カスタマーサクセスの立ち上げ手順と成功ポイントを解説

ITの発展やサブスクリプションモデルの普及によって、カスタマーサクセスを導入する企業が増えています。カスタマーサクセスとは、顧客との長期的な関係構築を重視し、顧客の成功を支援する概念および活動のことで、専門的な知識やスキルが不可欠です。
そのため、社内にノウハウがないとカスタマーサクセスの立ち上げに失敗してしまう場合も多く、綿密な計画と準備をもってカスタマーサクセス組織の環境整備を進めていく必要があります。
当記事では、カスタマーサクセスの立ち上げ手順と成功ポイントを解説します。カスタマーサクセスの立ち上げを成功させたい人は、是非参考にしてみてください。
カスタマーサクセスの導入パターン
カスタマーサクセスの立ち上げには複数の導入パターンがあります。導入パターンは、カスタマーサクセスの知識レベル、ノウハウの有無、リソース量などによって異なります。
カスタマーサクセスの導入パターンを知ることは、自社に適した立ち上げ方法の選択に役立ちます。導入パターン別にメリットやデメリット、想定される課題を把握しておくことで、カスタマーサクセスの成果の最大化が期待できるようになるためです。
これにより、自社の状況や目的に合ったアプローチを明確にし、リスクを最小限に抑えた導入計画を立案するための指針を提供します。
導入パターン | 詳細 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
内部登用 | 既存の従業員で組織を編成する | 既存リソースの活用でコストを削減 | リソースやノウハウが足りないと育成までに時間とコストがかかる |
外部登用 | 外部から立ち上げ経験者を採用する | 即戦力となる人材を社内リソースに加えて立ち上げを迅速化 | 適切な人材の確保が難しく採用コストがかかる |
BPOの活用 | 外部の専門企業に立ち上げ作業や運営業務を委託する | 社内リソースの節約でコア業務への影響を軽減 | 内部コントロールやコミュニケーションに不安が生じる |
コンサルティング会社の利用 | コンサルティング会社から伴走支援を受ける | 専門家の助言や最新のベストプラクティスの導入 | 長期的な視点で導入効果を検証する必要がありコストがかかる |
パートナーシップの構築 | パートナー企業と連携して組織を編成する | ノウハウやリソースの相互活用によってコストを削減 | 協力関係の維持が難しい、調整コストが発生、情報漏洩リスクがある |
内部登用は、社内にリソースやノウハウがあれば比較的低コストでカスタマーサクセスを立ち上げられます。既に顧客対応やカスタマーサクセス業務に適した人材がいる場合に有効です。従業員のスキルアップとモチベーションの維持が課題となるため、OJT体制の強化や評価制度の構築に取り組むことが求められます。
一方、外部登用は、即戦力となる経験者を社内に採用することでカスタマーサクセスの立ち上げを迅速化できます。新たな人材の定着支援としてメンター制度の導入や社内交流の促進に取り組むと早期に成果を上げられる可能性が高まります。
また、コンサルティング会社の利用は、専門家の伴走支援によって客観的な視点で分析でき、より正確な現状把握や課題特定が可能になります。ただし、導入効果は長期的な視点で検証しなければならず、ランニングコストを考慮しながら慎重に検討する必要があります。
なお、カスタマーサクセスの導入パターンは複数を組み合わせることでハイブリッドアプローチが可能になり、各手法の長所を活かした柔軟な運営が実現します。運営体制の複雑化や管理コストの増加などの課題には、各手法間の連携最適化と統一的なガバナンス体制の構築を徹底して対策し、各手法の特性を最大限に活用しましょう。
カスタマーサクセスの立ち上げ手順
カスタマーサクセスの立ち上げは、全体像を把握した上で段階的に進める必要があります。一連の業務プロセスを手順に従って体系化することで、リソース配分や業務改善が効率的かつ効果的に行えるようになります。
特に立ち上げの初期段階では、小さな成功体験を積み重ねていくとチーム全体のモチベーション向上に繋がります。また、成功事例を社内で共有しながら次の段階へ進めることで、カスタマーサクセスの立ち上げに関する社内理解を深めることができます。
・組織基盤の構築 ①顧客の成功を定義する ②組織モデルを選ぶ ③ツールを導入する ・実行計画の策定 ④プロジェクトを管理する ⑤業務フローを構築する ・人材育成 ⑥スキルセットを定義する ⑦トレーニングを実施する ・組織体制の整備 ⑧部門間連携を強化する ⑨リスク管理を徹底する |
組織基盤の構築
カスタマーサクセスの立ち上げは、顧客の成功を一貫して支援するための組織基盤を構築することから始まります。組織基盤とは、組織体制、業務プロセス、企業文化、およびITシステムのことです。
組織基盤を構築する手順は、顧客の成功を明確に定義し、最適な組織モデルを選択した上で適切なツールを導入します。組織基盤が脆弱だと部門間連携がうまく取れなかったり、情報共有が不足したりする可能性があるため、手順に従って組織基盤を固めていきましょう。
【組織基盤の構築】
①顧客の成功を定義する ②組織設計を行う ③ツールを導入する |
①顧客の成功を定義する
顧客の成功を定義することは、カスタマーサクセスの方向性を決める重要なプロセスです。カスタマーサクセスでは顧客の成功に基づき、顧客のライフサイクル全体を通して適切なタッチポイントやアクションを設計する必要があるためです。
カスタマーサクセスは直訳で「顧客の成功」を意味しますが、これは顧客が単にプロダクトを利用できていることではなく、顧客が抱える課題を解決して目標を達成することを目的としています。
目的 | 詳細 | 評価指標 |
---|---|---|
目標達成 | 顧客がプロダクトの導入によって目標を達成しているか | 顧客獲得単価、顧客維持率、コスト削減率など |
顧客満足度の向上 | 顧客がプロダクトや企業との関係に満足しているか | NPS(ネット・プロモーター・スコア)、顧客満足度など |
費用対効果の向上 | 顧客がプロダクトに投資した対価に見合うだけの成果が出ているか | 投資利益率、顧客獲得コストなど |
継続的なプロダクトの活用 | 顧客がプロダクトを継続して利用しているか | 契約更新率、アップセル・クロスセル率など |
従業員の満足度向上 | 顧客企業の従業員がプロダクトを有効活用し、業務の効率化やモチベーションの向上を実感しているか | 従業員エンゲージメント、従業員満足度指数など |
顧客の成功を定義する要素は、個々の目的とそれに対する評価指標です。KPI(重要業績評価指標)は目標の達成度を定量的に把握でき、測定と分析を定期的に行うことで組織体制の整備や施策の改善に役立てることができます。
顧客の成功を明確に定義することは、以下の効果をもたらします。
・カスタマーサクセス活動の効率化と施策の効果向上
・顧客との信頼関係の深化と契約継続率の向上
・長期的な収益成長とブランド価値の向上
この定義は、カスタマーサクセス組織の基盤を構築するための第一歩であり、顧客との長期的なパートナーシップを築くための鍵となります。
なお、顧客の成功の定義は、企業側の視点だけではなく、顧客のビジネスモデルや業界特性、抱えている課題などを深く理解し、顧客と共に成功像を描くことが重要です。定期的に見直しながら、市場の動向や顧客のニーズの変化に合わせて柔軟に対応していきましょう。
②組織設計を行う
カスタマーサクセスを立ち上げる際は、自社に適した組織設計を行うことが重要です。効果的なカスタマーサクセス組織を設計するためには、主に以下の3つの側面を考慮し、自社の事業規模、顧客属性、提供するサービスの特性に応じてこれらを組み合わせる必要があります。
(1)組織構造
カスタマーサクセスマネージャー(CSM)の配置や役割分担の基本的な形
(2)エンゲージメントモデル
顧客セグメントに対する関与の深さや方法
(3)セグメンテーション
顧客を分類し、上記(1)(2)を適用する基準
これらの側面を踏まえた適切な組織設計を行うことで効率的な人材配置が可能となり、顧客対応の品質向上やROIの最大化を目指すことができます。
ここでは、これらの側面に関連する代表的な組織の考え方やモデルについて説明します。
【カスタマーサクセスの代表的な組織モデル】
構造/役割 | 詳細 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
オールラウンダー型 | 一人の担当者が契約後の顧客ライフサイクル全体を一貫して担当する | 顧客との関係性を深めやすく、顧客の声を直接的に把握できる | 担当者の負担が大きく、専門性の低い業務にまで時間が割かれる可能性がある |
スペシャリスト型 | 顧客対応、オンボーディング、アップセルなど、専門の担当者がいる | 各分野における専門性が向上し、効率的な業務遂行が可能 | 部署間の連携が重要となり、コミュニケーションコストがかかる場合がある |
担当制 | 特定の顧客に対し、専任のCSMを割り当てる | 深い関係構築、個別最適化された支援が可能 | 一人当たりの担当顧客数が限られる |
プール型 | 特定の顧客群やタスクに対し、CSMチームで分担して対応 | 効率性、スケーラビリティが高い | 顧客との個別関係は希薄になりがち |
セールス連携型 | カスタマーサクセスがセールスに関わる業務も担当する | 顧客との関係性を活かし、アップセルやクロスセルの機会が増やせる | 業務範囲が拡大し、顧客フォローが後回しになる可能性がある |
モデル | 特徴 | 主な対象顧客 | 手法例 |
---|---|---|---|
ハイタッチ | CSMが個別最適化された深い関係性を築き、戦略的パートナーとして長期的に伴走 | 大企業、主要顧客、高LTV/高ARR顧客層 | 定例MTG、QBR、個別トレーニング、役員レベルの関係構築 |
ロータッチ | 比較的多くの顧客を担当し、1対多のアプローチ(ウェビナー等)も組み合わせて効率的に支援 | 中堅企業、中規模顧客層 | 定例ウェビナー、ワークショップ、メールプログラム、ヘルススコアに基づく部分的個別フォロー |
テックタッチ | テクノロジー(製品内ガイダンス、自動メール、ナレッジベース等)を活用し、人的介在を最小限に抑えたスケーラブルな支援 | 中小企業、小規模/多数顧客層 | 製品内チュートリアル、自動化されたTipsメール、FAQ/ナレッジベース、コミュニティフォーラム、自動ヘルスアラート |
基準 | 内容/考慮点 |
---|---|
顧客価値 | ARR、LTV等をもとに分類 エンゲージメントモデル決定の最重要要素 |
企業規模 | エンタープライズ、ミッドマーケット、SMBなど、ニーズや導入プロセスが異なる場合が多い |
業界 | 特定の業界知識やユースケースに合わせた支援が必要な場合に有効 |
地域 | 担当エリア等に応じて分類 |
その他 | プロダクトライン、顧客の成熟度、特定ニーズなど、ビジネス特性に応じて設定 |
このように、最適なカスタマーサクセス組織の設計は、画一的なモデルを当てはめるのではなく、「セグメンテーション」によって顧客を分類し、各セグメントに対して「組織構造」と「エンゲージメントモデル」を適切に組み合わせることが重要です。
例えば、事業規模が小さく顧客数が初期フェーズの場合は、まず「オールラウンダー型」の「担当制」で「ハイタッチ」に近いエンゲージメントを提供することが考えられます。
一方、事業規模が大きく顧客数が多岐にわたる場合は、「顧客価値」や「企業規模」などで顧客をセグメンテーションし、高価値セグメントには「スペシャリスト型」の「担当制」で「ハイタッチ」なエンゲージメントを、中・低価値セグメントには「プール型」で「ロータッチ」や「テックタッチ」中心のエンゲージメントを提供するなど、複合的な体制を構築することが一般的です。
また、エクスパンションのポテンシャルに応じて、セールス型の要素を取り入れることもあります。
重要なのは、単一のモデルに固執するのではなく、自社の顧客特性、事業フェーズ、リソースに合わせてこれらの要素を柔軟に組み合わせ、継続的に見直していくことです。
③ツールを導入する
カスタマーサクセスの立ち上げにおいてツールの導入は活動の効率化やデータに基づいた意思決定を進める上で重要な要素となります。カスタマーサクセスツールは複雑化した顧客との関係性を効率的に管理し、多様な顧客データを統合・分析することで顧客一人ひとりに最適なアプローチを可能にします。
自社のカスタマーサクセスに適したツールを選定するには、現時点での抱えている課題や達成すべき目標を明確にする必要があります。顧客データの一元管理、業務の効率化、顧客体験の向上、チーム連携の強化といった具体的な目的を定義すると成果測定がしやすくなり、ツール選定の軸が定まります。
目的 | ツール | 機能 | 特徴 |
---|---|---|---|
顧客データの一元管理 | CRM(顧客関係管理) | 顧客情報の集約・管理、顧客とのインタラクション履歴の記録 | 顧客一人ひとりの理解を深め、パーソナライズされた対応が可能 |
CDP(カスタマ―データプラットフォーム) | 様々なチャネルから顧客データを収集・統合、包括的なプロファイルの作成 | 大量のデータを高速に処理し、分析に適した形で提供する | |
業務の効率化 | ヘルプデスクチケットシステム | 顧客からの問い合わせ対応の効率化、解決履歴の管理 | 迅速な対応と顧客満足度の向上に貢献、対応状況の可視化で抜け漏れを防止 |
チャット | リアルタイムでの顧客対応、コミュニケーションの円滑化 | 顧客との距離を縮めてサポートを迅速化 | |
AIチャットボット | 顧客からのよくある質問への自動応答、問い合わせ対応の効率化 | 人工知能の活用で24時間365日のサポート体制を実現、一次対応の自動化で担当者の負担を軽減 | |
顧客体験の向上 | プロダクトアナリティクス | プロダクト利用状況の分析、顧客行動の可視化 | プロダクトの改善や顧客体験向上に繋がるインサイト獲得、利用状況に応じた能動的サポート |
サーベイ | 顧客満足度調査、フィードバック収集 | 顧客の声を聞きプロダクトの改善に活用、不満の早期発見と対応 | |
チーム連携の強化 | BI(ビジネスインテリジェンス) | ダッシュボードやレポートなどの形式で情報を可視化し、データに基づいた意思決定を実現 | データの共有・透明性の向上・共通認識の醸成などを通じて協働を促進 |
CRMツールやCDPツールで顧客データが一元管理できるようになると、顧客との接点を全チームに共有でき、抜けや漏れのない対応が可能になります。さらに、自動対応機能を備えた業務効率化ツールを併用することで顧客対応の効率化と迅速化が実現できます。
カスタマーサクセスにおいて最も重要なのは顧客の成功です。プロダクトアナリティクスツールやサーベイツールは顧客の成功を能動的に支援し、よりパーソナライズされた対応によって顧客体験の向上とリテンション率の改善に貢献します。
顧客データの活用や業務の効率化が進むとチーム連携の活性化に繋がります。さらなる連携強化には、BIツールなども検討してみましょう。BIツールはデータを集約・分析し、分かりやすい形で可視化することで、チーム全体が同じデータに基づいた意思決定を行うことを支援します。
なお、「【目的別】カスタマーサクセスツール19選を選び方とともに解説」では、カスタマーサクセスツールを導入するメリットや選び方についても説明していますので是非参考にしてみてください。
実行計画の策定
実行計画の策定は、カスタマーサクセス成功への道筋を明確にします。チーム全体で実行計画を共有して共通認識を深めると各段階での進捗状況が把握しやすくなります。
カスタマーサクセスの実行計画の基盤は、プロジェクトの管理と業務フローの構築です。プロジェクトの管理によって計画達成のための工程管理、進捗管理、課題管理を行い、業務フローの構築によって顧客との接点を効率化し、一貫したサービス提供を実現します。
実行計画を策定することで軌道修正や対策が迅速化され、目標達成の確率を高めることができます。また、リソースの効率的な活用促進にも繋がり、チームのモチベーション向上に貢献します。
④プロジェクトを管理する ⑤業務フローを構築する |
④プロジェクトを管理する
カスタマーサクセスでは、データに基づいてプロジェクトを管理します。 顧客に関する様々なデータを収集・分析し、その結果に従って意思決定を行うことから「データ駆動型プロジェクト管理」とも呼ばれます。
現代のビジネス環境は、デジタル技術の発達と膨大なデータの累積によって年々複雑化し、従来の経験や勘に頼ったプロジェクト管理ではプロジェクトを成功させることが難しくなっています。
そこで、主観的な判断や経験則に頼らないデータドリブンなアプローチが求められるようになり、データ駆動型プロジェクト管理の客観的な意思決定がプロジェクトの成功に不可欠となっています。
手順 | 具体的アクション | 期待できる効果 |
---|---|---|
①明確な目標設定とKPIの設定 | 定量的な目標を設定する(顧客満足度向上、契約更新率向上、顧客生涯価値向上など) | 目指す成果が明確になり、チーム全体の意識統一と効率的な活動に繋がる |
目標達成度を測るためのKPIを設定する(例:顧客エンゲージメントスコア、顧客サポート対応時間、アップセル率など) | ||
②データ収集と分析 | データソースを特定し、必要なデータを収集する(顧客情報、利用状況、サポート履歴、アンケート結果など) | 顧客の利用状況や満足度を定量的に把握し、課題や成功要因を特定することで、より効果的な施策立案を支援する |
データ分析ツール(Excel、Google Analytics、BIツールなど)を活用してデータを可視化し、インサイトを抽出する | ||
定期的に分析結果をまとめたレポートを作成し、チームメンバーや関係者に共有する | ||
③データに基づいた意思決定 | データ分析結果に基づき、具体的なプロジェクト計画を策定する | 客観的な根拠に基づいたアクションによって顧客の課題解決や成果創出の確実性を高める |
重要なタスクを特定し、優先順位を付ける | ||
人材、予算、時間を効果的に配分し、リソースを最適化する | ||
④進捗状況のモニタリングと改善 | 設定したKPIに基づき、プロジェクトの進捗状況を定期的に確認する | 遅延や問題点を早期に発見し、迅速な軌道修正を行うことで目標達成の可能性を高める |
課題(遅延やボトルネックが発生している箇所)を特定し、原因を分析する | ||
問題点を解決するための改善策を検討し、実行する |
プロジェクト管理において最も重要なのは、顧客の成功の定義とKPIの設定です。これらはプロジェクトの方向性を明確にするものであり、顧客の具体的なビジネス成果に直接貢献するよう設定する必要があります。
データ収集と分析では、顧客データ、利用状況、フィードバックなどを多角的に収集し、傾向やパターンを分析して課題や成功要因を特定します。
たとえば、パフォーマンス向上が目標の場合、各担当者の顧客対応件数、解決までの時間、顧客満足度、解約率などのデータを分析することで、目標値の修正や業務プロセスの改善、担当者へのフィードバックなどが適切に行えるようになります。
プロジェクトの進捗状況は、設定したKPIをモニタリングしながら継続的に監視し、効果測定を続けていくことが大切です。必要に応じて戦略やアクションを見直して改善を重ねることで、予測精度の向上、意思決定の迅速化、パフォーマンスの向上に繋がり、プロジェクトの成功に貢献します。
⑤業務フローを構築する
業務フローを構築することは業務効率化と属人化防止に貢献します。業務フローを明確にし、必要なプロセスを可視化するとタスクの円滑な管理と手順の標準化が可能になるためです。さらに、チーム内での情報共有が促進され、一貫性のある顧客対応が実現できます。
カスタマーサクセスでは顧客のライフサイクル全体を俯瞰で捉え、プロセスを段階的に分けることが重要です。これらは顧客ライフサイクル全体を通じて価値を提供し続けるために必要不可欠なプロセスであり、タッチポイントごとに適切なサポートを提供できる基盤を構築していきます。
フェーズ | 目的 | プロセス | 業務フロー |
---|---|---|---|
オンボーディング | 顧客がプロダクトをスムーズに利用開始できるよう支援する | 事前準備 | 顧客情報の収集・分析、カスタマージャーニーマップの作成・活用 |
導入支援 | プロダクトの説明、操作方法のレクチャー、環境設定支援 | ||
目標設定 | 顧客の目標設定支援、KPIの設定 | ||
フォローアップ | 定期的な進捗確認、疑問点への対応 | ||
アダプション | 顧客の目標達成とプロダクト提供価値の最大化を支援する | プロダクト活用支援 | プロダクトの説明、活用方法の提案 |
目標達成支援 | ヘルススコアの算出・モニタリングとそれに基づく進捗確認、課題解決支援、目標達成に向けたアドバイス | ||
知識ベースの構築 | FAQの作成、マニュアルの整備 | ||
問い合わせ対応 | 電話、メール、チャットなどでの柔軟な質疑応答 | ||
エクスパンション | 顧客のニーズを掘り下げて利用拡大を促進する | アップセル | 顧客セグメンテーションの最適化、高価格帯のプロダクトや上位プランの推奨、契約条件のアップグレード |
クロスセル | 顧客セグメンテーションの最適化、関連する別のプロダクトやオプションの推奨、バンドル販売 | ||
コミュニケーション | 定期的な連絡、イベントへの招待、コミュニティ運営による交流促進 | ||
プロダクトフィードバック | プロダクトの不満や要望などのフィードバックを収集し改善する | フィードバック収集 | アンケート調査、インタビュー |
トラブルシューティング | 問題の原因究明、解決策の提案、復旧作業 | ||
ロイヤルティプログラム | 優待特典の提供、ポイント制度の導入 |
カスタマーサクセスの業務フローは、常に顧客視点でプロセス全体を設計する必要があります。業務効率化や成果創出を優先すると自社都合で考えがちですが、常に顧客に寄り添った対応を心がけることで顧客満足度を高め、顧客生涯価値(LTV)の向上を目指します。
たとえば、オンボーディングでは顧客が自社のプロダクトとどのように関わるのかを可視化することでサポートの適切なタイミングが判断できます。カスタマージャーニーマップを作成すると顧客接点が把握しやすくなり、オンボーディングの具体的な道筋が見えてきます。
また、アダプションやエクスパンションなどのより能動的な顧客支援が求められる段階では、顧客が求める情報とタッチポイントを正確に判断することが重要です。顧客の興味やニーズの変化に応じて有益なコンテンツを提供するとエンゲージメント強化に繋がります。
このように、顧客視点で業務フローを構築することは、顧客LTVの最大化に貢献します。各プロセスにおける顧客の行動や心理を深く理解し、それぞれに最適化された業務フローを構築することで顧客との良好な関係構築と長期的な成功支援を目指しましょう。
人材育成
人材育成はカスタマーサクセスを通して顧客との良好な関係を構築し、顧客の成功を支援する人材を育てる重要な作業です。担当者が顧客の成功を支援できるようになるためには、体系的なスキル開発と実践的なトレーニングが不可欠です。
具体的には、カスタマーサクセス業務に必要なスキルセットを定義し、個々のスキルレベルや経験に応じた体系的なトレーニングを実施する必要があります。効果的な人材育成プログラムはカスタマーサクセスチーム全体のレベルアップに繋がり、顧客との長期的なパートナーシップ構築に貢献します。
⑥スキルセットを定義する ⑦トレーニングを実施する |
h4:⑥スキルセットを定義する
スキルセットを定義するとカスタマーサクセスの人材育成が効率的かつ効果的に進められます。カスタマーサクセスは専門性が高く幅広いスキルセットが求められることから、自社のカスタマーサクセスに適したスキルセットを明確にしておく必要があります。
定義すべきスキルセットは企業規模や業種、顧客層などによって異なります。自社に足りないスキルを洗い出した上で人材育成に必要なスキルセットを定義し、カスタマーサクセスのリソースを効率的に確保しましょう。
スキル | 詳細 | 具体例 |
---|---|---|
コミュニケーションスキル | 顧客との関係構築、ヒアリング、情報伝達、交渉など、円滑なコミュニケーションを図る | 定期的な顧客訪問、ヒアリング力向上のための研修 |
問題解決スキル | 顧客が抱える問題を分析し、適切な解決策を導き出す | ケーススタディを用いた問題解決演習、成功事例の分析 |
問題構築スキル | 顧客との信頼関係を築き、長期的なパートナーシップを構築する | 顧客満足度調査の活用、フィードバックを基にした提案活動 |
分析力 | 顧客データや製品データなどを分析し、顧客の行動パターンや課題を把握する | CRMやBIツールを活用した顧客データの解析 |
製品知識 | 自社の製品やサービスに関する深い知識 | 製品マニュアルの精読、トレーニングプログラムの活用 |
プロジェクト管理スキル | 顧客向けのプロジェクトを計画、実行、評価する | 導入プロジェクトのロードマップを作成、進捗状況の共有 |
ビジネススキル | ビジネスの基礎知識、契約交渉、提案力など | 提案書の作成ワークショップ、営業チームとの連携強化 |
ITスキル | CRMツールや分析ツールなど、業務に必要なITツールを使いこなす | ITツールのトレーニング、業務オペレーション自動化の導入 |
カスタマーサクセス担当者の役割は、顧客との定期的なミーティングを通じて潜在的な課題を早期に発見し、能動的な支援によって顧客満足度向上や解約率の低下に繋げることです。そのため、営業力や技術力に加え、様々な対人関係スキルも駆使しなければなりません。
特に関係構築スキルは顧客との良好な関係を築き、維持するために欠かせないスキルです。また、交渉の際は顧客の要望や懸念点を齟齬なく汲み取るコミュニケーションスキルが求められ、問題解決スキルによって最適解を提供することで信頼関係を構築していきます。
カスタマーサクセスのスキルセットは、それぞれが相互に関連しています。全体的なスキルレベルをバランスよく整えることでより質の高い顧客体験を提供できるようになるため、意識的なスキル活用や定期的な研修などを通じて継続的にスキルアップを図りましょう。
⑦トレーニングを実施する
トレーニングを実施するとカスタマーサクセスの立ち上げに必要な人材が育成できます。
カスタマーサクセスを通して顧客の成功を牽引する人材を着実に育てるためには、体系的なトレーニングが必要です。
個々のスキルレベルや経験に応じてトレーニングをカスタマイズしながら、より効率的かつ効果的な学習機会を提供しましょう。
トレーニング | 詳細 |
---|---|
カスタマーサクセスの概念と役割の理解 | 【学ぶべき内容】 ・カスタマーサクセスの定義と目的 ・カスタマーサクセスの重要性 ・カスタマーサクセスと他部門との連携 【手法・アプローチ】 ・座学研修 ・責任者からの説明 |
組織全体の意識改革 | 【学ぶべき内容】 ・顧客視点(顧客中心の考え方、顧客体験の重要性) ・データに基づいた意思決定の原則 ・PDCAサイクルの考え方 ・部門間連携の重要性と自社における連携方法 【手法・アプローチ】 ・経営層からのメッセージ発信 ・全社研修/ワークショップ ・成功事例の共有 ・データ分析ツールの基本操作研修 ・部門横断ミーティング |
顧客理解とコミュニケーションの深化 | 【学ぶべき内容】 ・ 顧客インタビューの目的と基本的な進め方 ・顧客セグメンテーションの考え方と自社の基準 ・効果的なコミュニケーションスキル ・傾聴力、共感力、質問力 【手法・アプローチ】 ・コミュニケーション研修 ・ロールプレイング ・OJT ・ケーススタディ ・インタビュー実践 |
プロダクト知識の習得 | 【学ぶべき内容】 ・プロダクトの機能、特徴、メリット ・ユースケース ・競合製品との比較、自社の強み ・最新情報、アップデート内容 【手法・アプローチ】 ・製品トレーニング ・開発部門との連携 |
社内ナレッジの共有 | 【学ぶべき内容】 ・経験、ノウハウの共有(成功事例、失敗事例) ・企業文化の理解(企業理念、ビジョン、バリュー) ・ナレッジデータベースの活用 【手法・アプローチ】 ・社内ドキュメント/ポータル参照 ・事例共有会の実施/参加 |
カスタマーサクセスの人材育成を促進するためには、適切なトレーニングを実施することが重要です。たとえば、OJTは、実際の業務を通して実践的なスキルを習得できるだけでなく、先輩社員の指導を通して企業文化や価値観を学ぶことができます。
また、Off-JTは、研修、セミナー、ワークショップなどから専門的な知識やスキルを体系的に学習でき、社外交流を通じて視野拡大が見込めます。eラーニングを活用する場合は、コーチングを併用すると自立型の人材育成が可能になり、実践的にスキル向上が図れます。
自社の人材育成力を高めるためには、トレーニングの成果を定期的に測定することが重要です。カスタマーサクセスの目的に応じて「顧客満足度」「チャーン率」「新規案件創出数(アップセル・クロスセル率)」などのKPIを設定し、人材育成の達成度を評価します。
人材育成の達成度が視覚的に判断できるようになるとトレーニングの改善がしやすくなります。カスタマーサクセスは変化の激しい分野であるため、計画・実行・評価・改善のPDCAサイクルを継続的に回し、常にトレーニングを最適化しながらスキルレベルの向上に取り組みましょう。
組織体制の整備
組織体制の整備は、カスタマーサクセスの基盤を作る重要な作業です。カスタマーサクセスの成果を最大化するには各部門が連携し、一貫した顧客対応を提供する体制を構築することが重要です。
特に顧客ニーズや課題を収集・共有する仕組みを整えることで、組織全体が顧客満足度向上に向けて機能します。社内全体に顧客中心の文化が醸成されると、カスタマーサクセスの根本的な概念である「顧客の成功が企業の成長に直結する」という共通認識を生むためです。
各部門が連携しながら顧客サポート体制を構築していくことが重要であり、部門間連携の強化とリスク管理の徹底がカスタマーサクセスのスムーズな立ち上げと安定的な運用をもたらします。
⑧部門間連携を強化する ⑨リスク管理を徹底する |
⑧部門間連携を強化する
カスタマーサクセスと他部門との部門間連携を強化すると、社内ナレッジの活用が促進されます。顧客データを全社的に共有し、部門ごとに顧客の状況を把握することで顧客のニーズや課題が深く理解できるようになります。
顧客理解の深化が進むと顧客への対応がスムーズになり、一貫した顧客体験が提供できます。その結果、顧客満足度が向上し、解約率の低下、アップセル・クロスセルの増加など、企業の成長に繋がります。
目的 | 方法 | 詳細 |
---|---|---|
共通目標を意識した協力体制の整備 | 組織全体の目標設定 | CSの成功が組織全体の目標達成に貢献することを明確にする(例:リテンション率やアップセル率の向上) |
KPIの設定 | 各部門が共通のKPIを持つことで、目標達成に向けた協力体制を構築する(例:営業、マーケティング、カスタマーサクセスで顧客満足度スコア(CSAT)を共通目標とする「カスタマーサクセス KPI」内部リンクを設置) | |
クロスファンクショナルチームの構築 | プロジェクトベースのチーム編成 | 特定の顧客やプロジェクトに対して、複数の部門からメンバーを集め、クロスファンクショナルチームを結成する |
連携スキル向上 | ロールプレイやスキル研修で、部門間の連携スキルを向上(例:緊急対応シナリオでのシミュレーション) | |
定期的な情報共有 | ミーティング チャットでのやり取り | ・部門横断型の定例会議で進捗と課題を共有し、迅速な意思決定を実現 ・デジタルツールを活用してリアルタイムの情報共有を可能に |
外部リソースの活用 | 外部専門家の活用 | カスタマーサクセスの専門知識や経験を持つコンサルティング会社やベンダーに支援を依頼する |
ツールの導入 | カスタマーサクセス活動を効率化するためのツールを導入し、部門間の連携を強化する |
部門間連携を強化するためには、共通の目標を設定した上で円滑なコミュニケーションを図り、人材育成や外部リソースの活用を進めていきます。その際は、部門間の利害対立やコミュニケーション不足などが生じないよう十分に配慮することが重要です。
具体的には、部門ごとの特性や文化を尊重し、相互理解を深めながら、それぞれの強みを活かした協力体制を築く必要があります。同時に部門間の連携状況を定量的に評価し、適切なフィードバックによって継続的に改善していくことが大切です。
また、部門間連携の強化は、顧客の声を起点とした改善サイクルの構築にも役立ちます。カスタマーサクセス部門が収集した顧客からのフィードバックを他部門に共有することで、プロダクトの改善や顧客へのアプローチの見直しなどに活用することができます。
なお、部門間連携を強化する際は一方的な強制はせず、自発的に協力し合える環境を構築することが重要です。情報共有のルールを明確にした上で、担当者同士が気軽に相談し合える関係性を築きながら部門間連携を強化していきましょう。
⑨リスク管理を徹底する
リスク管理を徹底することは、サービス品質の安定化と顧客の信頼向上に貢献します。カスタマーサクセスが目指す顧客との長期的な関係構築への過程には様々なリスクが潜んでいますが、特に最重要となるのがチャーン(解約)リスクです。、事前にチャーンに繋がりうるリスク要因を洗い出した上で適切な対策を講じる必要があります。
顧客との関係悪化、契約解除、ブランドイメージの低下といった様々なリスクを想定し、必要な対策を準備しておくとリスク発生時の影響が最小限に抑えられます。また、リスク管理に対して定期的な評価を実施すると対策強化に繋がり、事業継続性の向上が期待できます。
リスクカテゴリ | 主なリスク | 具体的対策例 |
---|---|---|
顧客エクスペリエンス | 顧客満足度の低下、プロダクト価値の未実感、低い活用度、サポート品質への不満、顧客体験の一貫性欠如 | ・顧客からのクレームには迅速かつ誠実に対応する ・顧客の不満に対して原因究明に努め、解決策を提示する ・顧客の声とインサイトを積極的に収集し、サービス改善に活かす ・データに基づいたプロアクティブなリスク検知と介入 |
人的リスク | 担当者変更による情報の引き継ぎ/共有漏れ、人材不足/ナレッジ欠如 | ・従業員のスキルアップを支援し、離職を防止する ・ワークライフバランスを重視し、従業員が安心して働ける環境を整える ・重要なノウハウは個人に依存せずに共有し、属人化を防ぐ |
システム障害 | サービス停止や遅延 | ・重要なデータのバックアップを定期的に実施する ・障害発生時に迅速に対応できるようマニュアルを作成し、定期訓練を実施する ・システムの稼働状況を常時監視し、モニタリング体制を強化して異常を早期に検知する |
セキュリティ | 顧客データの情報漏洩 | ・顧客情報の取り扱いには細心の注意を払い、暗号化やアクセス権限の管理を徹底する ・サイバー攻撃等に備えて最新のセキュリティ対策ソフトを導入し、定期的にアップデートする ・従業員教育としてセキュリティに関する意識啓発を徹底する |
カスタマーサクセスが安定したサービス提供と顧客満足度向上、そしてチャーン抑制に貢献するためには、常に変化するリスクに迅速に対応しなければなりません。また、リスク対策は一度では不十分であり、常に最新の情報や技術を収集しながら定期的に見直しと更新を続けることが重要です。
特にカスタマーサクセス担当者は、チャーンに繋がりうる顧客体験上のリスク(顧客からのクレームなど)と人的リスクに常に注意する必要があります。クレーム対応を誤ると顧客の信頼を失うと共に解約や悪評に繋がる可能性があり、人的リスクを放置した場合はリソース不足から顧客対応品質が低下し、間接的にチャーンを招く可能性があります。
これらのリスクにプロアクティブかつ効果的に対処するためには、顧客ヘルススコアや利用状況データを継続的にモニタリングし、リスクの兆候を早期に捉えることが重要です。また、顧客とのやり取りを詳細に記録し、リスクレベルに応じた対応手順を整備・活用することで、チーム全体で顧客対応品質を高めます。個々の担当者のスキル向上と共に、データに基づいたリスク管理体制を構築することが、チャーン抑制と顧客LTVの最大化に繋がります。
なお、リスク対策はカスタマーサクセス部門だけでなく、企業全体の取り組みとして推進することが重要です。リスク発生時の対応手順を明確化し、関係者間で共有するなどして、常にリスク発生の可能性を意識した対応を心がけましょう。
カスタマーサクセス立ち上げの成功ポイント
カスタマーサクセスの立ち上げを成功させるポイントは、顧客や自社の状況に合わせて計画的に準備し、適切に対応することです。カスタマーサクセスは、画一的なアプローチではなく、顧客、企業、プロダクトに合わせた柔軟な対応が求められるためです。
カスタマーサクセス立ち上げの成功ポイントを踏まえ、各ポイントごとに適切な対応を図ることでカスタマーサクセスの立ち上げ成功と目標達成を目指しましょう。
・早期にPDCAを回して評価改善する ・顧客視点の浸透を促す ・事業フェーズに合わせて組織を構築する ・必要に応じて外部リソースを活用する |
早期にPDCAを回して評価改善する
早期にPDCAを回して評価改善を行うと、カスタマーサクセスの費用対効果が向上します。PDCAとは、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action)の各フェーズを段階的に繰り返しながら状態を改善していくためのフレームワークのことです。
カスタマーサクセスの立ち上げ初期は、顧客の成功に繋がるプロセスが明確でない場合が多く、組織体制や業務フローが非効率になりがちです。そのため、小さなサイクルでPDCAを回し、評価改善を繰り返しながら無駄なプロセスやリソースを削減する必要があります。
フェーズ | 主要アクション | 具体的な施策 | KPI指標・評価基準 |
---|---|---|---|
P | 顧客成功のための基盤作り | カスタマーサクセスの定義、目標設定、顧客セグメンテーション、成功シナリオ設計 | 顧客満足度、LTV、顧客セグメントカバー率 |
顧客ジャーニーマップの作成、成功指標の設定、KPIの設定 | 成功指標、各フェーズのKPI | ||
D | 計画の実行と組織構築 | 組織体制の構築、顧客とのコミュニケーション開始、成功シナリオの実行 | チームメンバーの配置、コミュニケーション頻度、施策の実行数 |
ツールの導入、マニュアル作成 | ツール利用率、マニュアル参照回数 | ||
C | 効果測定と課題発見 | データ分析、顧客インタビュー、KPI達成度評価 | 顧客満足度調査結果、KPI達成率、顧客からのフィードバック |
成功シナリオの検証 | 各施策の効果測定、成功シナリオの有効性 | ||
A | 改善策の実行とPDCAサイクルの継続 | 成功シナリオの修正、組織体制の調整、新たな施策の導入 | 改善策の実行数、KPIの改善度 |
プロセスの最適化、業務フローの改善、ツール導入の追加・変更 | リードタイム、品質スコア、従業員満足度、業務全体の貢献度、ツール活用率 |
PDCAサイクルを効果的に回すためには、最初に明確な目標を設定することが重要です。顧客の成功をどのように定義するか、具体的な指標(顧客満足度、解約率、アップセル率など)を設定してPDCAサイクル全体を方向付けます。
最初から完璧な計画を立てることは難しいため、まずは小規模からスタートし、短いサイクルでPDCAを回しましょう。PDCAサイクルの進捗状況や結果はチーム全体で共有し、共通認識を持つことで、より効果的な改善活動が可能になります。
たとえば、顧客満足度向上を目標とする場合、顧客がプロダクトや企業に抱いている印象や感情を多角的に調査し、分析結果に基づいて具体的な施策を立案・実行します。その成果を効果測定によって検証し、得られた知見や課題を踏まえて施策を修正した上で、次のPDCAサイクルに繋げます。
なお、PDCAサイクルは、計画よりも実行を優先することが大切です。実行までの期間が長いほど機会損失に繋がるため、早期にPDCAを回して次のアクションに役立てます。効率的且つ効果的に評価改善を続け、変化の激しい市場環境に柔軟に対応していきましょう。
顧客視点の浸透を促す
顧客視点でのアプローチは、カスタマーサクセスの基本です。顧客の成功が自社の成功に直結することを意識し、常に顧客の視点に立って支援することで顧客満足度を高め、顧客との長期的な関係構築を可能にします。
さらに、顧客視点が浸透すると、従業員のエンゲージメント改善にも繋がります。顧客に対するサポート意欲が高まったり、創造的なアイデアが生まれやすくなったりなど、組織全体の活性化が期待できるようになります。
方法 | 詳細 | 具体例 |
---|---|---|
顧客の声を可視化・共有する | 顧客のリアルな声を理解し、共感を得る | ・アンケート、インタビュー、SNSなどから顧客の声を収集 ・収集した意見をダッシュボードやレポートで可視化し、定期的に社内共有 ・経営層、現場が一体となる「顧客インサイト共有会」を開催 |
顧客との接点を増やす | 顧客との関係を深め、ニーズを直接把握する | ・顧客訪問、定例ミーティング、ユーザー会の開催、顧客インタビューの実施 ・データ分析を活用し、リスク顧客に先回りしたアプローチを実施 |
顧客視点の指標を設定する | 顧客視点での成果を定量的に評価する | ・NPS、顧客満足度、解約率、アップセル率をKPIとして設定 ・各指標に基づいて数値を追跡する ・行動ベースの指標(アクティブ率・初期オンボーディング成功率)も導入 ・定期的なデータ分析を行い、PDCAサイクルを回す |
教育研修を実施する | 全社員の顧客視点に関する知識とスキルを向上させる | ・カスタマーサクセス研修、ロールプレイング ・外部講師による研修など ・経営層もカスタマーサクセストレーニングに参加し、顧客視点の理解を深める |
顧客視点の行動を評価する | 顧客視点での行動を奨励し、モチベーションを高める | ・人事評価やインセンティブ評価に顧客視点の行動を組み込む ・短期評価:顧客のポジティブフィードバック、成功事例の共有 ・長期評価:担当顧客の解約率低下、アップセル率向上 |
組織文化を醸成する | 顧客視点が組織全体に根付くような文化を醸成する | ・顧客中心のビジョンを明確にし、スローガンを掲げる ・組織責任者が率先して顧客視点の行動を示す ・社内イベントや表彰制度を活用し、顧客志向の行動を促進 |
顧客視点の浸透を促すためには、顧客中心のビジョンを明確にした上で、全社的な取り組みとして意識改革を進めることが重要です。現場だけでなく経営陣が率先して関わり、顧客中心の姿勢を示すことで社内全体に顧客中心の考え方が根付くようになります。
顧客中心のビジョン形成においては、顧客視点の指標を定量的に評価する必要があります。具体的には、目的に合わせてNPS、顧客満足度、顧客維持率などのKPIを設定して進捗状況を把握します。カスタマーサクセスと他部門間での連携も忘れずに行いましょう。
また、顧客視点を理解する上では、顧客のニーズを可視化することが重要です。可視化したデータを分析することで顧客の傾向や課題が抽出でき、顧客理解が深まります。定期的に共有の場を設けて議論すると社内の共通認識にズレが生じにくくなります。
顧客視点の浸透を促すことは、顧客の成功を実現すると共に企業にとっても多くのメリットをもたらします。顧客満足度を高めるための意識と行動を継続してブランドイメージの向上や売上増加に繋げ、持続的な企業成長を促進しましょう。
事業フェーズに合わせて組織を構築する
事業フェーズに合わせて組織を構築すると、カスタマーサクセスの運用と企業の成長が円滑に進みます。カスタマーサクセスは事業フェーズによって目標やリソースが異なり、それぞれのフェーズに合わせて立ち上げ組織を設計する必要があるためです。
たとえば、スタートアップ期では、初期顧客の成功体験を積み上げ、PMF(プロダクトマーケットフィット)を達成することが求められます。少ないリソースで顧客対応を行う場合も多く、顧客数増加につれて多様なニーズに対応できる組織体制への変革が必要になります。
また、成長期では、スケール可能なカスタマーサクセス体制を確立し、ARR(年間経常収益)を最大化することが求められます。大口顧客専任のチームや顧客の課題解決に特化したチームの編成など、顧客基盤の拡大に合わせた組織の拡充が必要になります。
さらに、成熟期では、LTV最大化と長期的な顧客関係構築の強化が重視され、顧客セグメントに応じたより専門的なチーム編成が求められます。ハイタッチ顧客向けのエンゲージメントチーム、ロータッチ顧客向けのテックタッチチーム、アップセル・クロスセルを推進するグロースチームなど、顧客の特性や貢献度に合わせて組織体制を最適化する必要があります。
なお、カスタマーサクセス組織構築のROIを可視化するためには、カスタマーサクセス組織の拡大が解約率低下やアップセル・クロスセルの成功率向上にどの程度貢献するかを定量的に示すことが重要です。LTVやNRR等の適切なKPI設計を行い、経営層へ提案できる形にしておきましょう。
必要に応じて外部リソースを活用する
必要に応じて外部リソースを活用すると、カスタマーサクセスの体制強化と立ち上げの迅速化に繋がります。外部リソースによって自社に不足している知識や経験、人材などが効率的に補えるようになるためです。
特に事業規模が小さい企業や創業期の企業では、社内リソースのみでは対応しきれない場合も少なくありません。外部リソースは不足しているリソースを効率的に補い、社外からの客観的な視点を得られる効果も期待できます。
カテゴリ | 活用方法 | 活用に適したフェーズ |
---|---|---|
業務支援ツール | CRM、CSプラットフォーム、アンケートツールなどを導入し、業務を効率化する | 立ち上げ〜拡大 |
コミュニティ | コミュニティに参加し、情報交換やノウハウ共有を行う | 立ち上げ~成長 |
コンサルティング | 戦略策定、組織設計、KPI設定など、幅広い領域で支援を受ける | 立ち上げ |
業務委託 | 特定のスキルを持った専門家に業務の一部を委託する(カスタマーサクセス専門家、データアナリストなど) | 成長〜拡大 |
外部リソース活用は、以下の2つの観点で判断するとよいでしょう。
①どの領域を補完するか:戦略策定、業務効率化、スキル補完など、目的に応じた選択が重要
②内製と外注のバランス:外注に傾倒しすぎるとノウハウの蓄積が阻害されるため、段階的な内製化も視野に入れる
外部リソースの中で最も導入しやすいのは業務支援ツールです。チャットボットは顧客対応の一部を自動化することで人的リソースを削減し、BIツールや顧客分析ツールは顧客の行動分析やセグメンテーションの強化によって顧客理解の深化に貢献します。
クラウド型のツールは比較的安価かつ短期間で導入できるものが多いため、一部の業務から試験的に導入してみるのも有効です。カスタマーサクセスツールの詳細は「【目的別】カスタマーサクセスツール19選を選び方とともに解説」を是非参考にしてみてください。
一方、より柔軟な対応や高度なサポートを求める場合は、コンサルティングや業務委託が適しています。ただし、知識やノウハウは社内に蓄積しにくい傾向があるため、内製と外注のバランスが大切です。将来的な内製化も視野に入れながら人材育成やナレッジマネジメントを並行して進め、カスタマーサクセス組織の成長を目指しましょう。
まとめ
カスタマーサクセスの立ち上げは、手順と成功ポイントを踏まえた上で環境整備を進めます。社内にノウハウがないと失敗してしまう場合も多いため、自社に適した導入パターンや立ち上げ手順を把握しておくことが重要です。
カスタマーサクセスの導入パターンは、内部登用・外部登用・BPOの活用など複数あります。自社に適した導入計画を立案した後、カスタマーサクセス立ち上げの全体像を基に必要なプロセスを実行していきます。
【カスタマーサクセス立ち上げの全体像】
・組織基盤の構築
①顧客の成功を定義する
②組織モデルを選ぶ
③ツールを導入する
・実行計画の策定
④プロジェクトを管理する
⑤業務フローを構築する
・人材育成
⑥スキルセットを定義する
⑦トレーニングを実施する
・組織体制の整備
⑧部門間連携を強化する
⑨リスク管理を徹底する
体系化された一連の業務プロセスを段階的に実行し、リソース配分や業務改善を効率的かつ効果的に行うことでカスタマーサクセスの立ち上げを成功に繋げましょう。

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