社から、「今年入る新入社員と一緒に、インサイドセールスのチームを立ち上げてほしい」という指示があったそうです。立ち上げられて今年で7年目なので、大体2017年ごろですね。
冨田:
なるほど。この頃はちょうど、インサイドセールスという言葉が日本で聞かれ始めた時期なので、かなり早いタイミングですね。現在、インサイドセールス部は何名所属しているのでしょうか?
及川:
弊社のインサイドセールス部は、インサイドセールスチームとカスタマーサクセスチームの2つに分けられていて、合計13名が所属しています。
冨田:
一般的なTHE MODELだと、フィールドセールスの後にカスタマーサクセスという組織図になっていることが多いです。日本財託社の場合は、インサイドセールス部内にカスタマーサクセスチームがあり、すぐにサポートできる体制を取っているのですね。
そうなると、カスタマーサクセスとインサイドセールスは、チームで日頃どんなコミュニケーションを取っているのかが気になります。
及川:
コミュニケーションは頻繁に取っていますね。例えば月に1回、インサイドセールス部の全体ミーティングを2時間ほど行っています。両チームは業務内容が全く異なるので、お互いどんなことをやっているのかをシェアするんです。
インサイドセールスチームからは、「今月こんな新しい取り組みをして、成功(失敗)しました」と発表します。それに対して、カスタマーサクセスチームから質問を受けたり、感想をもらったりします。お互いの頑張りや取り組みを聞いて、「自分のチームでもやってみよう」という気づきを得られるんです。
冨田:
インサイドセールスとカスタマーサクセスは、組織的に距離が近い一方で、現場でコミュニケーションを取っていないことが多いです。及川さんたちのような取り組みをしている会社は意外と少ないので、素晴らしいと思います。
限られた時間で成果を出すための架電・コンテンツ配信の工夫
冨田:
インサイドセールスチームの皆さんは、見込み顧客ひとりひとりにどのくらいアプローチするのでしょうか?
及川:
「しつこく架電しない」というのをモットーに、平均3回程度架電しています。個人の方がお客様なので、昼休憩中の12〜13時半や、お仕事終わりの18〜20時にご連絡しています。
それ以外にも、Account Engagement(旧Pardot)を使ってお客様にメールを定期配信しています。最近はメールだと既読されないことも多いので、ショートメッセージ(SMS)を活用することも多いです。メールが開封されない、かつお電話もつながりにくい方は、SMSがとても有効だと思います。
冨田:
電話以外のチャネルも有効活用しているのですね。今のお話で気になったのが、見込み顧客をどう確保しているのかです。
BtoBの場合、すぐに商談化しなかった見込み顧客に対して、いわゆる保有リードという形で継続的にコミュニケーションを取り続けます。BtoC、特に個人向けの不動産投資といった高額商材の場合、見込み顧客を常に増やし続けないと、リストが枯渇してしまいそうな印象ですが…。
及川:
継続的なコミュニケーションという観点では、高額商材ですし、すぐに成約しないケースの方が多いです。そういったお客様に対しては、私たちも関係性が途切れないように意識してコミュニケーションを取っています。具体的には、月1回企画しているメールコンテンツでキャンペーンをお送りしたり、コミュニティイベントの案内を出したりしていますね。
とはいえ、新たな見込み顧客がいないと集客できないというのは、冨田さんのおっしゃる通りです。そこで、マーケティング部のセールスプロモーション課というチームが主導して、毎週違うテーマのセミナーを開催しているんです。それによって、毎週新しいリードが補充できています。
それと付随して、マーケティング部のデジタルマーケティング課が広告を展開しています。
冨田:
マーケティング部の皆さんが、日々頑張って新たな見込み顧客を獲得しているのですね。インサイドセールス部では、これまでどんな施策を行ってきましたか?
及川:
メールコミュニケーションの最適化です。
メールには反応がいいものと悪いものがあり、それぞれの違いは、もし断られたとしても信用を確立させるというのを第一にしているのかどうかです。
例えば、「お客様が興味があってもなくても返信いただければ幸いです。」といった趣旨のメールを送ります。
要は何を伝えるのかというと、”商品の良さ”ではなく、”お客様をサポートしたいという思い”を伝えたいんです。
そのためにメール内容を変えました。
冨田:
それは面白いですね。メール内容の変更前と変更後で、返信率はどれくらい変わったのですか?
及川:
私の感覚値ではありますが、これまで100人中5人から返信があったのが、10人に増えました。
冨田:
倍増、しかも100人中10人という返信率は大きな数字ですね。
及川:
架電する前にお返事をいただけることも増えました。お客様からのメールに返信するという形になることで、その後の電話もかけやすくなりましたね。
冨田:
インサイドセールスというと、テレアポという印象が依然強いです。しかし日本財託社は、デジタルを介して※Why You Nowのコミュニケーションを入れることによって、お客様とやり取りしやすくしたのですね。
※Why You Now(なぜ、あなたに、いま)
商談先に対して、「なぜ今、あなたにこの情報をお伝えしているのか」を明確にするというセールスの考え方。これらの情報を明確にすることで、商談先の課題を正しく理解し、相手に有益な情報を届けられる。
及川:
他の施策だと、追客の一環として月1回「キャンペーン」というコンテンツ配信を行っています。弊社の場合、1回のセミナーから商談化できるお客様はごくわずかです。セミナー後に相談会を申し込まなかったお客様は、その時点では投資意欲が高くはありません。すると、商談化できない見込み顧客のリストがどんどん溜まっていきます。
このリストに対するアクションとして、キャンペーンを始めました。コンテンツの中身は、「都心部のワンルームマンション投資のメリット」「自分に合った資産形成プランとは」などさまざまです。
「今は日銀総裁交代のニュースがホットだから、金利をテーマにしよう」など、どんな内容であればお客様の興味を引くことができるかを、メンバーで話し合って企画しています。
冨田:
自社商材に限らず、物件の購入を検討するような層が興味を持つことは何かを考えて、キャンペーンを企画しているのですね。そこから、セミナーや面談の申し込みへ誘導すると。
及川:
メールの文言も工夫しています。「面談」という言葉はハードルが高いので、「ご紹介」や「ご案内」に変えたりとか。「ご参考までに」といった枕詞をつけるだけで、申し込みが増えることもあります。こうした言葉の言い換えは、コールにも生かしています。
冨田:
とても面白い試行錯誤ですね。とはいえ、インサイドセールスチームだけで、どうやって4万件のリードに対応しているのでしょうか?
及川:
活動量を担保する上で、キャンペーンをうまく活用しています。例えば、メールを開封したのに申し込まなかった方、申し込みフォームまでは進んだ方に対して、なぜ申し込まなかったのかを推察して、架電するようにしています。
「詳細が分からなかったから(申し込まなかった)」という理由が分かったら、セミナー内容を電話で伝えて、申し込みを促しています。
冨田:
テックタッチ(人ではなく「テクノロジー」や「コンテンツ」を使って多数のユーザーや見込み顧客にアプローチする活動の総称)を工夫できているからこそ、「とにかく架電しまくる」という活動をせずに済んでいるのですね。実際に、及川さんやインサイドセールスチームの皆さんは、どのようなスケジュールで仕事をしているのですか?
及川:
架電しているのは、1日のうちお昼と夕方の3時間だけです。残りの時間で企画を練っています。私はプレイングマネージャーとして、メンバーの教育も行っています。
冨田:
限られた時間でコンタクトを取って、成果を出さなければならないのですね。だからこそ、キャンペーンなどの企画立案やナレッジのシェアを、チーム全体でやっていると。不動産投資と聞くと、不特定多数に架電するというあまりよくない印象でしたが、及川さんの話でだいぶ印象が変わりました。
インサイドセールスは私の天職です
冨田:
及川さんは現在、3年連続商談創出数1位でMVPを取り続けているということですが、これだけの結果を出すために、努力しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
及川:
実は私、入社してすぐのタイミングで大きな挫折を経験しているんです。ブライダルから不動産投資の世界に来たばかりの頃は、ほとんど知識がありませんでした。電話先のお客様からの質問にも、まったく答えられなかったんです。
私たちインサイドセールスチームは、自分たちを「お客様相談サポート」と称してやり取りをしています。この日も「お客様相談サポートなので、その質問はちょっと分かりかねます」とかわしていましたが、お客様から「じゃあなぜ電話してきたの?」と言われたんです。
お客様からしたら、電話越しにいるのはプロフェッショナルだと思っているわけですから、この言葉は当然です。入社した直後で、上司も「仕方ない」とフォローしてくれましたが、こんなことはもう二度とあってはいけないと思いました。そこから、毎日猛勉強するようになったんです。
冨田:
それはなかなかグサっとくる言葉ですね。それを払拭しようと知識を身につけて、自信を持ってお客様と会話できるようになるまで、どのくらいの期間がかかりましたか?
及川:
3ヶ月くらいかかったと思います。努力が数字として表れるようになって、自信を持ってコールできるようになりました。
冨田:
売り手目線すぎて、会社や商材の良しあし以前に、話を聞く気がなくなってしまうというのは、インサイドセールスにおけるもっとも大きなロストだと私は思います。それを乗り越えて、3年連続MVPを取り続けられているのがすごいです。
及川:
私は根本的に負けず嫌いなんですよね。中学時代は陸上競技をしていましたが、その時も1位を取ることしか頭にありませんでした。日本財託に入社した時も、試用期間の3ヶ月で上司2人の成績を上回るんだ!という一心で働いていました。お客様とのやり取りは即レスを最優先して、1件でも商談化できるように工夫していました。
冨田:
その姿勢で働き続けられる人は、なかなかいないと思います。今はプレイングマネージャーという立場ですが、後輩や部下のメンバーにはどう接しているのでしょうか?
及川:
OJTを担当している子に対しては、電話の楽しさを教えるようにしています。自分が楽しめなければ、お客様にも想いは伝わりませんから。
どうしたら楽しめるのかということに関しては、答えを言わず質問を投げかけて相手の行動を促しています。
及川:「なぜ今、電話を楽しめないと思う?」
メンバー:「お客様の質問に答えられるか不安だからだと思います」
及川:「不安を減らすために、何をしようか?」
メンバー:「不動産投資に関する勉強をします」
及川:「どうやって勉強していこうか?」
こんな感じです。問いを立てる過程でメンバーの考えを掘り下げていって、メンバーに合わせた育成スタイルを取るようにしています。
あと弊社では、フィールドセールスとお客様との面談の様子を、動画にして閲覧サイトにアップロードしています。動画の中からいくつかピックアップして、メンバーに視聴させて、そこで学んだことをレポートにまとめてもらうんです。まとめた内容について質問しつつ、動画内容の理解度を高めます。
冨田:
丁寧にメンバーとコミュニケーションをしているのですね。インサイドセールスとして、「電話することが楽しくなるようにする」という教育方針は、非常にストレートで素敵な考え方だと思いました。
この3年間の業務を通じて、及川さんにとっての「インサイドセールスのやりがいや楽しさ」はどこにありますか?
及川:
私はよく、「インサイドセールスは私の天職だ」と口にしています。やりがいも楽しさもたくさんあるのですが、一番嬉しい瞬間は「及川さんのおかげで一歩踏み出せました」という報告を、お客様からいただく時です。
私とお客様との接点は、決して多くありません。1回5〜10分の電話を数回かわす程度なので、時間にしたら1時間もないと思います。この短い時間で、不動産投資という人生のターニングポイントに携わることができたと考えると、すごく嬉しいんです。
仲間の存在も、インサイドセールスのやりがいにつながっていると思います。私たちのチームはすごく仲がよくて、私がMVPになった時はメンバーはすごく喜んでくれるし、上司もたくさんほめてくれます。みんなからの温かい声で、「よっしゃ!」という気持ちになれるんです。
冨田:
本来、お客様とのやり取りはフィールドセールスが主になることが多いです。成約後に、インサイドセールスにも声をかけてくれるというのは、非常に珍しいことだなと。及川さんの細やかな仕事ぶりが、感じられるエピソードだと思います。ここまでの話を聞いて、及川さんが1to1でお客様のことを想い、日々準備をしているのだということが分かりました。
及川さん、本日はありがとうございました!
今回の「THE LEADERS」は、お楽しみいただけましたか?本シリーズでは、今後も各業界で活躍するインサイドセールスのリーダーをお招きして対談を行ないます。次回もぜひ、ご覧ください。
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