営業フレームワーク「MEDDIC」とは?活用例や注意点を解説

営業活動において、受注確度を高めることは常に重要な課題です。この課題を解決するために活用されるのが、受注確度の予測精度を高め、案件管理を効率化するMEDDICです。

MEDDIC(メディック)は、Metrics(測定指標)、Economic Buyer(決裁権者)、Decision Criteria(意思決定基準)、Decision Process(意思決定プロセス)、Identify Pain(本質的な課題)、Champion(擁護者)の6つの要素の頭文字を取った略語です。

当記事では、MEDDICの基本や活用方法を解説します。従来のBANTフレームワークとの違いや、MEDDICを活用することで得られる効果についても触れているので是非参考にしてみてください。

「MEDDIC」は受注確度を予測するためのフレームワーク

MEDDICは、営業プロセスにおいて、受注確度を予測するためのフレームワークです。 Metrics(測定指標)、Economic Buyer(決裁権者)、Decision Criteria(意思決定基準)、Decision Process(意思決定プロセス)、Identify Pain(本質的な課題)、Champion(擁護者)の6つの要素に分かれており、それぞれの要素を明らかにすることで受注確度の見極めや案件管理を効率化できます。

【MEDDICの6つの要素】
要素概要
Metrics (測定指標)顧客が商品やサービスを購入することで得られる具体的な価値や成果を定量的に示す指標。
収益の増加、コスト削減、生産性の向上などが含まれます。
Economic Buyer (決裁権限者)最終的な購買決定を行う権限を持つ人物。
予算の承認や契約の締結など、最終的な決定を下す責任を負います。
Decision Criteria (意思決定基準)顧客が商品やサービスを選ぶ際の判断基準。
価格、機能、品質、サポート体制など、購買の選定に影響を与える要素が含まれます。
Decision Process (意思決定プロセス)顧客組織内での購買に関する意思決定の流れ。
関与する人物、購買ステップ、タイムラインなどが含まれます。
Identify Pain (本質的な課題)顧客が現在抱えている問題や課題を明確にすること。
提供する商品やサービスがどのようにその課題を解決できるかを示します。
Champion (擁護者)顧客組織内で自社の商品やサービスを積極的に支持し、導入を推進してくれる人物。
社内での影響力があり、提案を前進させるために重要な役割を果たします。

MEDDICは、顧客社内の購買までのプロセスを把握することを目的とするため、BtoBや高額な商材など、購買プロセスが複雑になる案件での活用に適した管理ツールです。

なお、MEDDICはそれぞれの要素の頭文字を並べたものですが、実際の商談で特定する順番とは異なります。実際に商談で特定していく際には、①Identify Pain(本質的な課題)②Economic Buyer(決裁権者)③Champion(擁護者)④Decision Criteria(意思決定基準)⑤Decision Process(意思決定プロセス)⑥Metrics(測定指標)の順番で進めていきます。

「BANT」との違い

MEDDICとBANTは、どちらも営業プロセスで使用されるフレームワークです。しかし、BANTは、シンプルな購買プロセス、MEDDICは複雑な購買プロセスに活用されるという違いがあります。

BANTは、Budget(予算)、Authority(権限)、Needs(ニーズ)、Timeframe(導入時期)の頭文字を取ったもので、比較的少額な案件や、シンプルな購買プロセスに対応するのに適しています。

一方、MEDDICは、BANTよりも顧客の意思決定プロセスに焦点を当てており、大企業や高額な案件など購買プロセスが複雑化する営業に適しています。また、MEDDICは顧客の問題の特定に重点をおくため、顧客の状況やニーズを理解し、より詳細に受注確度を予測できます。

MEDDIC活用の効果

MEDDICの各項目を管理することで、成約までに必要な情報をどこまで把握できているかが可視化されるため、案件の進捗状況や失注リスクの管理、ネクストアクションの設定などに効果が期待できます。

【MEDDICの活用によって期待される効果】

  • 案件管理の効率化
  • ネクストアクションの明確化
  • 失注リスクの管理強化

MEDDICを成約までに必要な情報のチェックリストとして活用することで、案件の進捗状況を可視化できます。

進捗状況の可視化によって案件管理が効率化されるため、マネージャーは個々の案件や営業チーム全体の活動を把握し、指示や支援が可能です。営業担当者もMEDDICによる案件管理で不足している情報や次に取るべきアクションが明確になるため、優先すべきタスクの判断が行いやすくなります。

また、MEDDICを使用することで、案件の失注に繋がる要因を特定し、適切な対策を講じることも可能になります。たとえば、顧客の購買の意思決定プロセスを把握することで、顧客がどのような承認プロセスを経て購入を決定するかを理解することで、必要な情報提供やサポートを適宜行うことが可能になり、停滞や失注のリスクを低減できます。

MEDDICの活用は本質的な課題が重要になる

MEDDICの活用において本質的な課題(Identify Pain)は、商談の初期に行うべき重要なアクションです。顧客の課題に対して適切にアプローチを行うことが、顧客との関係構築や成約率を高めることに繋がるからです。

本質的な課題には、まず「問題」と「課題」の違いを明確に理解する必要があります。「問題」とは、顧客が目指すビジネスゴールが達成できていない状態を指します。一方、「課題」は、そのゴール達成に向けて顧客が現在取り組んでいることと、実際のゴールとの間に存在するギャップを指します。

つまり、顧客が行っている取り組みが問題の解決に繋がっていない理由がIdentify Painです。MEDDICでは、まずこの課題を顧客と一緒に特定するというスタンスでコミュニケーションを取ることが重要になります。

なお、営業が成功しない要因の1つとして、この「課題」に対してアプローチできていないことがあります。そのため、商談の際は、提案する解決策が顧客の課題にどのような効果を与えるかを示すようにしましょう。

MEDDICの要素ごとの活用例

MEDDICの6つの要素の活用例を、商談で特定する順番に従って解説します。

【MEDDICを特定する順番】

  1. Identify Pain(本質的な課題)
  2. Economic Buyer(決裁権者)
  3. Champion(擁護者)
  4. Decision Criteria(意思決定基準)
  5.  Decision Process(意思決定プロセス)
  6. Metrics(測定指標)

Identify Pain(本質的な課題)

Identify Pain(本質的な課題)は、顧客のビジネスゴールの達成を阻害している課題のことです。Identify Painの特定には、顧客の「問題」と「課題」を明確に区別することが重要です。

顧客の「問題」は、「営業のDX化を目指す」や「売上10億達成」といった、ビジネスゴールが達成できていない「状態」を指します。一方、「課題」は、ビジネスゴールを達成するために解決すべき具体的な障壁や取り組むべきことを指します。

営業担当者は、顧客との対話を通じてこの課題であるIdentify Painを特定します。そのため、顧客のビジネスゴールを把握した後は、問題の解決策としてサービスの説明をするのではなく、ビジネスゴール達成の障壁となっている課題を探索していくことが求められます。

なお、Identify Painを明らかにしていくには、営業フレームワークであるSPIN話法が有効です。SPIN話法は、顧客の現状や抱えている課題について段階的に質問することで、顧客自身が気づいていないニーズや課題に気付いてもらうための手法です。

SPIN話法の活用例について詳しく知りたい方は「SPIN話法とは?具体例と活用のポイントを交えて解説」を確認してみてください。

Economic Buyer(決裁権者)

Economic Buyer(決裁権者)は、製品やサービスの購入に関する最終的な決裁権を持つ人物を指します。裏を返すと「拒否権」を持っている人物でもあります。
Champion(擁護者)が導入に前向きであっても、Economic Buyerに却下される可能性があるため、商談化した際はEconomic Buyerの特定が重要です。

Economic BuyerはChampionと異なる場合が多く、商談には出てこない場合もあります。たとえば、スタートアップ企業との商談において、社長が導入に向けて前向きだったのにも関わらず失注してしまった場合、決裁権は出資者が持っている可能性が高いです。
つまり、この商談における社長は、Economic BuyerではなくChampionだったと言えます。

そのため、Economic Buyerを特定するには、まずChampionを把握するところから始めることも検討します。Championが把握できたら「あなたが決めたことを覆せる人はいますか?」と質問することで、Economic Buyerを特定できるようになります。

なお、Economic Buyerへのアプローチでは、Economic Buyerの抱える課題やゴールを把握し、それに合わせた提案を行うことが効果的です。なぜなら、問い合わせをした担当者の多くが使う人であり、買う人であるEconomic Buyerとは抱えている課題が異なるからです。

使う人の課題を理解したうえで、Economic Buyerにどのように提案をしていけば良いかについて、Championと共に考えましょう。

Champion(擁護者)

Champion(擁護者)は、購買の意思決定に影響力を持ち、顧客社内で成約に向けた支援を行ってくれる人物を指します。製品やサービスの実際の使用者であり、Economic Buyer(決裁権者)に影響力を持つ人物がChampionになり得ます。

Championがいる場合、顧客社内での営業活動の代行や競合の排除、社内調整などを行ってくれるため、プロジェクトの円滑な進行が期待できます。

Championを特定するには、自社サービスの押し売りを避け、相手の課題にフォーカスしながら情報を提供するスタンスが効果的です。また、現場クラスの人々に営業活動を行わないことで、内部情報とキーマンを繋いでくれる人物を見つけやすくなります。

【Championになり得る人の特徴】

  • 重要なプロジェクトに関与している
  • 実行力のある人
  • 社内に影響力を持つ人
  • 鋭い質問や良質な質問をする人

ただし、提案するサービスに理解を示し前向きな発言をする人であっても、Championと判断するには注意が必要です。どんなに協力的な人物であっても「購買に対する影響力がある人」でなければChampionではないためです。

Championを見極めるには、「最終の意思決定を行う方(Economic Buyer)に会わせてもらえますか?」という質問が効果的です。Championを見つけたら、協力関係を築けるように積極的にコミュニケーションを取りましょう。

Decision Criteria(意思決定基準)

Decision Criteria(意思決定基準)は、MEDDICにおいて顧客が製品やサービスを評価し、購入を決定する際に用いる基準です。営業担当者は、対話を通じてこの基準を把握し、意思決定基準となる情報を提示します。

【主な意思決定基準4つ】
Decision Criteria(意思決定基準)具体例
投資収益率(ROI)投資対効果や財務面での利点
技術的優位性競合他社と比較した際の技術面での優位性
過去のデータ既存システムとの互換性や過去の実績
学習曲線/使いやすさ導入や運用にかかる労力や時間

たとえば、技術面を重視する顧客には、投資収益率に加えて、技術的優位性を示すために商材のオリジナリティや競合と比較した際の優位性などを提示します。

また、購入までの検討期間が長い商材の場合、購入することが目的になり、費用が安いことや導入までに時間が掛からないなど、本来の課題解決に繋がらないDecision Criteriaを重要視してしまう場合があります。

結果、顧客の課題を解決できない商品やサービスの選択に繋がってしまう可能性があるため、営業担当者は、顧客のDecision Criteriaが課題解決に必要なものから外れないように商談を行いましょう。

Decision Process(意思決定プロセス)

Decision Process(意思決定プロセス)は、顧客組織内での購買に関する意思決定の流れを指します。意思決定には、公式のプロセスと非公式なプロセスの2種類があり、この2つを把握することで、より精度高く購買予測を立てることが可能になります。
Decision Processを把握できていないと、思わぬタイミングで失注してしまったり、契約締結日が先送りになることもあるため、注意が必要です。

営業担当者は、顧客と日付軸でDecision Processを確認し、合意を得ることを目標に活動を行います。

まず、公式なプロセスとして Who, What, How, Whenの4つの要素を把握します。たとえば、稟議を上げる際には、誰がどのような方法(オンライン、紙など)で、どのくらいの期間をかけて実行するのかを明確にします。また、夏季休業や決算期などの季節要因やイベントリスクも確認し、Decision Processに組み込みます。

公式なプロセスが確認できたら、非公式なプロセスを確認します。非公式なプロセスには、稟議や意思決定の前に相談する相手がいるかや、会議体が設定されるかなどがあります。

Decision Processを把握したらカレンダーやシートに記載し管理することで、契約までの流れが可視化されるため、顧客とのすり合わせがスムーズになります。このように、Decision Processの把握によって、進捗状況の確認が容易になり、購買予測の精度を高めることが可能です。

Metrics(測定指標)

Metrics(測定指標)は、MEDDICにおいて顧客が製品やサービスを導入することで得られる効果や利益を定量的に示す要素です。Metricsを明確にすることで、提案の際に顧客が自社の製品やサービスの導入に求める効果や利益を示すことができるため、説得力のある営業活動が可能となります。

【Metricsの具体例】
Metrics(測定指標)具体例
売上増加新しいCRMシステム導入により1年以内に売上20%増加
コスト削減自動化ソリューションで運用コスト30%削減
生産性向上新プロジェクト管理ツールでプロジェクト完了時間25%短縮
市場シェア拡大マーケティング強化で市場シェア10%拡大

Metricsを提示するには、まず顧客が目標とするビジネスゴールをヒアリングし、現状の実積を数値化して改善の余地を洗い出します。そして、自社の製品やサービスを導入することで得られる効果を具体的な数値にします。

MEDDICの活用における注意点

MEDDICの各要素を特定するためには、事前調査やヒアリング、情報をもとにした仮説構築など営業における基本的なスキルが求められます。MEDDICの特定にこだわり、コミュニケーションが疎かになれば、失注の原因になってしまいます。

そのため、営業担当者は、受注確度をあげるためにMEDDICを抑えに行くという認識を持つ必要があります。たとえば、MEDDICの把握が目的になってしまい「決裁権者(Economic Buyer)はどなたですか?」と繰り返し質問を行ってしまえば、顧客との信頼関係を構築できなくなってしまいます。

また、営業活動のマネジメントにおいてもマネージャーは、無理にMEDDICを聞き出させないように注意が必要です。不足している情報があれば、引き出すためのアドバイスや商談などの同席によって、MEDDICの特定に向けたフォローを行いましょう。

MEDDICを発展させたフレームワーク

MEDDICをもとに発展したフレームワークとして「MEDDICC」と「MEDDPICC」の2つがあります。

「MEDDICC」は、MEDDICの6つの要素に「Competition(競合)」を追加した7項目のフレームワークです。Competition(競合)により、競合他社の存在や影響を分析することが可能になり、自社の製品やサービスの独自性をいかす営業アプローチが可能になります。

一方、「MEDDPICC」は、MEDDICに「Competition(競合)」と「Paper Process(契約手続き)」を追加した8項目のフレームワークです。「Paper Process」の追加により、契約締結までの手続きや必要な書類、承認プロセスなどを事前に把握し、スムーズな契約締結を促進します。MEDDPICCは、複雑な契約プロセスを持つ大企業や公共機関との取引において有効なフレームワークです。

まとめ

MEDDICは、受注確度の予測精度を高めるフレームワークです。Metrics(測定指標)、Economic Buyer(決裁権者)、Decision Criteria(意思決定基準)、Decision Process(意思決定プロセス)、Identify Pain(本質的な課題)、Champion(意思決定者)という6つの要素で構成されています。

MEDDICの活用には、Identify Pain(本質的な課題)が特に重要です。本質的な課題には、課題と問題の違いを理解する必要があります。「問題」は、顧客が目指すビジネスゴールが達成できていない状態のことです。「課題」は、ゴール達成に向けて顧客が取り組んでいることと、ビジネスゴールの間に存在するギャップです。

なお、MEDDICの活用には高度な営業スキルが求められます。情報を収集するだけでなく、顧客との信頼関係を構築しながら、適切なタイミングで必要な情報を引き出すことを意識しましょう。

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スマタイ編集部
スマタイの記事を制作している編集部です。
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