研究職が挑むインサイドセールスの謎 タイミー 新川諒弥 #THELEADERS
現場で活躍するインサイドセールスのキーマンに、SALES ROBOTICSの冨田貴徳が取材する連載企画「THE LEADERS」。
今回のゲストは、東証グロース市場に新規上場し話題の株式会社タイミーで、インサイドセールスのリーダーを務められている新川諒弥さんです。
タイミー社が提供するサービス「タイミー」は、面接・登録会・履歴書といった手順を踏まず、アルバイトを始められます。働きたい時間は最短1時間から選択可能。企業側の「働いてほしい時間」と働き手の「働きたい時間」というニーズをマッチングしてくれるのが、タイミーの特徴です。
同社のインサイドセールスチームのリーダーとして活躍する新川さんは、前職は研究職で、営業経験なしという経歴でタイミー社に転職しました。転職後、新川さんは2つの大きな失敗を経験したと語ります。
失敗経験からの学びや、現在の仕事内容や今後の展望とともに伺いました。
(執筆:サトートモロー 編集:いいたかゆうた 撮影:小林一真)
新川諒弥
株式会社タイミー マーケット推進部 インサイドセールスG
新卒で大手製薬会社の子会社で研究職・工場の生産計画管理職を経験。2022年にタイミーに入社し、インサイドセールス(BDR)として1年半プレイヤーを経験。その後、現在までインサイドセールスチームのチームリーダーとして、インサイドセールスの科学に挑戦中。
生産管理とインサイドセールスは一緒だ
冨田:
新川さんのこれまでのキャリアについて教えていただけますか?
新川:
私は新卒で、大手製薬会社の子会社に入社しました。
同社は医療用医薬品や治験薬などの製造をおこなっており、私は入社後、約3年半にわたり研究所にて新薬の品質研究に携わりました。その後、隣接する工場に異動して、いつ・どの製品を・どのくらいの人員を割いて製造するかといった計画管理を1年経験したのち、2022年1月にタイミーへ入社しました。
冨田:
前職で研究職などを勤め上げた新川さんが、どのようにしてタイミー社とインサイドセールスに出会ったのか、とても気になります。
新川:
タイミーとの出会いは本当にたまたまでした。弊社代表取締役の小川嶺が、2021年12月にX(旧Twitter)に、2023年卒業予定の新卒採用を実施しているという投稿を見かけました。
ちょうど転職活動中だった私は、そのときはじめてタイミーや提供するサービスについて知りました。小川の過去の投稿を見て、タイミーのサービス内容に心惹かれていきました。また一歳下の小川が、経営者として大きな事業を動かしていることにも興味を持ったんです。私はすぐに、「新卒4年目なのですが、選考を受けられますか?」と小川にDMしました。そこからは順調に面談が進み、2週間後の2022年1月にはタイミーで働くことが決定しました。
冨田:
ものすごい行動力ですね。
新川:
ちなみに、インサイドセールスという職種を知ったのは転職活動中です。転職エージェントの方などから、「この本は面白いのでぜひ読んでみてください」と、福田康隆さんの『THE MODEL』をおすすめされたんです。試しに読んでみたところ、想像以上に書かれている内容に興味をひかれました。インサイドセールスという職業に抱いた第一印象は「工場の生産管理と一緒だ」でした。
私が担当してきた業務のなかに、「生産管理」という考え方があります。例えば、100のインプットを通じて50個の製品が出来上がるとした場合、ここには50の“ロス”が生まれているということになります。生産管理では、ボトルネックを見つけ出して50のロスを減らし、生産効率を高めるようなアプローチをおこなうんです。
この考え方は、インサイドセールスの獲得した商談が受注にいたるまでの工程において、属人性を排してコンバージョン(契約)を高めるTHE MODELと同じだと思いました。
冨田:
研究職をされていた前職との意外な共通点を見出したなかで、タイミー社に入社したのですね。
リストの質を高めるための準備で勝負は決している
冨田:
実際にインサイドセールスの業務をはじめて、苦労したことや失敗談などはありますか?
新川:
大きく2つ思い浮かびます。最初の失敗は、入社した直後のことです。インサイドセールスチームに配属された後、約半年間にわたってKPIを達成できないという成績が続いたんです。
生産管理とTHE MODELには「工程を細分化してボトルネックを発見する」という共通点があると感じていました。具体的には、「製造 / 営業工程を細かく分け、どの工程でロスが多く発生しているのかを発見し改善する」といったように、取り扱う対象が物作りか営業かの違いしかないと考えていました。
それに加え、私は、定量数値の取得・分析や統計学のスキルを自負していたため、取得した数値を統計学的な知見を用いて分析できれば業務改善や大きな成果につながると考えていたのです。しかし、実際に業務を進めていくにつれて痛感したのは、営業の難しさでした。
私には、営業トーク全般のスキルやフレームワーク、リストマネジメントスキル、量をこなす体力とメンタルといった、基本的な営業スキルが備わっていませんでした。
特に、もう一歩踏み込んだ提案をするという「営業の押し引き」に苦戦し、SPINやFABなどのトークのフレームワークを学ぶことで一歩ずつ解決していきました。
そのスキルセットを取得するために試行錯誤する日々が「営業って難しい」と感じるタイミングでしたね。
また、活動の改善をするタイミングでも壁にぶつかりました。経験というデータが手元にない私は、インサイドセールスで何をすべきなのかがまったく分からなかったんです。改善するにしても、その糸口すら見つけられずにいました。
冨田:
新川さんと同じ悩みを抱えているインサイドセールスの方は少なくないと思います。八方塞がりの状況から、どのように打開策を見出したのですか?
新川:
私はとにかく、成功者のやり方を学びそれを徹底的に真似るようにしました。私のインサイドセールスの師匠は、入社当時にチームリーダーだった人です。
師匠の考え方は、「リストの質をどれだけ高められるか。その準備の段階で勝負は決している」というものでした。リストの質とはなにか、質を高めるために必要な要素はなにかを、師匠から徹底的に教えられました。
冨田:
師匠さんから教わった、リストの質を高めるために必要な要素とは何だったのでしょうか?
新川:
まず前提として、私が学んだリストの質は、見込み顧客との関係性と必要性の2軸のバランスで決まります。
関係性と必要性が高い企業様が手元に多ければリストの質は必然的に高くなり、逆に関係性が高くても必要性がない企業様が多ければ質は低くなります。
このような四象限を書いてみて、「自身が担当している企業様が多く当てはまっているのは、どの象限なのか」を確認するとリストの質を可視化することができます。
その状態を元に、ボトルネックを特定し、改善のアプローチをかけていきます。
例えば、関係性の軸を上げるためには「階段を登るように、提案が接続回数に応じてパーソナライズされているか」「相手の話量の測定」 の2つに着目すると良いと思っています。
また、必要性を高めるためには、まずペルソナ設定を適切に行った上でPDCAを回すことが重要です。ペルソナ設定がしっかりと確立されれば、あとは関係性の向上に取り組むのみです。
師匠に言われたことを意識しながら、私は時間をかけてリストを作成し、翌朝に架電して何件アポが取れたのか、そもそも何件のリストがつながったのかを数字でまとめていきました。そして、ハイプレイヤーと同水準の数字を達成するには、何をすればいいかを毎日考えて行動を重ねていったんです。
冨田:
なるほど。リストでは、見込み顧客との関係性と必要性の2軸のバランスを重視されているのですね。リストの作成・架電のアクションでは、どのようなことを意識しましたか?
新川:
リストの作成では、必要性の向上を意識して取り組みました。
まず必要性に関しては、事前のリサーチによってある程度向上が見込めます。
これはサービスの性質によって見るべき項目が変わるため、一概に正解はないですが、競合他社のサービスを利用しているお客様や、契約意欲が高いお客様についてのペルソナを設定していきました。
その次に、ペルソナが人手不足を感じた際に、WEB上でどのような行動を起こすか項目を洗い出し、より温度感の高い行動に対して高いポイントを付与し優先順位を明確にするということを継続的に行いました。
そのうえで、「総合的に◯点以上のお客様はタイミーを求めている」と考えたんです。
その成果として、チーム単位で見ると、KPI達成率が他チームと比べ30%ほど上振れて達成したこともありました。
冨田:
マーケティングオートメーションのスコアリングのような方法を用いて、取得できる情報をもとにリストに対して重み付けをして、優先順位をつけていったのですね。
検証を1度だけ行うのではなく、成果が出ない間も続けていったことが素晴らしいです。私も10数年前、上司から「リストにこだわりを持て」と言われ続けたのを思い出しました。
新川:
架電時のアクションでは、関係性の向上を意識しています。
まず、接続時に断られたお客様に対して、ネクストアクションが設定できているかの確認は必須です。
「では、次回はこの時期にお電話します」や「この情報をおまとめしてお電話します」など、毎回の電話で次の約束が取り付けられていれば、少しずつでも話は進展しますし、単純に接触回数が増えれば増えるほど、込み入った話ができる関係性が育つと考えています。
また、調べた企業情報から具体的な「課題仮説」とその「解決策」をもって架電することも大切にしています。
提案側の立場ですので、その提案がお客様にとって価値があり、会社のことを思ってくれていると感じていただけるように、会社HPや求人情報だけでなく、社長のインタビュー記事なども確認し、話に盛り込むようにしています。
追うべき指標を「接続数」ひとつに定めた
冨田:
もう1つの失敗はなんですか?
新川:
私は昨年5月から、※BDRチームのチームリーダーを担当しています。新しい役目を任されて、気合たっぷりにいろいろなチャレンジに取り組んだことが、2つ目の失敗です。
※BDR(Business Development Representative)
アウトバウンド対応がメインのインサイドセールス。「新規開拓型」の営業手法とも呼ぶ。
私の強みは数字を読み解く能力に長けていることと、数字をもとに戦略を立てて行動できることにあると自負しています。しかし、リーダーに着任した当初は気合いが空回りしてしまい、「とにかく架電するぞ」とチームに発破をかけていきました。要は、自分のカラーに合わないことを始めてしまったんです。
すると、みるみるうちにチームは疲弊していきました。前期にもっとも成績が高かったチームは、私がリーダーに着任後、KPIが未達という結果に陥ってしまいました。
冨田:
最初の失敗は「個人の未達」でしたが、2つ目の失敗では「チームの未達」を経験したのですね。そこから脱却するために、どのような工夫をしてきましたか?
新川:
大小さまざまな取り組みを進めましたが、もっとも重要な変化は見るべき指標を「接続数」ひとつに定めたということです。
冨田:
なぜ、日々追いかけるべき数字として接続数を設定したのでしょうか?
新川:
リーダーになった前期は、1日の架電数や商談獲得数などさまざまな指標をもとに活動しましたが、なかなかうまくいきませんでした。見るべき数字を増やした結果、チーム全体の行動が分散してしまったんです。
例えば、「1日1商談獲得しましょう」という指標を設定した場合、1架電目で商談が取れればその日の業務は終了ということになります。このような業務量のバラつきが、どの指標を用いても起こってしまったんです。
ある時、メンバーの行動から導き出した特筆すべき数値に着目し、過去のデータと照合した結果、接続数が最優先で追うべき数値だということが判明しました。
追うべき指標が具体的になったことで、メンバーへの行動喚起も行いやすくなり、チームのKPI未達を打破するきっかけとなりました。
冨田:
接続数という共通認識を持つことによって、メンバーの皆さんは自分の行動をコントロールできるようになったのですね。
急成長する組織のこれからの取り組み
冨田:
新川さんはBDRチームのリーダーということでしたが、タイミー社のインサイドセールスチームはどのようなチームで構成されていますか?
新川:
弊社のインサイドセールスチームは、大きくBDRと※SDRに分けられています。部門全体で見ると、ここ2年で、組織は約6倍にまで増えました。
※SDR(Sales Development Representative)
インバウンド対応がメインのインサイドセールス。「反響型」の営業手法とも呼ぶ。
インサイドセールスチームは、お客様の規模によって3つのチームに分類されています。そのうちの一つはエリアごとに区分されており、私は中四国・九州全域のマネジメントを担当しています。
冨田:
短期間で大幅に組織が拡大したのですね。先ほど、新川さんの経験からBDRチームでの指標の設定などをお話しいただきましたが、タイミー社全体として重視している指標や定性的な情報などはあるのでしょうか?
新川:
それでいうと、お客様の繁忙期を重要な定性情報としてチェックしています。繁忙期は「人材が欲しい」というニーズが生まれるタイミングであり、ここで架電できれば次のアクションにもつながりやすくなります。
各業界・各企業の繁忙期を把握して、商談の過去データから受注率が最大化されたアプローチタイミングを割り出し、データを元にアプローチを開始します。
冨田:
繁忙期に向けてアクションをするという前提で、タイミングやToDoが設定されているのですね。とはいえ、すぐに興味を持っていただけないお客様もいると思います。
インサイドセールスでは、そうした見込み顧客へのフォロー(ナーチャリング)が必要ですが、そのようなお客様に対してどのような活動をおこなっていますか?
新川:
タイミーでは、MAツールを用いたナーチャリング活動を行っています。
具体的には、ファーストタッチである程度の※BANT情報を回収し、その内容に沿ってステップメールをお送りします。そして、ステップメールのリンクを踏むといったアクションの情報をMAツールで集めて、次の架電に向けての仮説やシナリオを立てていきます。
BANT情報
Budget(予算)、Authority(決裁権)、Needs(必要性)、Timeframe(導入時期)を表す言葉。相手企業への理解を深め、円滑に商談を進めるフレームワークである。
上記に加え、Competitor(競合相手)、Human resources(人的資源)を追加したフレームワークをBANTCH(バントチャネル)と呼ぶ。
冨田:
インサイドセールスにおけるナーチャリングは、まだまだ科学されていない要素でもあると私は考えています。タイミー社でのナーチャリングの取り組みが、今後どのような成果を生むのかが非常に楽しみです。
インサイドセールスを科学して生産性を高める
冨田:
短期間で大きく成長したタイミー社のインサイドセールスチームですが、急拡大した組織の活動を支えていくにあたり、リーダーは多くの苦労があると思います。特に、チームが安定的に成果を上げるうえで、再現性を高めることは必要不可欠です。
リーダーとして、チームを成長させるためにどのようなことを意識していますか?
新川:
成果の再現性を高めるうえで、第一歩として意識したことは徹底的な数値化でした。
タイミーに入社して私たちのチームに配属される人は、ほとんどインサイドセールスの経験がありません。そんなメンバーに対して、見るべき数値や指標、それらが意味するもの、数値に対して取るべき行動などを、配属初期でどれだけインプットできるかが非常に大切です。
インサイドセールスチームでは毎週2回、すべてのメンバーと1on1を行います。そこで各メンバーの数字と平均値を比較して、差異が生まれている要因を一緒にレビューします。架電時の言葉選びやリストの質など、どこが問題なのかを細かく議論しつつ、一週間の行動を決めていくんです。
特に、私が重視しているリストの質については、メンバーのリストも必要性と関係性の2軸で健康状態をチェックしています。
また、接続率などの各転換率についても細かくチェックしており、週次で見た転換率の推移からリストの状態を推しはかりつつ、週間目標をショートしないための設計を行なっています。
冨田:
毎週、しかも全メンバーとおこなうというのがすごいですね…。新川さんはどのようなスケジュールで業務をしているのですか?
新川:
まず、毎週月曜日と金曜日は丸1日かけてメンバーとの1on1に時間を充てています。月曜日はレビューをしてその週の戦略を決めて、金曜日はトークテーマを決めずメンバーと話すようにしているんです。
火曜日・水曜日・木曜日は、中四国エリア・九州エリアそれぞれの支社に所属するフィールドセールス・カスタマーサクセスのリーダー職との打ち合わせの時間にあてています。打ち合わせの内容は、主に短期・中期・長期の戦略のすり合わせ、データの確認などです。
それ以外にも、他のチームとの戦略の共有、ナーチャリングの仕組み化のための打ち合わせなど、無数のプロジェクトを動かしているうちに1日が終わります(笑)。
冨田:
多忙な日々を送っているということがよく分かりました(笑)。今後、タイミー社のインサイドセールスチームで挑戦していきたいことはありますか?
新川:
私が戦える武器である研究職時代の経験を活かして、営業職として突き抜けていきたいと考えています。
例えば、私が担当するBDRではアウトバウンドコール、コールドコールが基本だというのが業界の認識ですが、ファーストタッチ以降では別のアプローチも必要です。そこで、私が持つデータ活用の知見と営業での知見をうまく組み合わせた「アウトバウンド×マーケティング」「アウトバウンド×データアナリティクス」に挑戦したいなと考えています。
インサイドセールスを科学して、どうすれば生産性を高められるのかを解き明かしていきたいです。
冨田:
新川さんのさらなる活躍と、タイミー社のインサイドセールスチームの活動や成果についても、引き続き注目したいと思います。
新川さん、本日はありがとうございました!
今回の「THE LEADERS」は、お楽しみいただけましたか?本シリーズでは、今後も各業界で活躍するインサイドセールスのリーダーをお招きして対談を行います。次回もぜひ、ご覧ください。
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