カスタマーサクセス部門において育成すべきスキルや人材育成方法を解説

カスタマーサクセス部門の立ち上げを検討している、あるいは立ち上げたばかりの企業において、顧客の解約率低下やLTV向上が課題となるケースがあります。
激化する市場で顧客に選ばれ続けるには、プロダクトの良さだけでなく、顧客の成功を追求する「カスタマーサクセス」が必須であり、その実現には専門性を持った人材の育成が必要です。
本記事では、カスタマーサクセス部門において育成すべきスキルやカスタマーサクセス人材の育成方法を解説します。部門強化のヒントを得て、顧客とともに持続的な成長を実現しましょう。
カスタマーサクセスにおいて人材育成が重要な5つの理由
カスタマーサクセスにおいて人材育成が重要な理由は以下の通りです。
【カスタマーサクセスにおいて人材育成が重要な理由】
- LTV最大化に貢献するため
- 解約率を低下させるため
- 競合優位性を確立するため
- 組織全体の生産性向上と属人化解消のため
- 転職市場においてカスタマーサクセス人材は希少であるため
カスタマーサクセスにおいて人材育成が重要な理由は多岐にわたりますが、顧客の成功を通じた自社の継続的な事業成長の実現を目的としている点が共通しているといえるでしょう。
LTV最大化に貢献するため
カスタマーサクセスにおける人材育成は、LTVの最大化に直接的に貢献します。LTV(Life Time Value)は、顧客一人あたりの売上総額を表す、現代ビジネスにおいて極めて重要な指標です。
育成されたカスタマーサクセス人材は、顧客の事業課題を深く理解し、自社プロダクトやサービスの最適な活用方法を能動的に提案できるようになります。これにより、顧客の成功が加速され、アップセルやクロスセルといった新たな契約へと繋がります。結果的に、顧客がサービスを使い続ける期間(継続率)も伸び、LTVが向上します。
さらに、顧客のLTV向上に取り組むことは、既存顧客からの売上増に繋がり、新規顧客獲得に過度に依存する必要性を低減します。CAC(新規顧客獲得コスト)の削減により、企業の収益性向上が見込める場合もあります。カスタマーサクセス人材の育成は、LTV最大化という形で企業の成長を強力に後押しします。
解約率を低下させるため
カスタマーサクセスにおける人材育成は、解約率の低下にも直結します。サービスの解約率は、事業の安定性に影響を与えるため、企業にとって顧客の離反は売上の減少を意味するからです。
適切に育成されたカスタマーサクセス人材によって、顧客の潜在的な不満や課題を早期に発見し、解約を未然に防ぐことができるようになります。たとえば、顧客の利用状況データからリスクを察知し、先回りしてサポートを提供したり、適切な情報提供を行ったりすることで、顧客の離反を防ぎます。
結果的に、顧客満足度の向上と解約率の低下により、事業の安定性が確保され、持続的な成長を実現できるでしょう。
競合優位性を確立するため
カスタマーサクセスにおいて人材育成が重要な理由としては、競合優位性の確立も挙げられます。現代の市場は類似製品やサービスで溢れ、機能面での差別化が困難です。そのような状況下で競合と差をつける鍵となるのが、「顧客体験の質」です。
質の高いカスタマーサクセスは、顧客が製品やサービスを使って「よかった」と心から感じ、長期的な関係を築くための不可欠な要素となります。適切に育成された人材は、顧客との間に強固な信頼関係を構築し、単なる機能提供に留まらない「伴走者」として、顧客の成功に不可欠な価値を提供できるようになります。
このように顧客の成功に欠かせない存在として価値を提供することは、他社には容易に真似できない強力な競合優位性となります。結果的に、新規顧客の獲得や既存顧客からの紹介に繋がり、持続的な事業成長を促進するでしょう。
組織全体の生産性向上と属人化解消のため
カスタマーサクセスにおける人材育成は、組織全体の生産性向上と属人化解消のために不可欠です。カスタマーサクセスの業務は多岐にわたり、個々のスキルや経験に依存しがちなため、特定の担当者にしか対応できない「属人化」が発生しやすいからです。これにより、業務が滞ったり、顧客対応の質にばらつきが出たりする可能性があります。
具体的には、人材育成を通じて標準化された質の高い顧客対応ができるようになります。育成プログラムを通じてナレッジや成功事例が共有されることで、新しく加わったメンバーも早期に戦力化でき、チーム全体の対応力と効率性が高まります。
属人化が解消されると、チーム全体の生産性が向上するだけでなく、顧客への均一で質の高いサービス提供が可能になります。これにより、顧客満足度向上にも繋がり、結果として企業の成長に貢献します。
転職市場においてカスタマーサクセス人材は希少であるため
SaaS市場の拡大によって、カスタマーサクセスの重要性は飛躍的に高まっています。顧客の成功が自社の成長に直結するSaaSビジネスモデルにおいて、カスタマーサクセスはLTVを最大化し、解約率を低下させる上で不可欠な存在です。しかし、この重要な役割を担えるカスタマーサクセスの専門知識や経験を持つ人材は、転職市場では極めて希少な存在となっています。
dodaの調査によれば、インサイドセールスやCSの求人件数は2019年1月と比較して2021年7月には約7.4倍に急増しており、これはコロナ禍での営業手法の変化やSaaS企業の成長が背景にあると分析されています。さらに、総務省の通信白書令和6年版では、クラウドサービス市場規模が2023年の約31億円から2028年には約65億円へと倍増する見込みであると報告されており、カスタマーサクセスの市場価値は今後も右肩上がりに高まり続けるでしょう。
カスタマーサクセス人材への急速な需要拡大にもかかわらず、市場には十分な経験者が不足しています。結果、外部から即戦力となるカスタマーサクセス人材を採用することは困難な状況です。SaaS企業が事業成長を継続していくために、自社内でカスタマーサクセスの専門知識やスキルを持つ人材を育成することが求められています。
カスタマーサクセス人材育成の基本的な考え方
カスタマーサクセス部門が組織として顧客の成功を最大化するためには、人材を体系的かつ効果的に育成していくことが必要です。この育成の土台となるのが、「カスタマーサクセス人材育成の基本的な考え方」です。それは、個々のメンバーのスキルアップに留まらず、部門全体のパフォーマンス向上と持続的な成長を実現するための考え方です。
「カスタマーサクセス人材育成の基本的な考え方」において、全ての出発点となるのは、自社におけるカスタマーサクセスの役割を明確に定義することです。「誰の、どのような成功を、どのように支援するのか」を具体的に定めることで、育成の方向性が定まり、その後の全てのプロセスが意味を持ち始めます。
「カスタマーサクセス人材育成の基本的な考え方」を構成する具体的な要素は以下の通りです。
【「カスタマーサクセス人材育成の基本的な考え方」を構成する具体的な要素】
- 育成目標とKPIの設定
- 段階的な育成ロードマップの策定
- OJTとOff-JTの組み合わせ
- 定期的なフィードバックと評価の実施
これらは、それぞれがカスタマーサクセス担当者の育成プロセスにおいて重要なステップや方針として位置付けられています。
育成目標とKPIの設定
カスタマーサクセス人材育成において、育成目標とKPIの設定が重要になります。育成目標とKPIは、育成施策の明確な方向性を示し、その効果を客観的に測定できるからです。
育成したいカスタマーサクセスの人材像を明確に目標として設定し、その達成度合いを測るための具体的なKPIを設定しましょう。
たとえば、「3ヶ月でオンボーディング完了率80%を達成できる担当者の育成」のように、定量的な目標と指標を定めることが重要です。育成の焦点を絞り、どのようなスキルや知識を習得させるべきかが明確になります。
また、1ヶ月目には「製品やサービスに関する基礎知識の習得」、3ヶ月目には「顧客対応の基本」、6ヶ月目には「顧客の課題に対する解決提案能力」といった段階的にスキルアップを図るロードマップを作成するのも有効です。
このように、育成の道筋を明確にすることで、個人の成長が可視化され、組織全体として一貫性のあるカスタマーサクセスを提供できる人材を安定的に輩出することが可能になるでしょう。
段階的な育成ロードマップの策定
効果的なカスタマーサクセス人材の育成には、段階的な育成ロードマップの策定が必要です。このロードマップは、カスタマーサクセス担当者がどのようなスキルをどの順番で習得していくべきか、その育成ステップを明確にした計画です。
ロードマップでは、新人からベテランまで、また個々の役割やスキルレベルに応じた具体的な育成内容を設定します。たとえば、以下のようなステップが考えられます。
【育成ロードマップにおけるステップの例】
- 入社1ヶ月目: カスタマーサクセスの基礎知識習得
- 3ヶ月目: 基本的な顧客対応
- 6ヶ月目: 顧客の課題解決提案
ロードマップを策定する際には、各段階で習得すべきスキルを可視化する「スキルマップ」の作成が有効です。スキルマップは、必要なスキル項目を一覧にし、それぞれの習熟度を評価できるようにするもので、個人の成長状況を把握しやすくなります。
段階的な育成ロードマップを策定することで、カスタマーサクセス業務の属人化を防ぎ、組織として効率的かつ継続的に質の高いカスタマーサクセス人材を育成できる仕組みを構築できます。結果として、顧客への均一で質の高いサポート提供が可能になり、部門全体のパフォーマンス向上に繋がるでしょう。
OJTとOff-JTの組み合わせ
カスタマーサクセス人材の育成において、OJT(On-the-Job Training)とOff-JT(Off-the-Job Training)の組み合わせは効果的です。
OJTは、日々の実務を通して顧客対応や課題解決のスキルを磨く実践的な学びの場を提供します。しかし、OJTだけでは個々の経験に偏りが生じ、体系的な知識習得が難しい場合があります。Off-JTでは、研修やセミナーなどを通じて、カスタマーサクセスに関する理論、顧客理解の手法、コミュニケーションスキルといった体系的な知識やスキルを効率的に習得できます。
この2つを組み合わせることで、実践力と理論の両面から人材を育成することが可能です。OJTで直面した課題や疑問点を認識し、Off-JTでその解決に必要な体系的な知識やスキルを習得を目指します。また、OJTの場で習得した知識を実践に落とし込み、定着させていくというサイクルを繰り返すことで、より深く効率的にスキルを身につけられるでしょう。
このようにOJTとOff-JTを効果的に連携し、顧客の課題に対してより質の高いソリューションを提供できるカスタマーサクセス担当者を育成できるようになるでしょう。
定期的なフィードバックと評価の実施
カスタマーサクセス人材の育成において、定期的なフィードバックと評価の実施も重要です。定期的なフィードバックと評価の実施により、メンバーは自身の成長を明確に認識し、継続的な学習と改善へと繋げられるからです。
育成プロセスの中で、メンバーの進捗状況や成果を定期的に確認し、具体的な改善点や強みを伝えるフィードバックを行いましょう。たとえば、顧客対応の質や提案内容、課題解決への貢献度など、設定した育成目標やKPI(重要業績評価指標)に基づき、習得度合いや成長度を客観的に評価します。
客観的な評価とフィードバックを通じて、メンバーは自身の現在の立ち位置と、次に何をすべきかを具体的に把握できます。結果として、自身の成長を実感し、モチベーションを維持しながら、次の学習や行動へと積極的に繋げることが可能になります。
効果的なフィードバックと評価を定期的に行うことは、人材育成を加速させるための不可欠な要素といえるでしょう。
カスタマーサクセスで育成するべきスキル
カスタマーサクセスにおいて育成するべきスキルは主に7つです。
【カスタマーサクセスにおいて育成するべきスキル】
- 顧客理解力・傾聴力
- 課題発見・解決能力
- コミュニケーション能力・交渉力
- 製品やサービスの知識
- データ分析能力
- プロジェクトマネジメント能力
- メンタルヘルス・ストレス耐性
カスタマーサクセスで育成すべきスキルは、顧客の成功を多角的に支援し、信頼関係を築きながら課題を解決へと導くための総合的な能力といえるでしょう。
顧客理解力・傾聴力
カスタマーサクセスにおいて、顧客理解力・傾聴力は育成すべき重要なスキルのひとつです。顧客の課題を正確に特定し、自社製品やサービスをその解決にどう活かすかを考える能力に直結するためです。
カスタマーサクセス活動 | 顧客理解力・傾聴力の意義 |
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オンボーディング | 顧客の目標や期待の把握、初期導入時の障壁の特定 |
アダプション | 顧客の利用状況と課題の把握、顧客の成功体験の深化 |
エクスパンション | 潜在ニーズの発見、顧客の事業戦略への貢献 |
CSオペレーション | ・顧客からの問い合わせやクレーム内容の正確な把握 ・VoC収集と改善への活用 |
たとえば、オンボーディングでは、顧客の初期の課題や疑問を事前に特定し、スムーズな導入を支援します。アダプションにおいては、顧客との対話から潜在的な課題を発見し、製品の活用を促進できます。
また、エクスパンションでは、顧客の事業成長における新たな課題やニーズを予測し、新たな価値提案に繋げることが可能です。さらに、CSオペレーションでは、顧客の声(VoC)に共通するパターンや根本的な課題を発見し、サービス改善へと繋げられます。
顧客理解力と傾聴力を高めることで、カスタマーサクセス担当者は顧客との信頼関係を深め、あらゆるフェーズで顧客の成功を強力に支援できるようになるでしょう。
課題発見・解決能力
カスタマーサクセスにおいて、課題発見・解決能力も育成すべきスキルのひとつです。顧客の抱える問題を正確に特定し、自社製品やサービスをその解決策として最大限に活用する方法を見出すことにつながるからです。
カスタマーサクセス活動 | 課題発見・解決能力の意義 |
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オンボーディング | 初期の課題や疑問を事前に特定 |
アダプション | 潜在的な課題の発見 |
エクスパンション | 事業成長における新たな課題やニーズの予測および発見 |
CSオペレーション | VoCに共通するパターンや根本的な課題の発見 |
たとえば、オンボーディングの段階では、顧客が製品を使い始める際の初期の課題や疑問を事前に特定し、つまずきを未然に防ぎます。また、アダプションにおいては、顧客との対話を通じて潜在的な課題を発見し、製品の利用促進に繋げます。
さらに、エクスパンションの局面では、顧客の事業成長を見据え、その中で生じる新たな課題やニーズを予測・発見し、アップセルやクロスセルの機会を創出します。CSオペレーションでは、顧客からの声(VoC)に共通するパターンや根本的な課題を見つけ出し、効率的かつ効果的な解決策を提供することで、顧客満足度を向上させます。
課題発見・解決能力を高めることで、カスタマーサクセス担当者は顧客の真のニーズに応え、顧客のビジネスを成功へと導くための強力なパートナーとなれるでしょう。
コミュニケーション能力・交渉力
カスタマーサクセスにおいて、コミュニケーション能力・交渉力は育成すべきスキルのひとつです。コミュニケーション能力や交渉力は、顧客との強固な信頼関係を築き、顧客の意見や要望を適切に社内にフィードバックし、さらにはアップセルやクロスセルに向けた効果的な提案を行うなど、カスタマーサクセス活動において必須だからです。
カスタマーサクセス活動 | コミュニケーション能力・交渉力の意義 |
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オンボーディング | 顧客との信頼関係構築、適切な情報提供と説明、導入スケジュールの調整 |
アダプション | 利用状況のヒアリングと課題特定、効果的な活用方法の提案、トレーニングや勉強会でのファシリテーション能力 |
エクスパンション | 顧客からの要望の吸い上げと社内調整、提案の価値を効果的に伝える交渉力 |
CSオペレーション | 日常的な顧客対応や問題解決、問い合わせ対応 |
たとえば、オンボーディングでは、顧客との信頼関係を初期段階で構築し、適切な情報提供や導入スケジュールの調整を通じて、スムーズなスタートを支援します。アダプションにおいては、顧客の利用状況をヒアリングして課題を特定し、効果的な活用方法を提案するためのファシリテーション能力が求められます。
エクスパンションでは、顧客からの要望を的確に吸い上げ、社内調整を行いながら、提案の価値を効果的に伝える交渉力が求められます。CSオペレーションでは、日常的な顧客対応や問題解決、問い合わせ対応において、円滑なコミュニケーションが顧客満足度を左右します。
優れたコミュニケーション能力と交渉力を持つことで、「顧客にとっての製品やサービスの価値」と「自社が得られるビジネス上の価値」を最大化できます。コミュニケーション能力と交渉力をもつカスタマーサクセス人材は、顧客との長期的な関係構築とビジネス成長に貢献できるといえます。
製品やサービスの知識
カスタマーサクセスにおいて、製品やサービスの知識は育成すべき極めて重要なスキルのひとつです。自社製品やサービスの機能やメリットを深く理解し、顧客へ効果的に説明することができれば、競合他社との差別化ポイントを明確に伝えることができるからです。
カスタマーサクセス活動 | 製品やサービスの知識の意義 |
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オンボーディング | 顧客が製品やサービスを導入する初期段階で、その機能や使い方を正確に伝える |
アダプション | 顧客が製品やサービスを継続的に利用していく段階でより高度な機能や隠れた価値を提案 |
エクスパンション | 顧客の新たなニーズに対応する製品のアップセルやクロスセルの提案 |
CSオペレーション | 迅速かつ正確なサポートを提供するうえで必要 |
たとえば、オンボーディングでは、顧客が製品やサービスを導入する初期段階において、機能や使い方を正確に伝えるために、深い製品知識が求められます。アダプションにおいては、顧客が製品を継続的に利用していく中で、より高度な機能やまだ気づいていない隠れた価値を提案するために、幅広い知識が役立ちます。
さらに、エクスパンションでは、顧客の新たなニーズに対応できる製品のアップセルやクロスセルを提案する際に、自社製品ラインナップ全体の知識が必要です。CSオペレーションにおいては、顧客からの問い合わせに対して迅速かつ正確なサポートを提供する上で、製品やサービスに関する深い知識が求められます。
データ分析能力
カスタマーサクセスにおいて、データ分析能力は育成すべき重要なスキルのひとつです。データ分析能力は、顧客の状態を把握し、適切なアクションプランを立案する能力に直結するためです。
カスタマーサクセス活動 | データ分析能力 |
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オンボーディング | ・顧客の初期利用状況(ログイン頻度、機能利用状況など)を分析し、早期離反の兆候や定着を妨げている要因を特定 ・顧客属性や過去の成功事例データに基づき、最適なオンボーディングパスやコンテンツを提案 |
アダプション | ・顧客のプロダクト利用データ(利用機能、頻度、利用時間、利用ユーザー数など)を分析、活用されていない機能を特定 ・利用状況のパターン分析により、特定の機能がなぜ使われていないのか、あるいはどのようにすれば活用を促進できるか考察 ・顧客セグメントごとの利用状況を比較し、成功している顧客の共通点や課題を抱える顧客の特性を把握 |
エクスパンション | ・顧客の利用状況データから、アップセル・クロスセルの機会を特定 ・顧客満足度調査の結果と利用データから、ロイヤルティの高い顧客や、他社へ乗り換える可能性がある顧客を特定 |
CSオペレーション | ・ヘルススコアの分析による現状把握やリスク予測 ・CS活動の効果測定(チャーンレート改善、LTV向上など) |
たとえば、オンボーディングでは、ログイン頻度や機能利用状況など顧客の初期利用状況を分析することで、早期離反の兆候や定着を妨げている要因を特定できます。また、顧客属性や過去の成功事例データに基づき、最適なオンボーディングパスやコンテンツを提案することも可能です。
アダプションにおいては、利用機能、頻度、利用時間、ユーザー数といった顧客のプロダクト利用データを分析し、活用されていない機能を特定します。利用状況のパターン分析を通じて、なぜ特定の機能が使われていないのか、あるいはどのようにすれば活用を促進できるのかを考察できるでしょう。さらに、顧客セグメントごとの利用状況を比較し、成功している顧客の共通点や課題を抱える顧客の特性を把握することにも繋がります。
エクスパンションでは、顧客の利用状況データからアップセル・クロスセルの機会を特定し、顧客満足度調査の結果と利用データを組み合わせることで、ロイヤルティの高い顧客や他社へ乗り換える可能性がある顧客を特定できます。そして、CSオペレーションでは、ヘルススコアの分析による現状把握やリスク予測、さらにはチャーンレート改善やLTV向上といったCS活動の効果測定に不可欠な能力となります。
データ分析能力を磨くことで、客観的なデータに基づいた戦略的な意思決定を行い、より効果的に顧客の成功を支援できるようになるでしょう。
プロジェクトマネジメント能力
カスタマーサクセスにおいて、プロジェクトマネジメント能力は育成すべき重要なスキルのひとつです。オンボーディングや導入後のプロジェクト進行を効率的に管理し、複数の顧客を並行して担当する際の優先順位付けと管理を可能にするからです。
カスタマーサクセス活動 | プロジェクトマネジメント能力の意義 |
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オンボーディング | 計画の策定と進捗管理、関係者との調整、リスク管理 |
アダプション | 活用状況の分析と課題特定、活用促進施策の立案と実行、効果測定と改善 |
エクスパンション | ニーズの把握と機会特定、提案と導入の計画、ROIの明確化 |
CSオペレーション | プロセスの改善、カスタマーサクセスツールの導入と活用、チーム内連携の最適化 |
たとえば、オンボーディングでは、カスタマーサクセス活動における一連のプロセスを円滑に進めるためにプロジェクトマネジメント能力が必要です。また、アダプションの段階では、計画的なアプローチを行ううえでプロジェクトマネジメント能力が欠かせないでしょう。
エクスパンションにおいては、顧客の新たなニーズ把握からアップセル・クロスセルの機会特定までを一貫して管理するために求められます。CSオペレーションでも、効率的な運用を実現するためにプロジェクトマネジメントの視点が欠かせません。
プロジェクトマネジメント能力を習得することで、複雑な顧客課題や複数のタスクを体系的に管理し、顧客の成功を確実に支援できます。さらに、チーム全体の生産性向上も期待できるでしょう。
メンタルヘルス・ストレス耐性
カスタマーサクセスにおいて、メンタルヘルス・ストレス耐性は育成すべき重要なスキルです。顧客との関係構築や課題解決において、精神的な安定とポジティブなマインドセットを維持する力が求められるためです。
カスタマーサクセス活動 | メンタルヘルス・ストレス耐性の意義 |
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オンボーディング | 新しい製品やサービスを導入する際の顧客の不安な気持ちに寄り添い、丁寧なコミュニケーションを取れる |
アダプション | 顧客の声に粘り強く耳を傾け、時には感情的になっている顧客に対して冷静かつ共感的に対応できる |
エクスパンション | 顧客の期待に応えられない状況や、難しい交渉に直面した場合も冷静に対処できる |
CSオペレーション | 顧客の感情を受け止めながら冷静に状況を把握し、的確な解決策を提示できる |
カスタマーサクセス担当者は、顧客の課題やクレームに日々対応するため、高い精神力が求められます。たとえば、オンボーディングでは、新しい製品やサービスを導入する顧客の不安な気持ちに寄り添い、丁寧なコミュニケーションを継続的に取れる精神的な余裕が必要です。
また、アダプションの段階では、顧客の声に粘り強く耳を傾け、時には感情的になっている顧客に対しても冷静かつ共感的に対応する力が試されます。エクスパンションでは、顧客の期待に応えられない状況や、難しい交渉に直面した場合でも冷静に対処し、前向きな解決策を模索する姿勢が求められます。
CSオペレーションにおいても、顧客の感情を受け止めつつ冷静に状況を把握し、的確な解決策を提示するためには、高いストレス耐性が不可欠です。カスタマーサクセス人材は、メンタルヘルスとストレス耐性を高めることで、どんな状況下でも顧客に寄り添い、信頼関係を維持しながら顧客の成功へと導けるようになるでしょう。
カスタマーサクセス人材の育成方法
カスタマーサクセス人材の育成には、複数の方法があります。主な人材育成方法は以下の6つです。
【カスタマーサクセス人材の育成方法】
- ロールプレイングによる実践的なトレーニング
- メンター制度・OJTの導入
- 外部研修・セミナーの活用
- ナレッジ共有システムの構築と活用
- クロスファンクショナルなチーム連携の強化
- 目標設定と評価制度の明確化
カスタマーサクセス人材の効果的な育成には、座学だけでなく実践を重視した多様なアプローチが有効だといえるでしょう。
ロールプレイングによる実践的なトレーニング
カスタマーサクセス人材の育成には、ロールプレイングによる実践的なトレーニングが有効です。ロールプレイングは、顧客とのリアルなやり取りを想定し、様々なシナリオに基づいて行うトレーニング方法です。
ロールプレイングによる実践的なトレーニングによって、実際の顧客対応で求められるコミュニケーション能力、課題解決能力、そして提案力を実践的に鍛えられます。さらに、座学では得られないスキルを習得できます。
ロールプレイングを行った後は、必ずフィードバックを行いましょう。自身の強みや改善点を具体的に把握することで、効果的な対応スキルを身につけ、実際の顧客対応に活かせるようになります。このサイクルを繰り返すことで、より質の高いカスタマーサクセスを提供できるようになります。
メンター制度・OJTの導入
カスタマーサクセス人材の育成において、メンター制度とOJTの導入は有効な方法です。OJTでは実践的な知識と経験を習得し、メンター制度で個別課題解決と定着支援を補完することで、早期に自律的な成長を促すことができるからです。
たとえば、e-ラーニングやオンライン学習プラットフォームで基本的な知識を習得した後に、メンター制度やOJTを組み合わせることで、座学だけでは得られない現場のノウハウや企業文化、顧客対応の「暗黙知」を効率的に伝達できます。これにより、理論と実践を結びつけ、より実践的なスキルを身につけられるでしょう。
このように、メンター制度とOJTの組み合わせは、カスタマーサクセス人材が現場で活きるスキルを習得できます。カスタマーサクセス人材が、早期の段階で業務に貢献できる状態へと成長を促す上で欠かせない育成手法といえるでしょう。
外部研修・セミナーの活用
カスタマーサクセス人材の育成には、外部研修やセミナーの活用も有効です。社内だけでは補いきれない専門的な知識や最新のトレンド、他社の成功事例などを効率的に学ぶことができるからです。
外部の専門機関が提供する研修やセミナーは、体系化されたカリキュラムで構成されており、カスタマーサクセスに特化した高度なスキル習得を促します。また、時間や場所の制約を受けにくいe-ラーニングやオンライン学習プラットフォームも、個人のペースに合わせた学習を可能にするため、有効な手段といえるでしょう。
このような外部学習の機会を活用することで、従業員は視野を広げ、より実践的なスキルを身につけ、顧客への提供価値を向上させることができます。結果として、組織全体のカスタマーサクセス能力が底上げされ、顧客満足度の向上と事業成長に貢献するでしょう。
ナレッジ共有システムの構築と活用
カスタマーサクセス人材の育成において、ナレッジ共有システムの構築と活用は、顧客対応履歴、成功事例、FAQ、プロダクト情報、業界知識などを一元的に管理し、チーム全体で共有するために不可欠です。
ナレッジ共有により、個人の経験や記憶に依存することなく、チームの誰もが必要な情報にいつでもアクセスできるようになります。その結果、顧客対応の質を均一化し、効率を大幅に高めることが可能になります。
たとえば、新入社員が顧客からの複雑な質問に直面した際、システム内の過去の解決策や関連情報を参照することで、自己解決を促し、オンボーディング期間の短縮にも繋がります。
ナレッジ共有システムは、チーム全体の知識レベルを底上げし、顧客への提供価値を最大化するために不可欠なツールといえるでしょう。
クロスファンクショナルなチーム連携の強化
カスタマーサクセス人材の育成において、クロスファンクショナルなチーム連携の強化も重要です。カスタマーサクセスは、顧客の成功を最大化するために、営業、開発、マーケティングなど、他部門との密接な連携が必要です。各部門が個別に動くのではなく、連携を強化することで、顧客への提供価値を最大化できます。
クロスファンクショナルなチーム連携の強化を図るためには、他部門との合同研修を実施したり、共同プロジェクトへの参加を促したりします。これにより、部門間の垣根を越えて、それぞれの役割や業務への理解を深めることができます。
クロスファンクショナルなチーム連携の強化によって、顧客の課題を多角的に捉え、全社一丸となって解決に導く体制を構築できます。それにより、包括的な顧客支援を実現し、顧客満足度とロイヤルティの向上に繋げることができるでしょう。
目標設定と評価制度の明確化
カスタマーサクセス人材の育成において、目標設定と評価制度の明確化も重要です。目標設定と評価制度の明確化によって、メンバーのモチベーションを高め、自律的な成長を促進するからです。
カスタマーサクセス人材の育成においては、育成目的を明確化し、個人およびチームの目標(KPI)を具体的に設定することから始めましょう。これらの明確な目標は、各メンバーが達成すべき事柄を明確に理解する助けとなります。
次に、目標達成度やスキル習得度を定期的に評価する制度を導入します。この評価は単に優劣をつけるものではなく、個人の成長を促すためのフィードバックの機会と捉えることが肝心です。
明確な目標と公正な評価は、メンバーが自身の貢献を認識し、強みや改善点を把握することを可能にします。メンバーが積極的にスキル向上へ取り組むうえで有効であるといえるでしょう。
カスタマーサクセス人材育成の成功事例
ここでは、2社のカスタマーサクセス人材育成の成功事例を2つ紹介します。自社のカスタマーサクセス人材育成の参考にしてください。
4つの手法による人材育成事例
タイミー社では、カスタマーサクセス人材の能力のばらつきや属人化を解消し、全員をハイパフォーマーにするために、独自の4つの手法を導入し成功しました。
顧客課題の複雑化や事業成長に伴い、個々のスキル向上だけでなく、組織全体のパフォーマンスの底上げが急務であったためです。これらの手法を通じて、個人の成長と組織全体の生産性向上を目指します。
手法 | 詳細 |
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ハイパフォーマーの型化 | 優れたパフォーマンスを発揮する要素を抽出し、組織全体の共通認識として言語化・明文化した。 |
CSM診断テスト | 各メンバーの現状スキルや知識を客観的に可視化し、強みと弱みを特定した。 |
成長計画の作成 | 診断テストの結果に基づき、個々人に合わせた具体的なスキルアップのロードマップと目標を設定した。 |
提案ロープレの実施 | 実践形式のトレーニングを通じて、顧客への提案力や課題解決能力を向上させ、課題の解像度と改善意欲を高めた。 |
これらの体系的な育成施策により、カスタマーサクセスチーム全体のパフォーマンスを向上させ、顧客への提供価値を高めることに成功しました。
参考: カスタマーサクセスの人材育成を成功させる4つの手法 | note
既存職種からのスキル転換で顧客成功を実現した育成事例
株式会社アイ・ラーニングは、企業の多岐にわたるニーズに応える研修サービスを提供しています。同社の講義では、既存職種からカスタマーサクセスへのスキル転換によって顧客の成功を実現した育成事例が紹介されました。
この事例では、あるITサービス企業が「品質・コスト・納期(QCD)」を重視する文化から、顧客視点のアジャイルなアプローチへの転換を目指しました。そこで実施されたのが、カスタマーサクセスリーダー向けのビジョン共有研修です。多くの企業が優秀な人材のマネジメントスキルや顧客視点不足という課題を抱える中、この研修はリーダー層に戦略的なマネジメントスキルと顧客視点の醸成を促し、組織全体の顧客中心主義を強化する上で不可欠でした。
研修では、リーダー層が共通の顧客成功ビジョンを持ち、メンバーに浸透させることに焦点が当てられました。特に、シニアリーダー層には目標管理や組織最適化の戦略的マネジメントスキルが、ハイタッチ層には共創パートナー営業やビジネスコンサルティングスキルが重視されました。さらに、メンバーの行動に着目し、能力を引き出す具体的な指導力を養うため、コーチングスキルの向上も図られました。
これらの育成を通じて、リーダー層の顧客視点とマネジメント能力が向上し、企業文化全体が顧客中心へと移行しました。よりアジャイルで顧客の成功に貢献できる組織体制が確立された好事例といえるでしょう。
参考: 「カスタマーサクセス」を実現させる人材育成方法とは? ~実践企業の事例から紐解くカスタマーサクセスの最前線 | アイ・ラーニング
まとめ
カスタマーサクセス部門の強化には、専門性を持つ人材の育成が不可欠です。人材育成は、LTVの最大化、解約率の低下、競合優位性の確立、組織全体の生産性向上と属人化解消に貢献します。
育成の基本的な考え方として、育成目標とKPIの設定、OJTとOff-JTの組み合わせ、定期的なフィードバックと評価の実施が挙げられます。
カスタマーサクセス人材が育成すべきスキルは多岐にわたりますが、主に以下の7種類です。
- 顧客理解力・傾聴力
- 課題発見・解決能力
- コミュニケーション能力・交渉力
- 製品やサービスの知識
- データ分析能力
- プロジェクトマネジメント能力
- メンタルヘルス・ストレス耐性
これらのスキルは、オンボーディングからエクスパンション、CSオペレーションに至るまで、各カスタマーサクセス活動において顧客の成功を多角的に支援するために不可欠です。
また、カスタマーサクセス人材の育成方法は、以下が有効です。
- ロールプレイングによる実践的なトレーニング
- メンター制度・OJTの導入
- 外部研修・セミナーの活用
- ナレッジ共有システムの構築と活用
- クロスファンクショナルなチーム連携の強化
- 目標設定と評価制度の明確化
これらの多様なアプローチを組み合わせることで、実践力を高め、組織全体のパフォーマンス向上と持続的な成長を実現できるでしょう。

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