間違いだらけの営業・マーケティング──「売ろうとするほど、売れなくなる」構造に気づけるか(でらマーケ勉強会 Vol.35)
2026年7月24日、名古屋。ASUE株式会社が運営するマーケティングコミュニティ「でらマーケ勉強会」の第35回に、当社取締役CMOの冨田が登壇しました。対談のお相手は、ウェルディレクション合同会社代表の向井俊介氏。営業を学術的に研究し、大学院で営業戦略の教鞭も執る”営業のプロフェッショナル”です。
テーマは「間違いだらけの営業・マーケティング|あなたの会社は本当に大丈夫?」。会場を埋めた参加者を前に、2人が語ったのは耳の痛い話ばかり──しかし、明日から自社を見直すヒントに満ちた90分でした。本レポートではその要点をお届けします。
(構成・執筆・編集:三原 里桜)
「でらマーケ勉強会」とは
「名古屋の若手マーケター界を盛り上げていこう」という想いのもと、ASUE株式会社が運営するマーケティングコミュニティです。始まりは、同社代表が会社員時代に抱いていた課題感でした。名古屋にはCSSやHTMLといった技術系の勉強会はあっても、マーケティングを学び合う場が少ない。東京で活躍するマーケターと自分に何が違うのか、確かめる術もない──。その原体験から2019年2月に第1回を開催し、今回で35回目を迎えます。現在はメンバー企業制度を設け、過去回のアーカイブ動画を社内で視聴できる仕組みも整備。毎回の勉強会後には懇親会が開かれ、登壇者と参加者、参加者同士が仕事を紹介し合うような交流も生まれています。名古屋発でありながら、東京・大阪から参加者やゲスト講師が集まる、熱量の高いコミュニティです。
登壇者紹介

向井 俊介(むかい・しゅんすけ)氏
ウェルディレクション合同会社 代表社員
約20年にわたるIT業界でのB2B営業経験を基盤にもつ。国内大手IT企業から外資系3社で多様な事業環境で成長を牽引。グローバルトッププレイヤーやトップマネージャーとして400%成長を牽引するなど、常に卓越した成果を創出してきた。2020年7月にはウェルディレクションを創業し、営業改善に特化したアドバイザーとして、業種・規模を問わず、組織が自律的に成長し続ける「自走型営業組織」の構築を支援。2023年には社会構想大学院大学で実務教育学の修士号を取得し、営業の理論を形式知化・体系化する。事業構想大学院大学の客員教授も務める。
HP:https://welldirection.jp/
X:https://x.com/Shun_Mukai0718

冨田 貴徳(とみた たかのり)
SALES ROBOTICS株式会社 取締役CMO
BtoBマーケティング/SaaS領域で約15年のキャリアを持ち、レベニュー全組織を経験。 一貫してマーケティングと事業成長の最前線を歩んできた。 2021年にCMOとしてSALES ROBOTICSへ参画し2024年12月より現職。 マーケティングで生み出した需要を、いかに分断なく営業成果へつなげるか「マーケと営業の境界」を設計し続けている。Salesforceが運営するユーザーグループ「インサイドセールス分科会」では2023年度会長、Inside Sales Conference統括責任者をも務める。データと人を起点にしたBtoBマーケティング/セールスの実践知を発信している。
この記事は、こんな方に
- 営業とマーケティングの連携に、どこか噛み合わなさを感じている経営者・事業責任者
- 施策は増えているのに、売上への手応えが薄いマーケティング責任者
- 従来のやり方が通用しなくなってきたと感じている営業マネージャー
「営業=販売」という誤解が、すべての間違いの出発点
向井氏がまず提示したのは、言葉の定義の問題です。
日本では「マーケティング」がプロモーションとほぼ同義で局所的に使われ、「営業」は「販売(セールス)」と混同されている。しかし本来、マーケティングは商売全体の設計であり、営業は対人コミュニケーションによって顧客に働きかける活動である──この整理が崩れているために、現場では「売ってこい」という号令だけが飛び交う、と向井氏は指摘します。
特にBtoBでは、この混同が致命傷になります。理由は明快です。
「お客様にとって、買うことは手段でしかない。何かの目的があり、自分たちのリソースで解決できないから、お金の力で外部リソースを入れる。それが購買です」(向井氏・要旨)
BtoBの購買には必ず経済合理性という目的が伴います。顧客が目的達成のために購買するのに対し、営業が「売ること」を目的にしていたら、話が噛み合うはずがない。営業とは売ることではなく、顧客の問題解決に関与すること──向井氏が25年の営業経験と研究を通じて到達した定義です。
冨田も、マーケティングの現場から同じ危機感を語りました。AIの普及以降、効率化だけを追い求めた「人を見ていない」マーケティング手法が激増している。実際に当社にも、退任済みの旧代表宛のメールが毎日のように届くといいます。受け取った人がどう感じるかを無視した一方的なアプローチは、目先の効率と引き換えに、もっと大きなものを失っている──それが次のテーマにつながります。
人は理屈でモノを買わない──AI時代にこそ「感情」に向き合う
では、なぜ「人を見ない」アプローチは機能しないのか。向井氏は、その根拠を学術の側から示しました。
「この商品の機能はこうです。導入する理由はこれです」──営業は一生懸命、理屈で購買を説明しようとします。しかし人は、理屈ではモノを買いません。伝統的な経済学は「人は合理的な判断をする」という前提に立っていましたが、それでは説明のつかない行動が次々と見つかったからこそ、行動経済学という学問が生まれた。もし人が完全に合理的なら、世の中から喫煙者はとっくにいなくなっているはずだ、と向井氏は喝破します。
「親がこの車に乗っていたから、自分もここに乗りたい」──人の行動を大きく左右するのは、こうした感情の部分です。それが前提にあるにもかかわらず、商売をする側は論理と効率だけで機械的に組み立てたコミュニケーションを発信してしまう。響くはずがありません。
そして向井氏は、AI時代への警鐘としてこう続けました。
「論理的な組み立てはAIの方が賢い。だからこそ、人間の感情にアプローチしにいくことをしない限り、その仕事はAIに代替される」(向井氏・要旨)
自分に届いたメールや通知を「うざい」「嫌い」と感じたとき、なぜ自分がそう感じたのかをメタ認知してほしい──それこそが、顧客の感情を設計に組み込む第一歩だという指摘は、多くの参加者に刺さっていました。

自社のマーケティングが、自社の市場を「殺された収益」
冨田が「市場を殺す」という言葉で警鐘を鳴らしました。
日本の市場は狭く、特にエンタープライズ・ミッドマーケット領域では対象企業数が限られています。その中で、獲得したリードに翌日から一斉に電話をかけ、相手に「これは何の電話だったんだろう」という感情だけを残し、CRMには「興味なし」の記録だけが蓄積されていく。本来良い取引先になり得たお客様との可能性を、自らのアプローチで閉ざしてしまう──これが「殺された収益」です。
象徴的なのが、業界で定説化している「資料ダウンロードから5分以内に電話せよ」というオペレーションです。冨田はこう切り込みました。
「お客様は今まさに資料を読んでいる。そこに電話をかけるのは、相手の都合ではなく”つながりやすいから”という売り手の都合。極めて利己的なコミュニケーションが、正しい手法として流通してしまっている」(冨田・要旨)
向井氏も、海外発のフレームワークを無批判に輸入する危うさを補足します。ジョブ型雇用の欧米では、買い手自身が成果責任を負っているため本気で情報を取りに来る。一方、日本の買い手は構造が異なるため、同じオペレーションを持ち込んでも機能しない。「5分以内」の根拠とされるデータも海外のものであり、前提が違うのです。
こうした間違いが再生産される根っこにあるのが、過去の成功体験だと向井氏は指摘します。この20数年でインターネットが生まれ、SNSが普及し、いまAIが登場した。売り手と買い手の情報格差が消えた時代に、過去の成功体験はもはや使い物にならないことの方が多い。かつては「いかに早く、多く顧客先に足を運び、課題をヒアリングしてくるか」が営業の定石でしたが、情報があふれる現在、同じやり方で「課題は何ですか」と聞いても顧客は何も語ってくれません。
にもかかわらず、当時の成功体験を持つ人が部長や本部長になり、時代錯誤の営業プロセスや、昔のままの採用要件を現場に当てはめてしまう。うまくいかないと、採用した本人が責められる──しかし責められるべきは、時代の変化をメタ的に捉えられないマネジメントの側ではないか。だからこそ向井氏はアドバイザーとして支援に入る際、「経営者ないし事業責任者が直接関わること」を条件にしているといいます。評価制度や目標設定、組織構造にまで踏み込まなければ、この構造は変えられないからです。
【自社実装】ホワイトペーパーのフォームを全廃した結果
ここで冨田が明かしたのが、当社自身の失敗と転換の実例です。
かつて当社も、お役立ち資料をフォームの奥に置き、ダウンロードした方に架電するという「定石」を実践していました。しかし、架電の録音数百件をすべて聞き込んだ冨田が確認したのは、「相手は当社にも当社のサービスにも、一切興味がない」という一次情報でした。
さらに約1年程かけて、フォーム経由リードから生まれた営業機会と収益を計測。結果は衝撃的でした──そこからの収益はほとんどあがっていなかったんです。人とお金を投じた「かっこいいデジタルマーケティング」が、収益につながっていなかったのです。
そこで2023年9月、当社は思いきってお役立ち資料のフォームを全廃しました。起きた変化は次の通りです。
- 資料の閲覧数が数十倍に増加(公開直後は数百倍規模のアクセスも)
- 指名検索と問い合わせが増加
- 問い合わせ経由の商談が、正しく売上に接続するようになった
フォームという関門は、コンテンツを見たい人の大半を弾いていただけでした。「その瞬間に資料を見たい人」と「当社とビジネスをしたい人」は別である──データがそれを証明した以上、リード獲得数というKPIに固執する理由はなかった、と冨田は語ります。もちろんリード数の計測は今も行っていますが、取得チャネルによっては「あえてコンタクトしない」「従来の獲得型コミュニケーションをしない」ルールを敷いているとのことです。

顧客が語る「課題」は、課題ではない
セッション後半、向井氏が提示したのは「問題・原因・課題」の構造論です。
向井氏がこれまで実施してきたワークショップでは、「課題とは何か」の定義が社内で揃っていた会社は、延べ3,500人に実施してゼロ。つまりほぼすべての組織が、定義の揃わない言葉で「課題解決」を掲げているのです。
向井氏は自身の腰痛の体験でこの構造を説明しました。「腰が痛い」は自覚できる症状=問題。その裏には糖質の過剰摂取という原因があり、原因が引き起こした肝臓の炎症こそが、手を打つべき課題だった。名医は症状にいきなりメスを入れず、問診を通じて原因を特定してから処置を決めます。
営業も同じです。顧客が口にする「売上が上がらない」は問題(症状)にすぎない。そこにいきなり自社ソリューションを当てるのは、「腰が痛い」と言う患者に開腹手術を提案するヤブ医者と同じ──問題の奥にある原因を対話で特定し、原因に紐づく課題に自社の解決策を当てる。この順序を踏まない限り、たとえ売れたとしても真の課題は解決されず、顧客は「予算の都合で」という建前だけを残して静かに離れていきます。
失注理由も同様です。「予算がない」「今じゃない」の多くは建前であり、本当の理由は「この投資を社内で合理的に説明できなかった」であるケースが多い。だとすれば営業がやるべきは値引きやクロージングの強化ではなく、お客様が社内で判断できる状態をつくるための情報提供だ、と向井氏は強調しました。
マーケターは「顧客」に会いに行け
では、マーケティングは何から始めるべきか。冨田の提言はシンプルでした。
事例取材で「導入理由」を聞くのではなく、2〜3年継続してくれているお客様に「なぜ継続してくれているのか」を聞きに行くこと。継続顧客には競合からの提案が複数回入っているはずで、それをどんな基準で断ってきたのかにこそ、自社の本当の価値が表れます。
その際、向井氏が付け加えた注意点が重要です。BtoBの顧客には「使う人」と「買う人」の2種類がいて、使い続けたい理由と買い続けたい理由は別物。稟議を書く現場の方と、それを承認する決裁者の双方に話を聞かなければ、片落ちの理解になります。
実際、当社でも継続理由を営業や運用責任者に想像させると「報告書が分かりやすいから」といった答えが返ってきますが、お客様が実際に語ったのは「相談したとき一番考えてくれる」「自社の社員にはやらせられない泥臭いことを、嫌な顔ひとつせず実行してくれる」だった──この掛け違いを放置すると、自社の強みの定義から間違えることになります。
SALES ROBOTICSではこの反省から、マーケティング部門が業務を越境し営業の商談に同席、営業と一緒に提案を作る体制へと組織を変えています。AIで効率化した時間を「現場に行く時間」に再投資する。人の感情に向き合う部分こそ、AI時代に人間が担うべき仕事だからです。

会場からのQ&A
Q1.「問い合わせを増やしたくてコンテンツを増やしているが、それ自体が悪いコミュニケーションになっていないか不安です」
冨田の答えは、ここでも「一次情報」でした。コンテンツに接触してくれた方に、即座に営業活動をするのではなく、どんな背景・目的があって情報をご覧になったのか、役に立ったことはなんだったのか、その背景は?──これらを正しく対話すること。
コンテンツを増やすこと自体は間違っていなくても、次に「どんなコンテンツが喜ばれるのか」という観点が生まれるはずだ、と。
向井氏は営業の視点から補足します。問い合わせをしてくる時点で、顧客は問題を自覚している。ここで多くの企業がやってしまうのが、自社の解決策をあたかもその問題を解決するもののように紹介すること──つまり、原因もわからないまま処置を提案する「ヤブ医者」のコミュニケーションです。必要なのは「この問題が起きているのは、なぜだろう」を一緒に考える対話であり、そのためには顧客の業務プロセス・組織構造・システムを想像できる業務知識が不可欠だといいます。
そして、両者から印象的なフレーズが飛び出しました。
「お客様は『買わない』と判断しているのではなく、『買う』という判断ができないんです。判断できないということは、問題を解決できないまま現状が進んでしまうということ」(向井氏、冨田・要旨)
自社の売り物につながらなくても、対話を通じて原因が整理できれば、顧客にとっては前進。そうなれば「あの人は専門知識があるから、相談してみよう」と、顧客の方から声がかかるようになるのです。
Q2.「ヒアリングしてこい」と言われたら、何をすべき?
セッション後の質疑応答も白熱しました。中でも会場を沸かせたのが、参加者の方からの率直な質問です。「上司から『ヒアリングしてこい』と言われ続けています。どうしたらいいでしょうか」。
向井氏の答えは、意表を突くものでした。「その状態でヒアリングをしてはいけません」。
前提として押さえるべきことが2つある、と向井氏は言います。
1つは、新規顧客にとって営業からのコミュニケーションは基本的に「不快」であること。
もう1つは、顧客はすでに何らかの手段で情報を持っており、充足しているのが当たり前だということ。ネガティブな状態からスタートしている相手に、いきなり「課題は何ですか」と聞いても、答えてもらえるはずがないのです。
では、どうするか。最初にやるべきは質問ではなく、自分への「信用」を積むことだと向井氏は説きます。具体的には、第三者の話として知識を差し出すこと。「同じような規模の会社様では、最近こういうことでお困りのケースが多く、AIを活用してこの業務プロセスを大きく改善した例もあるのですが、御社ではこの領域はどうされているのですか」──こうした会話を重ねると、顧客は「この人はいろいろ知っているな」と感じ始める。自慢でもマウントでもなく、相手のために知識を差し出す。その信用が貯まって初めて、顧客の方から口を開き、「ちなみに、こういうことはご存知ですか」と逆に尋ねてくれるようになる。そうなれば、ようやくヒアリングのスタートラインです。
「ヒアリングは絶対にしなければいけない。ただ、何を・どの順で・どのタイミングで聞くかを間違えるから滑る。文脈のない質問はしない、ということです」(向井氏・要旨)
もう1つ、参加者へのはなむけとして向井氏が贈った言葉が印象的でした。「効果の出ないものを効率化しても、意味がない」。この時代、誰もが効率化を追い求めますが、順番が逆です。まず効果の出るコミュニケーションを作り、それから効率化する。効率化が先に来ると、意味のないことを高速に量産するだけになる──マーケティングも営業もAI活用も、すべてに通じる戒めです。
まとめ:営業・マーケティング責任者が、考えるべきこと
- 自社のアプローチは、市場を育てているか、殺しているか ── 獲得リード数の裏で、「二度と話を聞きたくない」と感じた見込み顧客が何社生まれているか。計測していないなら、それ自体が答えかもしれない。
- 顧客が語る「課題」の奥を、組織で見に行けているか ── 失注理由の「予算がない」「今じゃない」を額面通りに受け取り、建前の情報をもとに会議をしていないか。
- 選ばれ続けている理由を、顧客の言葉で語れるか ── 自社の強みを、社内の想像ではなく、継続顧客が競合提案を断ってきた基準で説明できるか。
イベント後記…
セッションのあとは、懇親会&サプライズのお祝い
熱量の高いセッションのあとは、会場をそのままに懇親会へ。この日は特別協賛のクラフトコーラ【協賛企業:株式会社CONOCOLA】やハンバーガー、ビールなどのドリンク・軽食を片手に、登壇者と参加者、参加者同士が語り合う時間が続きました。セッションでは聞けなかった一歩踏み込んだ質問が登壇者に次々と飛ぶのも、この勉強会ならではの光景です。
そしてこの日はもうひとつ、特別な瞬間が。懇親会では、参加者全員で向井氏の誕生日のお祝いをサプライズ!お祝いの拍手が送られ、学びと交流、そして人のつながりを感じさせる一夜となりました。




次回の、でらマーケ勉強会にも、豪華ゲストの登壇が予定されているとのこと。
名古屋のマーケターの熱量に触れたい方は、ぜひ足を運んでみてください。
不定期でマーケティング、インサイドセールス、営業支援に関する最新の情報を発信していきます。
イベント・セミナー
現在受付中のセミナー・イベントはありません。
オウンドメディアの最新情報をSNSで発信中
インサイドセールス支援のサービスについて知る