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基礎知識

カスタマーレッドグロース(顧客起点経営)とは?実践方法や手法例を解説

人口減少によるマーケットの縮小やデジタル化による市場の複雑化により、企業は従来の成長戦略を見直す必要に迫られています。その中で注目されているのが、顧客の成功を起点にビジネスを成長させる「カスタマーレッドグロース(顧客起点経営)」です。

当記事では、カスタマーレッドグロース(顧客起点経営)の詳細な概念から、現代のビジネスでなぜ重要視されているのか、そして具体的な実践方法までを解説します。

カスタマーレッドグロース(顧客起点経営)とは顧客の成功を起点にした経営

カスタマーレッドグロース(顧客起点経営)とは、顧客が製品やサービスを通じて成功体験を得ることを最優先し、その「顧客の成功」を起点としてビジネスの持続的な成長を目指す戦略です。

カスタマーレッドグロースは、単に顧客の声を聞くだけでなく、顧客の目標達成を能動的に支援することで、顧客満足度の向上、リテンション、LTVの最大化を図ります。さらに、成功した顧客から自然に生まれる口コミや紹介などを新たな成長エンジンとして捉え、重視・活用していく点が大きな特徴です。また、カスタマーサクセス領域でのデータや情報の蓄積が、持続的な事業成長の推進に繋がります。

カスタマーレッドグロースでは、単なる新規獲得に終始せず、既存顧客のロイヤルティ向上とLTV(顧客生涯価値)最大化を重視します。自社が真に価値を提供でき、かつ成功へと導ける顧客を選びます。顧客との関係性を深く築くことこそが持続的成長の鍵であるという考え方に基づき、効率的かつ安定した事業拡大を実現できるのです。

カスタマーレッドグロースは、多くの企業が陥りがちな「とにかく顧客数を増やす」という従来の成長モデルの限界を克服し、持続的な成長を実現する戦略です。

SLGとPLGとの違い

カスタマーレッドグロースと似たカスタマーサクセス用語にSLG(Sales-Led Growth)とPLG(Product-Led Growth)があります。カスタマーレッドグロースはSLGやPLGを包含する、より広義での経営戦略です。

【カスタマーレッドグロースの類似用語】
用語概要
SLG(Sales-Led Growth)【営業主導型成長】
・営業担当者が中心となり、顧客との関係構築や商談を通じて商品やサービスを販売する手法
・顧客のニーズに合わせた提案やサポートにより、高単価な商品やサービスの販売も可能
PLG(Product-Led Growth)【製品主導型成長】
・製品の魅力や使いやすさによって顧客を惹きつけ、口コミや紹介を通じて自然な成長を促す手法
・無料トライアルやフリーミアムなどを通じて、製品の価値を実際に体験してもらい、顧客満足度を高めながら長期的な顧客関係の構築が可能

SLGは「セールス(営業)主導の成長」のことです。営業担当者による製品やサービスの販売戦略により成長を目指す方法であり、顧客との関係性を重視し、個々の顧客のニーズに合わせた提案を行うことで、高単価な製品やサービスの販売につなげることができます。

一方、PLGは「プロダクト(製品)主導の成長」のことです。プロダクト自体に価値を付ける戦略により、顧客獲得および育成を行い、収益化につなげます。プロダクトの使いやすさや価値によって顧客の満足度を高め、口コミや紹介を通じて自然な成長を促します。

SLGとPLGの特徴や違いを把握し、自社で扱う商品・サービスやターゲット顧客層に合わせて適切な戦略を選択・組み合わせることが重要です。

カスタマーレッドグロースが求められる背景

カスタマーレッドグロースが求められる背景には、以下の3点があります。

【カスタマーレッドグロースが求められる背景】

  • 企業間の競争激化
  • デジタル化によるマーケットの複雑化
  • 人口減少によるマーケットの縮小

これらの課題に対し、カスタマーレッドグロースは現代のビジネスで必要不可欠な戦略となっています。

企業間の競争激化

現代のビジネス環境において、カスタマーレッドグロース(顧客起点経営)の重要性が高まっている背景のひとつに「企業間の競争激化」があります。

インターネットの普及と技術革新により、あらゆる業界で新規参入が容易になりました。類似商品やサービスが飽和状態にあり、製品やサービスの機能性・価格だけでは差別化が難しく、企業間の競争が激化しているのです。

たとえば、SaaSビジネスにおいては、顧客がサービスを容易に乗り換えられる状況です。新規顧客獲得コストが高騰する一方で、既存顧客の解約(チャーン)をいかに防ぐかが企業の成長に直結します。顧客を深く理解し、顧客体験を継続的に向上させることで、選ばれ続ける企業になる必要があります。

単なる製品開発や新規顧客獲得に留まらず、顧客の真のニーズに応え、顧客自身が成功することを起点としたカスタマーレッドグロースが、激しい競争を勝ち抜き、持続的な成長を実現するための不可欠な要素となっているのです。

デジタル化によるマーケットの複雑化

カスタマーレッドグロースが求められる背景には、デジタル化によるマーケットの複雑化もあります。

インターネットやスマートフォンの普及によって、顧客が商品やサービスを瞬時に比較検討できる環境が創出されました。これにより、企業間の競争は価格や機能だけでなく、顧客体験全体へと広がり、マーケットが多様かつ動的に変化しています。

さらに、SaaSやサブスクリプションなどのビジネスモデルの台頭により、一度きりの契約や購入で終わる関係から、顧客との関係性が長期的なものへと変化しました。

デジタル技術を駆使した国内外の新規企業が、かつては参入が難しかった市場にも容易に参入できるようになり、既存企業は激しい競争にさらされています。単に新しい顧客を獲得するだけでは成長が困難であり、既存顧客の維持・育成が企業の持続的な成長を左右するようになったのです。

複雑で競争の激しい環境下で持続的な成長を実現するためには、顧客の行動履歴や購買データなどを深く分析し、顧客一人ひとりに最適化された体験を提供することが求められます。ロイヤルティの向上にも寄与するカスタマーレッドグロースが、企業戦略の根幹として必要不可欠となっているのです。

人口減少によるマーケットの縮小

現代においてカスタマーレッドグロース(顧客起点経営)が喫緊の課題となっているのは、日本の深刻な人口減少によるマーケットの縮小も背景にあるからです。

人口の減少は、新規顧客の獲得がますます困難になることを意味します。新規顧客の獲得にのみ依存した成長戦略では、市場全体の縮小という根本的な問題に直面し、持続的な成長が見込めません。

少子高齢化が急速に進む日本では、消費者の総数が減少し、特に若年層のマーケットが大幅に縮小しています。これにより、多くの業界で既存顧客の維持とLTV(顧客生涯価値)の最大化が、新規顧客獲得以上に事業存続の鍵となっています。

企業は既存顧客との関係性を深く掘り下げ、顧客満足度やロイヤリティを高めることで、顧客が企業やブランドの「ファン」となり、継続的な売上だけでなく、口コミによる新規顧客獲得にも貢献を促す「カスタマーレッドグロース」への転換が不可欠なのです。

持続的成長戦略としてカスタマーレッドグロースに経営が取り組むメリット

持続的成長戦略としてカスタマーレッドグロースに経営が取り組むメリットはおもに以下の3点です。これらのメリットは相互に関連しており、顧客ロイヤリティの向上から売上向上、そしてコスト削減へと繋がる好循環を生み出します。

  • 売上向上
  • 顧客ロイヤルティ向上
  • コスト削減

カスタマーレッドグロースに取り組むことで、企業は様々なメリットを享受できるだけでなく、事業のKPIを顧客中心に再構築することが可能になります。

【カスタマーレッドグロースにおいて重視するKPIの例】

  • 顧客満足度
  • LTV(顧客生涯価値)
  • リピート率
  • チャーン率
  • NPS(Net Promoter Score)

とくに、顧客ロイヤルティを測るNPS(Net Promoter Score)は、単なる数値として捉えるだけでなく「推奨者」の増加を目標に設定します。顧客の声に基づいた製品改善やサービス向上、ひいては自然な口コミによる新規顧客獲得へと繋げ、持続的な成長サイクルを創出する経営戦略として活用できます。

なお、カスタマーサクセスのKPIを確認したい方は、「カスタマーサクセスで重視される12のKPIと設定の手順を解説」を参考にしてください。

売上向上

カスタマーレッドグロースに経営が取り組む最大のメリットの一つは、持続的な売上向上です。これは、単に新規顧客を獲得するだけでなく、既存顧客からの収益を最大化できる仕組みを構築するからです。

顧客が製品やサービスを深く理解し、満足度が高まると、継続利用期間が長くなり、それに伴いチャーン率(解約率)が低下します。また、顧客は企業への信頼から、新たな提案にも耳を傾けやすくなり、アップセルやクロスセルの機会を増やします。

さらに、ロイヤル顧客の口コミを通じて新規顧客を獲得できます。これにより、新規顧客獲得にかかるマーケティング費用を抑えつつ、効率的に売上を向上できるという好循環が生まれるのです。

売上向上の事例

Gainsight(ゲインサイト)は、カスタマーサクセスプラットフォームを提供するSaaS企業です。自社の製品を通じて顧客がLTV(顧客生涯価値)を向上させ、結果的に自社の売上も向上させるというモデルを実践しています。

顧客からのフィードバックを積極的に収集し、製品改善や新機能追加に迅速に反映させることで、顧客が自社製品の進化に直接貢献していると感じる機会を提供しており、顧客満足度とNPS(顧客推奨度)に直結させています。

顧客参加型の姿勢が、既存顧客からの継続的な収益であるリテンション率が向上するだけでなく、アップセルやクロスセルといった追加購入の機会も増加し、これが売上成長の強力な牽引役となっているのです。

顧客ロイヤルティ向上

カスタマーレッドグロースに取り組むメリットとして、顧客ロイヤルティの向上も挙げられます。顧客起点で製品やサービス、体験を最適化することで、顧客は単なる購入者ではなく、企業にとっての「ファン」へと変化する可能性が高いからです。

企業のファンとなったロイヤルティの高い顧客は、企業に対して強い信頼と愛着を抱くようになり、競合他社への乗り換えを考えにくくなります。また、ロイヤルティの高い顧客は、サービスの継続利用や追加購入(アップセル・クロスセル)に繋がりやすく、結果としてLTV(顧客生涯価値)の最大化に貢献します。

さらに、ロイヤルカスタマーは、友人や知人に自社の製品・サービスを積極的に推奨してくれる可能性が高まります。ロイヤルカスタマーの口コミや紹介は、顧客獲得における強力なチャネルとなり、持続的な顧客基盤の拡大に貢献し、新規顧客獲得コストを抑えながら自然な形で事業を拡大できるという好循環を生み出します。このように、顧客ロイヤルティの向上は、持続的な成長を支える強固な基盤となるのです。

顧客ロイヤルティ向上の事例

完全栄養食のパンやパスタなどを提供するD2C企業のベースフードは、顧客コミュニティ「BASE FOOD Labo」を積極的に活用しています。

顧客コミュニティでは、顧客同士がレシピを共有したり、企業へ直接フィードバックを送れる場を提供しています。顧客の投稿や意見を製品開発や改善に活かすことで、「顧客の声を聞いてくれるブランド」という信頼感を醸成しています。

コミュニティユーザー数は、2024年時点で50,000人を超えており、コミュニティ参加者のLTVは1.8倍となっています。さらに、コミュニティ参加者の継続率が高いというデータも出ており、顧客が製品に深く関わることで、ロイヤルティが向上しています。

コスト削減

カスタマーレッドグロースは、新規顧客開拓におけるコストを削減しながら収益増を図ることも可能にします。なぜなら、顧客のニーズを的確に反映した商品やサービスは、市場とのミスマッチが少なく、過度な広告宣伝に頼らずとも顧客に選ばれやすいからです。

これにより、広告宣伝費を抑えることができます。また、開発段階で顧客の声を深く取り入れることで、手戻りや不必要な機能開発が減り、開発コストの効率化にも繋がります。

既存顧客の紹介や口コミによる新規顧客獲得を促進することで、広告宣伝費をさらに抑えることができます。顧客データの詳細な分析に基づいて、ターゲットを絞り込んだ営業やマーケティング戦略を展開すれば、コストを最適化しながら収益増を図れるでしょう。

コスト削減の事例

RPAツールを提供するユーザックシステム株式会社は、カスタマーサクセス活動を強化することで、コスト削減とLTV(顧客生涯価値)向上を実現しています。

顧客がツールを使いこなせるよう手厚いオンボーディングや活用支援を行うことで、ツールの定着率を高め、結果的に解約率(チャーンレート)を低減しました。解約率の低減は、新規顧客獲得にかかるコストを削減する効果があります。

顧客がツールの活用に成功し、より高度な機能や関連サービスへのニーズが高まることで、アップセルやクロスセルに繋がり、既存顧客からの収益を拡大しています。顧客が抱える課題を深く理解し、それに応えるソリューションを提供することで、顧客のビジネス成長に貢献し、自社の収益増にもつなげています。

カスタマーレッドグロースの導入における課題と解決策

カスタマーレッドグロースの導入における企業課題は主に以下の3点です。これらの課題の解決には、経営層の強力なコミットメントと組織全体での継続的な取り組みが不可欠となります。

【カスタマーレッドグロースにおける企業課題】

  • 組織文化
  • 人材育成
  • ITシステム

組織文化

カスタマーレッドグロースの導入にあたり、顧客の声を受け止め、具体的な行動に移すという組織文化が必要となります。既存の組織構造・オペレーションのまま取り組んでも、現場の負担や不満が増える可能性があるからです。特に組織文化の変革は、3つの課題の中でも最も時間を要し、かつ難易度が高い側面を持つことが多いです。これを成功させるためには、経営層が変革の必要性を強く認識し、全社的な変革を牽引する強力なリーダーシップを発揮するとともに、現場レベルでの従業員との粘り強い対話と理解促進が不可欠となります。

解決策として、顧客の声や課題を定期的に経営層へ直接共有する会議の設置や、顧客の声を可視化できるツールの導入など、現場と経営が意思疎通を図れるような仕組みを構築しましょう。経営層は市場のリアルな状況を把握し、現場は自らの改善提案が経営判断に影響を与えると実感でき、一体感が生まれます。

さらに、営業・マーケティング・カスタマーサクセスなどが連携して取り組む必要があります。営業が獲得した顧客の特性をカスタマーサクセスに伝え、カスタマーサクセスが収集した顧客の課題をマーケティングや製品開発にフィードバックするといった密な連携により、顧客体験全体をシームレスに向上させられるでしょう。

各部門が個別の目標に固執するのではなく、共通の顧客成功目標を設定したうえで定期的な合同ミーティングや情報共有プラットフォームを活用することで部門間の壁をなくし、カスタマーレッドグロースを推進できるでしょう。

人材育成

カスタマーレッドグロースの導入において、「人材育成」も課題となります。顧客中心の経営へ舵を切るには、既存の社員が顧客の成功を最優先するマインドセットを習得し、新たなスキルを身につける必要があるからです。

従来の「売って終わり」の意識では、顧客との長期的な関係構築は困難であり、現場の戸惑いや反発を招く可能性もあります。まずは、意識改革を促すための教育プログラムが不可欠です。カスタマーレッドグロースの理念や顧客成功の重要性を経営層から現場まで浸透させる研修を定期的に実施し、なぜこの変革が必要なのかを理解してもらうことが重要です。

顧客の課題を特定し、解決に導くための実践的なスキルを習得できる社内研修を提供するのも有効です。「顧客データ分析」「問題解決」などのスキルアップを目指して、理論だけでなく実務で使える力を養うことが効果的です。

さらに、顧客からのフィードバックを奨励し、その貢献を評価する人事評価制度の再構築も重要です。顧客の成功に貢献した社員が正当に評価される仕組みがあれば、社員のモチベーションは向上し、自律的に顧客起点で行動する文化が育まれます。

意識改革とスキル習得、そして評価制度の見直しを一体的に進めることで、カスタマーレッドグロースを支える人材基盤を構築できるでしょう。

ITシステム

カスタマーレッドグロースの推進には、強固なITシステム基盤の構築が不可欠であり、これが導入における重要な課題の一つとなります。顧客中心の経営を実現するには、顧客に関するあらゆる情報を効率的に収集・管理・分析し、必要に応じて迅速に活用できるIT基盤が不可欠だからです。

顧客情報が各部門のシステムに散在していたり、異なるツール間で連携が取れていなかったりする企業では、顧客の全体像を把握できず、迅速な対応が困難になる可能性があります。たとえば、顧客一人ひとりに対するパーソナライズされた体験の提供や、解約予兆の早期発見といった、カスタマーレッドグロースの要となる活動が阻害されてしまいます。

ITシステムの課題を解決するためには、まず顧客データを一元管理できるCRMシステムの導入および活用が基本です。CRMシステムにより、営業、マーケティング、カスタマーサクセスといった各部門が同じ顧客情報を参照し、過去のやり取りや購買履歴、問い合わせ内容などをリアルタイムで共有できるようになります。

また、顧客の行動履歴や利用状況を分析し、インサイトを導き出すためのBIツールやカスタマーサクセスツールの導入も有効です。これらのツールを活用することで、顧客の潜在的なニーズや解約予兆を早期に検知し、先回りしたアプローチが可能になります。

重要なのは、これらのITシステムが単独で機能するのではなく、互いに連携し、データがスムーズに共有される統合的なエコシステムを構築することです。部門間の情報共有を促進し、顧客中心の意思決定をデータに基づいて行えるようにすることで、カスタマーレッドグロースを強力に推進する基盤を確立できるでしょう。

カスタマーレッドグロースの実践方法

カスタマーレッドグロースの実践方法は、おもに以下のステップで行います。これらの実践方法は、それぞれが独立しているのではなく、相互に密接に連携し、データとインサイトが継続的に循環するサイクルとして捉えることが重要です。

【カスタマーレッドグロースの実践方法】

  1. 顧客ニーズを改善に繋げられる仕組みを作る
  2. 情報共有が可能になる体制を整える
  3. 顧客ニーズを可視化できるツールを導入する
  4. 顧客ニーズに基づき顧客の成功を支援する

1.顧客ニーズを改善に繋げられる仕組みを作る

カスタマーレッドグロースを実践する上で、最初の重要なステップは、顧客の声(VOC:Voice of Customer)を収集し、そのニーズに基づいた改善を確実に実行できる仕組みを構築することです。VOCとは、顧客が製品やサービス、企業に対して抱く意見、要望、評価などの総称です。

顧客ニーズを改善に繋げる仕組みづくりでは、まず、アンケート、ソーシャルメディア、問い合わせ履歴、Webサイト上の行動データなど、多様なチャネルから顧客の声(VOC)を積極的に収集する必要があります。

収集したVOCは、顧客ニーズを改善に繋げる仕組みづくりのなかで、製品開発、サービス改善、マーケティング戦略、営業アプローチの最適化といった具体的なアクションに落とし込まれます。 たとえば、アンケートで寄せられた不満点を製品開発チームに共有し、改善サイクルを回したり、特定の機能への要望が多ければ優先的に開発を進めたりします。これにより、顧客は「自分の声が届いている」と感じ、エンゲージメントが高まるのです。

顧客の声を効果的に収集し、継続的にフィードバックを得るためには、適切なツールやシステムの導入が不可欠です。さらに、アンケートの回答率向上には、QRコードの読み取りによる回答やポイント付与、完了までの時間短縮など、回答のハードルを下げたり、特典を提供するなどの仕組みの工夫が重要です。

また、アンケートに限らずどのチャネルでも、顧客が手間なく意見を伝えられ、その声が活かされると感じられる設計も重要です。 自社の商品やサービス、顧客層にマッチした方法を取り入れ、顧客が気軽にフィードバックできる環境を整備することが、持続的な改善サイクルの鍵となるでしょう。

顧客の声を「収集する」手法

顧客の声(VOC)を集める手法として、アンケートは一般的な方法です。さらに、NPS(顧客推奨度)やCSAT(顧客満足度)調査を通じて定量的なデータと、自由記述による定性的な意見を収集できます。

アンケートは、設問設計を工夫して回答者の負担を軽減することが重要です。インタビューやユーザビリティテストは、顧客の行動や発言の背景にある真のニーズを深く理解するための貴重な機会となります。顧客の課題解決プロセスを観察し、直接対話することで、表面的な意見だけでは見えないインサイトを発見できるでしょう。

さらに、ソーシャルメディア上の言及、オンラインレビュー、サポートセンターへの問い合わせ履歴なども重要なVOC源です。これらの「非構造化データ」を継続的にモニタリングし、顧客が自発的に発信する声に耳を傾けることで、広範な顧客心理や市場トレンドを把握することが可能になります。

顧客インサイトを「理解・分析する」手法

収集した顧客の声を改善に繋げるためには、「顧客インサイト」を「理解・分析する」手法が不可欠です。まず、集めた定性データと定量データを統合し、傾向を把握します。

たとえば、アンケートの自由記述やインタビュー内容をテキストマイニングによってキーワードや感情で分類し、どの課題に多くの顧客が不満を感じているかを可視化します。

次に、顧客セグメンテーションを行い、共通のニーズや行動パターンを持つ顧客グループを特定します。これにより、特定の顧客層に響く改善策を優先的に検討できるようになります。

さらに、VOCとWebサイトの閲覧履歴、製品の利用状況、購入履歴などの「顧客の行動データ」を紐付け、カスタマージャーニーマップを作成することで、顧客がどの段階でどのような課題に直面しているかを視覚的に理解できます。

これらの分析を通じて、顧客が真に求めている価値や、企業が解決すべき根本的な課題を特定し、効果的な改善策の立案へと繋げられるでしょう。

なお、VOC分析について詳しく知りたい方は、「VOC分析を導入するべき企業の特徴や収集方法を解説」を参考にしてください。

2.情報共有が可能になる体制を整える

カスタマーレッドグロースを実践する際の2つ目のステップは、情報共有が可能になる体制を整えることです。VOCに基づいた施策を立案しても、その情報が組織全体に浸透しなければ机上の空論となってしまうからです。

たとえば、現場の負担や不満を増加させることなく情報を浸透させる策として、動画を活用した研修や情報共有システムを導入する方法があります。システムを活用することで、現場の教育負担を軽減しながら情報共有や教育を行えるようになるでしょう。

さらに、部門間の縦割りを解消して全社一丸となって顧客の成功中心のアプローチを実践するためには、システム導入に頼るだけでなく、組織的な工夫が必要です。たとえば、各部門の代表者が集まり、顧客フィードバックや改善状況を共有するミーティングの開催が有効です。ミーティングでは単なる報告に留まらず、各部門が持つ専門知識を持ち寄り、顧客課題への多角的なアプローチを検討できます。

また、顧客の成功事例や学びをまとめた社内ニュースレターや共有会を定期的に発行・開催する方法もあります。成功体験を共有することで、社員のモチベーションを高め、顧客起点のマインドセットを醸成できます。

さらに、特定の顧客グループや課題に特化した短期的なプロジェクトチームを部門横断で立ち上げることも有効です。共通の目標に向かって協力し合う文化が育まれ、情報が自然と流れるようになります。

これらの取り組みを通じて、顧客情報が組織の隅々まで行き渡り、全員が顧客の成功に向けて自律的に行動できる環境が整うでしょう。

インサイトを組織で「共有・活用する」手法

カスタマーレッドグロースを実践する上で、顧客データから得られたインサイトを組織全体で「共有・活用する」手法は重要です。インサイトが一部の部門に留まると、顧客起点の意思決定は実現できません。

インサイトを組織で「共有・活用する」ための具体的な手法として以下が挙げられます。

  • ダッシュボードの活用
  • クロスファンクショナルミーティング(部門横断会議)
  • 顧客成功事例の共有会

まず、「ダッシュボードの活用」が挙げられます。BIツールで作成した「顧客満足度推移」「チャーン率予測」「主要顧客の利用状況」などをリアルタイムで可視化し、経営層から現場まで誰もがアクセスできる共通の場に置きます。これにより、各部門が顧客の現状を共通認識として持ち、データに基づいた議論が可能になります。

次に、クロスファンクショナルミーティング(部門横断会議)の定例化です。週次や月次で営業、マーケティング、カスタマーサクセス、製品開発などの関係者が集まり、顧客フィードバックやダッシュボードの数字を基に、インサイトを共有します。たとえば、カスタマーサクセスから「特定の機能に関する問い合わせが多い」というインサイトが共有されれば、製品開発は改善を、マーケティングはFAQ作成や情報発信を検討するなど、部門間の連携がスムーズになります。

さらに、顧客成功事例の共有会も有効です。顧客が自社製品・サービスで課題を解決し、成功した具体例を動画やプレゼン形式で共有することで、全社員が「顧客の成功」を具体的にイメージし、自らの業務が顧客にどう貢献しているかを実感できます。これは、社員のモチベーション向上と顧客中心のマインドセット醸成に繋がり、結果的にインサイトの活用を促進します。

これらの手法を通じて、インサイトは単なるデータではなく、組織全体の行動を促す「生きた情報」となり、カスタマーレッドグロースの推進力を高めます。

3.顧客情報を可視化できるツールを導入する

カスタマーレッドグロースの実践には、顧客情報を可視化できるツールの導入も不可欠です。ツールの導入によって、解像度が高い顧客行動の分析が可能になるからです。

【顧客情報の可視化に活用できるツール例】
ツールの種類情報の種類ツールの例
CRM<属性情報>
・氏名、会社名、部署名、連絡先など

<コミュニケーション履歴>
・商談履歴、訪問日時
・電話、メール、チャットでのやり取り履歴
・問い合わせ内容、サポート対応履歴
Salesforce、Microsoft Dynamics 365、Zoho CRMなど
MA<属性情報>
・氏名、会社名、部署名、連絡先など
※Webサイトでの登録情報や展示会での名刺交換などから収集

<行動履歴>
・Webサイトの滞在時間、閲覧したコンテンツ
・メールの開封率、クリック率
・展示会やセミナーへの参加履歴

<広告の反応>
・クリック数、表示回数、CV率
Marketo Engage、Pardot、HubSpotなど
カスタマーサクセスツール<利用状況データ>
・利用頻度、利用時間、利用デバイス
・ユーザー数推移

<エンゲージメントデータ>
・問い合わせ履歴
・フォーラムへの投稿、閲覧、反応などのコミュニティ活動

<契約・アカウントデータ>
・アカウント情報、契約情報
・購入履歴

<VOC・感情データ>
・NPS 、顧客満足度
・テキストデータから抽出した感情や頻出キーワード
Gainsight、ChurnZero、Totangoなど
アンケートツール<属性情報>
・氏名、会社名、部署名、連絡先など

<サイコグラフィックデータ>
・CSAT、NPSなど

<行動データ>
・購入履歴
・利用頻度、利用状況
SurveyMonkey、Qualtrics、Googleフォームなど
アクセス解析ツール<流入経路>
・参照元(例:検索エンジン、SNS、直接入力など)
・検索キーワード

<サイト内の行動>
・PV数:ページが閲覧された回数
・セッション数: サイトへの訪問回数
・ユニークユーザー数(UU数): サイトを訪れた延べ人数
・滞在時間: 各ページやサイト全体での滞在時間
・直帰率: 1ページだけ見てサイトを離れてしまった割合。
・離脱率: 特定のページからサイトを離れた割合
Google Analytics、Adobe Analyticsなど
ヒートマップツール<アテンションヒートマップ>
・Webページ内でユーザーが長時間見ている、熟読している部分

<クリックエリア>
・ページ内でユーザーがクリックまたはタップした部分

<スクロールエリア>
ユーザーがページ内でスクロールして閲覧した部分
Hotjar、Crazy Eggなど
VOC(Voice of Customer)ツール<顧客の感情>
・商品やサービスに対する肯定的・否定的感情の傾向
・特定のキーワードやトピックに対する感情

<顧客の満足度・評価>
・NPS(Net Promoter Score):顧客の推奨意向
・CSAT(Customer Satisfaction Score):特定の体験に対する満足度
UserTesting、Mopinionなど

自社の目的や予算、既存システムとの連携などを考慮して、最適なツールを選択することが重要です。ツールの導入により、データに基づいた分析が可能になり、客観的な意思決定が行えるようになります。それにより、正確かつ具体的な戦略が立てやすくなります。

なお、顧客情報の可視化に活用できるカスタマーサクセスツールの選び方について確認したい方は「【目的別】カスタマーサクセスツール19選を選び方とともに解説」を参考にしてください。

4.顧客ニーズに基づき顧客の成功を支援する

カスタマーレッドグロース実践における最後のステップは、これまでの取り組みで得られた顧客インサイトに基づき、顧客の成功を積極的に支援することです。単に顧客の要望に応えるだけでなく、顧客が製品・サービスを通じて真に達成したい目標を理解し、その実現を後押しする能動的なアプローチを行います。

顧客ニーズに基づき顧客の成功を支援する際に必要な手法は以下の2点です。

  • インサイトに基づき「行動・改善する」手法
  • 顧客の成功を「支援し、関係を築く」手法

この段階で重要なのは、収集・共有されたインサイトを具体的な「行動・改善」に結びつけ、顧客との「関係を築き、支援」することです。

インサイトに基づき「行動・改善する」手法

顧客インサイトに基づき、製品の機能改善、サービスプロセスの最適化、サポート体制の強化などを継続的に実施します。

たとえば、利用データの分析から特定の機能の活用が低い顧客群を発見した場合、その原因を深掘りします。

チュートリアルの改善やパーソナライズされたオンボーディングを提供するなど、具体的な行動へと繋げます。

顧客の成功を「支援し、関係を築く」手法

顧客の成功を支援するために、顧客が自律的に問題を解決し、より深く価値を引き出せるよう支援します。顧客の成功を「支援し、関係を築く」具体的な活動の例として以下が挙げられます。

  • 製品・サービスの活用方法に関するセミナー開催
  • 活用事例の提供
  • 専用コミュニティの運営

これらの活動と同時に、定期的なコンタクトや個別サポートを通じて、顧客との信頼関係を深められるでしょう。顧客との関係性が単なる取引先ではなく、パートナーとしての関係性を築くことが可能になり、長期的なロイヤルティとLTV向上へと繋げられます。

まとめ

カスタマーレッドグロース(顧客起点経営)は、顧客の成功を最優先に考え、それを起点として企業の持続的な成長を目指す経営戦略です。現代の市場では、企業間の競争激化、デジタル化による市場の複雑化、人口減少によるマーケットの縮小といった背景から、従来の新規顧客獲得のみに依存する成長モデルでは限界があります。

カスタマーレッドグロースの戦略では、顧客の声を深く理解し、製品やサービスの改善に繋げることで、顧客ロイヤルティの向上とLTV(顧客生涯価値)の最大化を図ります。その結果、売上向上やコスト削減といったメリットが期待できます。

カスタマーサクセスの導入における課題と解決策は以下の通りです。

課題解決策
組織文化経営層が顧客視点に立ち、全部門で顧客成功を追求する意識を醸成する。
人材育成顧客中心の研修と評価制度を導入し、顧客成功に貢献する人材を育成する。
ITシステムCRMやBIツールを活用し、顧客データを一元管理して全社で活用する。

カスタマーレッドグロースの実践方法は、おもに以下のステップで行います。

  1. 顧客ニーズを改善に繋げられる仕組みを作る
  2. 情報共有が可能になる体制を整える
  3. 顧客ニーズを可視化できるツールを導入する
  4. 顧客ニーズに基づき顧客の成功を支援する

これらは、相互に密接に連携し、データとインサイトが継続的に循環するサイクルとして捉えることが重要です。

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スマタイ編集部
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