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インタビュー

Keep in touchで織り成すインサイドセールスアドビ湯浅美智子 #THELEADERS

現場で活躍するインサイドセールスのキーマンに、SALES ROBOTICSの冨田貴徳が取材する連載企画「THE LEADERS」。

今回のゲストは、アドビ株式会社の湯浅美智子さんです。

PhotoshopやIllustratorなど、クリエイティブに欠かせない製品を数多く提供するアドビ。ビジネスシーンでは、ドキュメント管理やマーケティングオートメーション(MA)などを提供しています。

アドビ社では、この数年でインサイドセールス活動に大きな変化がありました。その変化の渦中にいた湯浅さんは、見込み顧客の印象に残るコミュニケーションの秘訣にたどり着きます。実際にどのような行動を取っているのか、普段の仕事内容や業務における工夫についてお話を伺いました。

(執筆:サトートモロー 編集:いいたかゆうた 撮影:小林一真 )

湯浅美智子
アドビ株式会社 DXインターナショナルマーケティング本部 ビジネスデベロップメント部 ビジネスデベロップメントレプレゼンタティブ

2017年に大学を卒業後、大手旅行代理店でカウンターセールスを担当。BtoC向けの旅行商材の手配などを担当した後、ITスタートアップ企業に転職してインサイドセールス・フィールドセールスを経験した。2021年よりアドビ社にジョインして、マーケティング部内のインサイドセールスチームに所属後、現在BDRを中心に活動する。

BDR・SDR両方の活動を担当

冨田:
まずは、湯浅さんのこれまでのキャリアについて教えてください。

湯浅:
私は2017年卒で、新卒で大手旅行代理店に入社しました。そこではカウンターセールス(内勤営業)として、BtoC向けに旅行の手配などを担当しました。1年働いた後、法人営業をしたいという想いから、スタートアップIT企業に入社しました。そこでインサイドセールスを半年、フィールドセールスを2年半担当して、2021年8月にアドビに入社しました。

冨田:
ありがとうございます。アドビ社が提供するサービスについて教えてくださいますか。

湯浅:
アドビは主に3つの柱で事業を展開しています。1つ目は、「PremierPro」や「Illustrator」、「Photoshop」といった編集ソフトを提供する「Adobe Creative Cloud」。2つ目はPDFや電子サインなどを取り扱う「Adobe Document Cloud」。そして3つ目が、MAである「Adobe Marketo Engage」などを提供する「Adobe Experience Cloud」です。

「Adobe Marketo Engage」は、複雑な購買体験をスムーズにし、顧客との良好な関係を構築、継続させるための顧客体験を設計することができます。新規獲得からロイヤル顧客化に至るまで、測定可能な成果を得ることができるため、マーケターには欠かせないプラットフォームになっています。私は「Adobe Experience Cloud」の事業において、「Adobe Marketo Engage」の※BDRを担当しています。

ちなみに、アドビのインサイドセールスチームはマーケティングチームの中に所属しています。マーケティングチームは、3つの事業ごとにそれぞれ組織されています。

※BDR(Business Development Representative)
アウトバウンド対応がメインのインサイドセールス。「新規開拓型」の営業手法とも呼ぶ。

湯浅:
補足しておくと、アドビのBDRという言葉は、一般的なインサイドセールス用語のBDRと少し意味が異なります。一般的に、※SDRとBDRは「インバウンド」「アウトバウンド」と分けられますよね。
私は肩書としてBDRを名乗っていますが、一般的なSDRとBDRの両方を担当しています。

※SDR(Sales Development Representative)
インバウンド対応がメインのインサイドセールス。「反響型」の営業手法とも呼ぶ。

インタビュー アドビ株式会社 #THELEADERS

冨田:
ということは、湯浅さんはBDRの活動もしつつ、問い合わせ対応や資料請求されたお客様へのSDRの対応も行っているんですね。

湯浅:
はい。具体的には、「Adobe Marketo Engage」のインサイドセールス向けの機能をフル活用しつつ、商談の創出を図っています。具体的には、簡易的なシナリオ設計ができるメール配信機能と、SFAと連携してお客様のインサイトが分かる機能の2つを活用しています。

こうした機能を用いて、お客様のWebアクティビティに応じて電話や個別メール、一斉送信メールなどを行っています。

ちなみに、インサイドセールスのメンバーは、個々にメインミッションとは別のサブミッションも持っています。私の場合、「Adobe Marketo Engage」のインサイドセールス分科会であり、月1回開催される「TELKETO (テルケト) 」の運営を担当しています。その他、「Adobe Marketo Engage」のSNS公式アカウントのコンテンツ投稿なども私のサブミッションとなっています。

冨田:
かなり、活動の幅が広いのですね。
アドビ社のインサイドセールスはBDR・SDRを区別せずに活動しているとお伺いしましたが、実際には、どのようなスケジュールで業務をこなしているのでしょうか?

湯浅:
基本的に、午前中は電話・午後はメールという形で仕事内容を分けています。始業後、9時〜10時は架電せずメールチェックや見込み顧客の精査を行います。10時からお昼までは、アウトバウンドの電話や事前に予約した電話をかけたり、お送りしたレターのフォローをしたりします。

午後からのアプローチは基本的にメールです。インバウンドのメール対応や、「Adobe Marketo Engage」の機能を用いた一括配信メールの送付などを行います。最近は週2日で出社しており、チームメンバーの席に訪れては、雑談をしつつ情報収集しています。

冨田:
ありがとうございます。現在、チームはどのようなKPIを追っているんですか?

湯浅:
インサイドセールスチームの現在のKPIは、より大きなARR(年次経常収益)を獲得することです。そのために、一定の従業員数や売上高がある企業の、マーケティング部門長の方々をターゲットにアプローチしていたりします。

とはいえ、インバウンドのターゲットはその限りではありません。問い合わせの内容やお客様の温度感などで、優先順位を設けています。

インタビュー アドビ株式会社 #THELEADERS

冨田:
事業規模などで、優先順位の敷居値を設定しているのですね。

ゲーミフィケーションで営業活動を楽しむ工夫

冨田:
インサイドセールス活動のKeep in touch(連絡を取り合うアクション)は、インバウンドとアウトバウンドそれぞれどれくらいの比率で行っていますか?

湯浅:
この比率は、入社時から大きく変化しました。入社当初は、インバウンド7割でアウトバウンドが3割でした。それが現在では、インバウンドが1割でアウトバウンドが9割と数字が逆転しています。

私が入社した頃は、新しい見込み顧客にアプローチするための、インバウンドの活動が中心でした。それが現在では、既にご導入いただいている企業様にプラスアルファのソリューションを活用いただくためのアウトバウンドアプローチがメインになっています。

具体的には、過去に獲得した1万以上の見込み顧客のリストをもとに、電話やメールによるアプローチを行っています。LinkedInやFacebookといったSNSも活用して、多くのタッチポイントを設けたKeep in touchを心がけています。デジタルに限らず、手紙を送ったり留守番電話を残したりもします。

冨田:
電話・メール以外の手段も採用しているのは興味深いですね。アプローチの中身が大きく変化したのは、新規の見込み顧客の接点開拓が取り切れたことがきっかけだったのでしょうか?

湯浅:
いいえ。予算をかけずに最大の効果を得るにはどうすればいいかという観点で、活動内容が変化してきました

マーケティング部としては、「このイベントで5,000社の見込み顧客リストを獲得した」という方が、数字としても評価としても分かりやすいです。しかし、ここに費用をかけて本当に効果を得られるのかという様々な分析データから、より効率的な活動へとシフトさせていきました。

冨田:
とても素晴らしいですね。実は私たちも効率的な※リードジェネレーションを行うための工夫を始めており、先日ホワイトペーパーのダウンロードで個人情報を取得しないという決断をしましたが、同じ考え方をして判断したので勇気がもらえました。

※リードジェネレーション
新規見込み顧客(リード)を獲得するための施策。

方針転換によって、過去の活動と今の活動でどのような意識の変化がありましたか?

湯浅:
以前はインバウンド主体での活動だったので、問い合わせ対応のスピードがもっとも重視されました。資料請求が発生したら5分以内に架電する。電話がつながらなければメールで即時フォローする。翌日に電話をして、またメールを送り…というのをセットで行っていました。

冨田:
スピードと量を重視して活動されていたんですね。おそらくその時期は、デイリーの稼働量や接触件数にも重きを置いていただろうと思います。

湯浅:
そうですね。各メンバーのアクティビティ量は、レポートを出して常に見ていました。また、Aチーム・Bチームとチーム分けをして、競争させるような仕組みも採用していました。この時は、月間の目標商談化件数を達成できたチームに、マネージャーがギフト券をプレゼントしていましたね。

冨田:
ゲーミフィケーションの考え方を採用していたのですね。内資系企業では、こうした取り組みはあまり聞いたことがないですが、とてもいいですよね。

湯浅:
BDRというのは、キャリアの中で若手が担当することが多いと思います。BDRを若いうちに経験して、その後フィールドセールスに転向するというのが、キャリアパスとしては多いのではないでしょうか。

若手が多い分、仕事もなるべく楽しみたいという想いがあります。一方で、BDRは効率化を進めすぎると孤独でつらい瞬間も多々あります。チーム内で競争を楽しんだり、「今のコールよかったね」と褒め合える環境を用意する一環として、ゲーム要素が盛り込まれていました。

そこから、現在では保有している見込み顧客のリストにアプローチする活動へと移行しました。

冨田:
おそらく新しい体制に移行する過程で、課題となりやすいのが「商談化率」だと推察しますが、アドビ社ではどうでしたか?

インタビュー アドビ株式会社 #THELEADERS

湯浅:
確かに現在の体制へ移行した時、アポイントや商談化率は大きく減少しました。そのため、現在ではコミュニケーションのスピードではなく、「活動の質」に重きを置いた体制にシフトしています

営業活動の質を高めるための数々の取り組み

冨田:
具体的に、活動の質を高めるためにアドビ社ではどのようなアクションを行っていますか?

湯浅:
大切にしているのは、フィールドセールスとの目線合わせです。BDR側で勝手にアプローチしたい企業群を整理しても、フィールドセールスの希望に沿っていなければ、お互いにとっていいアクションは取れません。そのため、どの企業群をターゲットにしてアポイントを獲得したいのか、フィールドセールスと綿密に打ち合わせするようにしています。

ここでは、「この企業群は※BANT情報のNさえ獲得できていればいい」など、情報の取り方に関するすり合わせも行います。

BANT情報
Budget(予算)、Authority(決裁権)、Needs(必要性)、Timeframe(導入時期)を表す言葉。相手企業への理解を深め、円滑に商談を進めるフレームワークである。

上記に加え、Competitor(競合相手)、Human resources(人的資源)を追加したフレームワークをBANTCH(バントチャネル)と呼ぶ。

冨田:
どのようにして、フィールドセールスとコミュニケーションを取っているのですか?

湯浅:
SFAのチャット機能を用いた、オープンなやり取りを主体にしています。クローズドな場で個別具体的にやり取りをしたい時は、チームコミュニケーションツールのDM機能を使用します。最近はオフィスに出社することも増えているので、直接声をかけてコミュニケーションすることも多いです。

冨田:
フィールドセールスがアプローチしたい企業群を、インサイドセールスがキチンと把握して丁寧にアプローチしてくれるというのは、非常にいいですね。

湯浅:
フィールドセールスは多忙なので、ターゲットの企業にアプローチできないことが少なくありません。そこは私たちBDRが拾いつつ、アポになった後はしっかり対応してもらうことでWin-Winな関係を築いていくべきだと思っています。

冨田:
その他に、見込み顧客とのコミュニケーションで質を高める工夫はされていますか?

湯浅:
お客様と話す際は、相手が何を求めているのかを明確にして、どうすれば次回以降の商談に進めるのかを確認しています

「Adobe Marketo Engage」は商品の特性上、一度の打ち合わせで受注につながることは基本的になく、4〜5回のアポイントを重ねるのが一般的です。この点を、お客様にも事前にご説明します。ファーストコールの段階で次回以降の流れを説明し、◯ヶ月後に選定や契約があるというタイムラインもすべて伝えます。「2回目以降の打ち合わせがある」とお客様にも理解をしていただいた上で、その後の商談を進めていきます。

冨田:
最初の打ち合わせでその後の期待値を調整しつつ、2回目以降の打ち合わせを行う背景や目的を共有するのですね。こうしたコミュニケーション以前に、そもそもコンタクトを取りづらい見込み顧客に対しては、どのように接点開拓を進めているのでしょうか?

湯浅:
大事なのは、電話・メールにこだわらないということです。先ほども少し触れましたが、私はX(旧Twitter)やFacebook、LinkedIn、WantedlyなどのSNSも、お客様とのコミュニケーションに活用しています。

マーケターの方々はSNSに登録していることが多いので、私としては大きなチャンスが眠っていると捉えています。特にWantedlyなどで部署やお名前が特定できる場合、メールアドレスを推測してアウトバウンドメールを送ることもあります。

「この方の上司はどなただろう」と探すことも多いです。「〇〇さんとFacebookでつながりがありますよね?連絡先をご存知ですか?」と、チームメンバーに相談することもあります。

冨田:
コンタクトしやすい方法を、手段を問わず探しているのですね。オーソドックスな方法ではありますが、そこまで徹底している方は非常に少ない気がします。とはいえ、SNSでいきなりメッセージするのも、心理的抵抗が大きい方が多いイメージです。湯浅さんはどのような気持ちで、メッセージを送っているのですか?

湯浅:
こちらとしては、失礼な態度を取らない限りは失うものはないと考えています。もちろん既読無視されることも多いですが、返信があればラッキー!くらいの気持ちでやり取りしています。

相手の印象に残るKeep in touchの秘訣

冨田:
湯浅さんは、現在どれくらいの頻度で見込み顧客にコンタクトを取っていますか? 今のお話を聞いていて、アドビ社のKeep in touchの頻度がとても気になりました。

湯浅:
アドビでは、「必ず電話4回・メール4回を送る」というルールを採用しています。それでも繋がらない場合、掘り起こしの対象に回すという流れです。

特に私の場合、約100社の「ホットリード」に設定したお客様に対しては、MAやSFAとは別にエクセルで管理しつつ、回数ではなくタイミングを見てご連絡するようにしています。その他にも、商談化率が高い傾向にある資料をダウンロードしたお客様には、すかさずアプローチしています。

アドビのマーケティングチームでは「Adobe Marketo Engage」の機能もフル活用しています。取得したアクティビティ情報をSFAと連携することができ、その情報を参考に、各アクションの優先順位を決めています。それ以外にも、「Adobe Marketo Engage」ではある程度見込み顧客をセグメンテーションした上で、パーソナライズされたメールを送ることが可能です。商談化率が高い傾向にある資料をダウンロードしたお客様には、すかさずアプローチできるよう「Adobe Marketo Engage」を通じてアラートメールが送られるように設定しています。

冨田:
とても参考になります。実際にコンタクトを取った後の具体的なアクションとして、例えばフォローメールを送る時に工夫していることはありますか?

湯浅:
小さな取り組みですが、2通目のメールでは必ず、件名に「先日お送りした件(アドビ湯浅)」という文言を記載しています。こうすることで、相手からの関心を引き出しやすくなり、返信率が断然高くなるんです。

冨田:
あ、私もそのメールを受け取ったことがあります…!!たしか2021年の冬頃で、その時は、「現在は検討が難しい」と返信したと思いますが、今でも記憶にあるくらいはっきり覚えてます(笑)これは効果覿面ですね!!!

湯浅:
私も覚えています。この時は、SALES ROBOTICSさんが私にとっての「ホットリード100社」の1社だったんです。私が前職でSALES ROBOTICSさんの競合サービスを扱っていたので、比較的同じ目線で会話ができるという狙いがありました。

※実際のメールのやり取り
※実際のメールのやり取り

冨田:
インサイドセールスというと、どうしても電話などで「何を相手に伝えるか」を意識しがちです。そうではなく、湯浅さんは見込み顧客に対して、どのような文言であれば相手の感情の琴線に触れるかを意識した上で、メールの文言を工夫しているのですね。

先ほどのやり取りのように、「そういえば貴社からメールが来ていました」というやり取りを創出することが、Keep in touchの役割だと思います

湯浅:
大切なのは、「回数と印象」だと思います。いくら回数を重ねても、印象に残らなければ意味がありません。量を意識しつつも、相手の印象に残る顧客体験をいかに演出するかが、インサイドセールスには大切だと思います。

冨田:
とても大切なことですよね。それを体現できているのは、湯浅さんの業務における「徹底力」が非常に高いからだと感じました。今後、湯浅さんはインサイドセールスとしてチャレンジしてみたいことはありますか?

湯浅:
アドビは、「やってみたい」と考えた施策を自由にやらせてくれる環境が整っています。しかもありがたいことに、「TELKETO」を通じて他社のインサイドセールスの取り組みを知る機会にも恵まれています。そこで得た知見を参考に、レターパックでお手紙を送るといった活動を採用したこともありました。今後も、そうした知見やSNSで知り得た施策を自社に反映させて、結果を残していきたいです

冨田:
取材を通して、アドビ社のインサイドセールスのオペレーションについて深く知ることができました。特にKeep in touchの取り組みのお話しは、他社でも大いに役立つ情報だと思います。私も大変勉強になりました。

湯浅さん、本日はありがとうございました!

今回の「THE LEADERS」は、お楽しみいただけましたか?本シリーズでは、今後も各業界で活躍するインサイドセールスのリーダーをお招きして対談を行ないます。次回もぜひ、ご覧ください。

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スマタイ編集部
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