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インタビュー

AIに任せ、人にしかできない密度でお客様と向き合う ナレッジワーク 桐原理有・新川諒弥 #THELEADERS

現場で活躍するインサイドセールスのキーマンに、SALES ROBOTICSの冨田貴徳が取材する連載企画「THE LEADERS」。

第32回となる今回のゲストは、株式会社ナレッジワークの桐原理有さんと新川諒弥さんです。ナレッジワーク社への取材は3年ぶり2回目。桐原さんは前回に続いてお話を伺うとともに、新川さんは前職での取材を経て2回目の出演となります。

3年前、同社はシングルプロダクトの会社でしたが、AIの登場によって事業は大きく舵を切り、ソリューションも、組織も、営業の日常も様変わりしました。M&Aを通じてのプロダクト開発や、マーケティング部門の中にプリセールスまでを置く組織設計。

前半では、その3年間を見てきた桐原さんに、事業と組織の変遷を伺います。後半では、入社1年で役割が変わり続けている新川さんに、インサイドセールスという仕事のこれからを。AIに任せられることが増えた先に、人に残る仕事とは何なのか、お二人にたっぷりと伺いました。

ナレッジワーク社 1回目の記事はこちらから
ありのままを伝える大切さ。ナレッジワーク桐原理有・岡野亮太 #THELEADERS
https://salesrobotics.co.jp/ownedmedia/20230921_3091/

(執筆:サトートモロー 編集・音声編集:三原里桜 撮影:小林一真)

AIの登場で進化した事業と組織

冨田:
ナレッジワーク社は2回目のご登場ですね、連続での出演ありがとうございます。まずはお二人の自己紹介と、現在の役割について教えてください。

新川:
私はマーケティング部門に所属しており、マーケティングの計画策定や予算管理、インサイドセールスメンバーのPDCAマネジメントなどを担う立場です。

新川諒弥
ソリューションマーケティングユニット
マーケティンググループ

2017年、第一三共プロファーマ株式会社(現 第一三共)入社。承認前医薬品の品質研究職、生産管理職に従事。2022年、株式会社タイミー入社。インサイドセールス職に従事。チームリーダーを務める。個人賞、チーム賞等、複数の社内表彰を受賞。2025年、株式会社ナレッジワーク入社。

桐原:
私は変わらず、エンタープライズセールスとしてアカウントを担当しながら、オーナー的な立場でお客様の※エグゼクティブカバレッジを担当しています。

※エグゼクティブカバレッジ
顧客企業の役員クラス(エグゼクティブ)と継続的に接点を持ち、関係を構築・維持する活動。

冨田:
桐原さんは、役割そのものは3年前から変わっていないのですね。

桐原:
はい。ただ、世の中の戦況は日々変わります。そのため顧客接点に軸足を置きながら、プロダクトやソリューションのお客様への届け方を常にチューニングしています。そのためのレポーティングは、かなり優先順位を上げて取り組んでいます。

桐原理有
専門役員 Principal
アカウントマネージャー

2001年、法政大学経営学部卒業。2004年、株式会社ワークスアプリケーションズ入社。大手法人営業に14年間従事。売上合計金額・顧客単価は、当時の同社史上最高を記録。2022年、スタートアップ2社にて執行役員を務めた後、株式会社ナレッジワーク入社。

冨田:
前回の取材時、ナレッジワーク社はまだシングルプロダクトでしたが、現在はサービス群も大きく広がっています。プロダクトの内容や位置づけなど、どのような変遷をたどってきたのでしょうか?

桐原:
最初はナレッジのシェア、「ナレッジワーク社内共有(現:ナレッジワークセールスナレッジデータベース)」というソリューションからスタートしました。CRMやSFAのように営業管理者が案件を管理する「セールスマネジメント」に対して、営業担当者一人ひとりを支える「※セールスイネーブルメント」を担う位置づけです。ただ、それだけではイネーブルメントプログラムを作るのが難しいため、学習プログラムの展開やスキルのシェアにも広げていきました。

※セールスイネーブルメント(Sales Enablement)
営業組織の成果を高めるために、ナレッジや学習コンテンツ、ツールなどを整備し、営業担当者が能力を発揮できる状態をつくる取り組み。

もともとAIには取り組んでいましたが、 AI技術の発展とともに「いかにAIを活用できる基盤を作るか、エージェントを構築していくか」という方向性に急激に変化しました。そして、2024年12月から2025年1月頃のタイミングで、一気にAIプロダクトへとシフトしていきました。

そこから、2025年5月に商談解析AI「JamRoll」を展開する株式会社PoeticsをM&Aし、「ナレッジワークAI商談記録」というソリューションを加えることができました。これでお客様の商談データに深く入り込めるようになり、今はエージェントの提案やコンサルティング提案が多層でできる形に変わりました。

あのタイミングでAIに舵を切っていなかったら、今どうなっていたことか……。そう考えると震えるほど怖いですね。

おかげで現在、私たちは「ナレッジ」というお客様の社内資料のデータと「商談の記録」のデータを両方持っています。しかもCRMやSFAに入っているデータではなく、今こうしてやり取りしている対話のデータを持っている。

この二つを持っているからこそ、今後のシナリオが描きやすくなりました。片方のデータしかなければ、競合他社にいくらでも代替されると思います。

冨田:
社名にもある「ナレッジ」という言葉に結びつく価値が変わったというより、増えたというイメージですね。

桐原:
そうですね。お客様にも、ナレッジと商談記録の二つは営業のイネーブルメントにおいて必須のピースだと説明しています。

冨田:
組織体制はこの3年でどう変化したのでしょうか?

桐原:
営業は、もともと「アカウント担当」として広くお客様を担当していましたが、現在はかなり絞り業界ベースで3〜4つの組織に分けて担当するという形にしています。

組織全体で20名もいかないくらいの人数で、他の会社にこの話をすると皆さんびっくりされます。それくらい少人数で、お客様と深く関わるビジネスをしています。

冨田:
バーティカルに深く入れる体制を取りつつ、人数はむしろ絞って精鋭部隊で動いていらっしゃるのですね。

桐原:
私自身も経験したことがないほど営業活動の難易度が上がっていると感じます。そのため、若手の採用・育成も続けていますが、一定の経験者を中心に採用して取り組んでいます。

マーケティング組織にプリセールスがある理由

冨田:
インサイドセールスはマーケティング部内にて組織化されていると伺っていますが、どのような体制なのでしょうか?

新川:
ソリューションマーケティングユニットの中にマーケティングの企画・実行を担うグループがあり、インサイドセールスも同居しています。その他のグループに、プロダクトマーケティング専門のグループやデザイングループ、ソリューションエンジニア、つまり※プリセールスのような機能も、この組織の中にあります。ユニット全体を通じて、プロダクトマーケティングの上流から下流までを、一つの組織で担っているんです。

※プリセールス
受注前の提案段階で、技術的な説明やデモンストレーションなどを通じて営業を支援する職種・機能。ソリューションエンジニアとも呼ぶ。

冨田:
マーケティングの中にプリセールスがあるというのは、私の経験上あまり聞いたことがありません。なぜマーケティングの中に置いたのですか?

新川:
経緯として、まずプロダクトが増えた段階で営業部門の中に製品別の専門チームができました。その中に、顧客戦略や商品紹介資料の作成を担当するプロダクトマーケティングの組織が存在していました。

その後、ソリューションがプロダクトだけではなく、AIエージェントのような「お客様ごとに最適化するソリューション」になっていきました。そうすると、決まったパッケージをご提案するというより、デモンストレーションや個別最適化したものをお見せすることが、マーケティングやセールスの初期段階で必要になります。

そこでプロダクトマーケティングが、「提案資料を作る」機能と「お客様にカスタマイズした個別提案を作る」機能の二つに分かれました。最後に、デリバリーの機能を持つマーケティングも合流しています。

つまり、もともと二つあった組織が合流して、今の形になったというわけです。

冨田:
お客様のイシューがサイロ化・多角化していく中で、プロダクトも多角化している。だからこそ入り口の部分で、バイアスをかけずに正しくプロダクトをインプットしていただくフィルターが必要だったと。

結果、営業にお渡しする手前の段階で正しく課題を吸い上げるために、プリセールスが介在する座組になったのでしょうか?

桐原:
通常、インサイドセールスと、プリセールスのようにプロダクトを精度高くアプローチする人は組織が別々ですよね。まだ効果が最大化されているわけではないけれど、感覚的には今の体制は良さそうだと感じています。

お客様接点で手に入れられる情報は非常に多いです。それをマーケサイドが手に入れて、外部にどう出すか、プロダクトにどう反映するか、社内のメッセージをどう作るかを小さく素早く回していける。そこに価値を感じています。

冨田:
確かに、得られる情報量やお客様から発せられる言葉の量もだいぶ変わりそうです。KPIにはしづらいですが、重要なポイントだと感じます。

桐原:
そうですね。今はお客様をエンタープライズに絞って、より重厚な提案や一緒にプロジェクトを組んで作っていく世界観にしています。それにより、提供するソリューションに「一品一様」感が出ているかなと。

冨田:
事前の打ち合わせでも、もともと数千社から数百社まで絞り込んで、かなり細かい戦略を実行されていると伺いました。今のお話がその本質部分なのですね。

桐原:
確実に提案の質は向上していますが、一方で提案の筋道の良し悪しをきちんと判断しないと危険でもあります。その点を会社として判断してフィードバックしていくというサイクルを回すためにも、組織をコンパクトに持ちたいと考えています。

冨田:
エンタープライズ営業は時間軸の影響が大きいからこそ、手前の段階でお客様から情報をさまざまな観点から取り出すことが重要になります。しかし、それが一人の能力に依存するとバイアスがかかってしまいがちです。

その点、皆さんの組織は職能の違う方々を混ぜることで、さまざまなコミュニケーションが生まれる状態が作れているとイメージできました。とても先進的な組織デザインの形だと思います。

手間暇もかかりますし、生産性などさまざまな検証を日々やらなければいけないため、ご苦労は増えると思います。その分、組織の形が成立すればとても良い検証データが取れそうです。

「営業企画」から「DX・AX部門」へ

冨田:
ナレッジワーク社といえば、さまざまなところで目にするくらい、エンタープライズ企業との取り組みの話題が尽きない企業だと認識しています。既存のお取引からの拡大はもちろん、新規のお客様ともさまざまな発表がありますよね。

AIが登場してもうすぐ3年ですが、お客様からのお問い合わせなど、営業活動にはどのような変化がありましたか?マーケティングから営業にかけての活動において、広くお伺いさせてください。

新川:
マーケティングからインサイドセールスという組織の切り口で言うと、まず対面しているお客様の「部署」が変わり始めています。これまで見たことがなかったような部署からのお問い合わせが、増えています。

もともとお問い合わせが多かったのは、営業企画や営業現場の皆さんでした。ここ最近は、DX関連の部署に加え、※AXといった新しい言葉を冠した部署からのお問い合わせが増えたように感じていますね。

DXやAXといった部門の方々は、AIの「できること・できないこと」の理解がとても深いです。問い合わせでも、「汎用型のAIだとここまでしかできないから、もっと業務に深く入り込んだことを実現したい。だからナレッジワークに問い合わせました」というご相談を多くいただきます。

※AX(AI Transformation)
AIを活用して業務や事業のあり方を変革すること。DX(デジタルトランスフォーメーション)に続く概念として使われる。

冨田:
デジタルトランスフォーメーション時代の組織の立ち上がり速度と比べて、AXの組織はだいぶ動きが早いなと個人的に感じています。

桐原:
多くの企業がAIに投資する一方で、実際に成果につなげられているケースはまだ多くありません。 

つまり、DXやAXに関係する組織は、早く結果を出さなければいけないというパフォーマンスを求められている。その影響で、当社への問い合わせを含めてさまざまな反応につながっているのでしょう。

冨田:
市場の変化の話も非常に興味深いですが、それだけで何時間も話せてしまいそうなので次の話題にいきましょう(笑)。

インサイドセールスはクリエイティブな仕事

冨田:
ここからは、お二人の具体的な活動内容に進みたいと思います。まず新川さんは、インサイドセールスとしてどのような活動をしているのでしょうか?事前の打ち合わせでは、40社程度のお客様を担当していると伺っています。

新川:
インサイドセールスチームは、1人あたり大体40〜50社を担当しています。主な仕事内容ですが、AI活用が進んだことで逆に「人間にしかできないところ」に業務のウエイトが移った感覚があります。

私たちはエンタープライズ企業に深くアプローチしているため、メールと架電が中心であり、人の手によって、より生々しい声を届けながら活動しています。コール数などの指標もありますが、そこまで強く数字を追っているわけではありません。むしろ、「1社にどれだけシャープなメッセージを届けられるか」を重視しています。

体制としては、1人のインサイドセールスが7-10人程度のアカウントマネージャーとバディを組んでいます。担当企業の状況や※アカウントプランの方針、どのような顧客の声を拾えているかを、週次の定例で連携しています。

そのうえで、アカウントプランをどう前に進めていくかを個別に連携しつつ、自主的に活動しています。

※アカウントプラン
担当する顧客企業(アカウント)ごとに、組織構造やキーパーソン、課題、攻略の方針をまとめた戦略計画。

冨田:
桐原さんは自己紹介で「役割は変わっていない」と話していました。営業として3年前と比べて変化したと感じるもの、意識的に変化しようとしている部分はありますか?

桐原:
私自身が変えていこうとしているし、会社としても変えようとしているのは、AIの活用による活動の効率化と生産性の向上です。ここはもう、徹底的に取り組んでいます。多分、社内で私が一番やっているんじゃないかな。今絶賛子育て中で、どう効率的に仕事を進めるかは急務なテーマなんです(笑)。

なにをやっているかというと、商談を記録してもらってその後は徹底的に自動化です。商談が終わったらSalesforceにデータが入り、ネクストアクションも精査される。AIには私の営業スタイルを学習させていて、社内のハンドブックからマニュアル系を学習させています。

そのため、出力されるアクションにも違和感がないし、精度も非常に高いです。資料作成のフローも設計できているので、移動中に「こういう整理をしてほしい」と音声入力でリクエストしています。

おかげで、顧客コミュニケーションのみに集中できる状態になってきています。これが営業活動の大きな変化ですね。本当に素晴らしい時代だなと思います。今まで大嫌いだったタスクをすべて、やらなくてよくなったんですから(笑)。

冨田:
ナレッジワーク社には営業ハンドブックがあり、組織内でルールや定義が統一されていて、何を合意するかも定義されている。この土台があるからこそ、商談から得られた情報のコンテキストをAIが読み解き、Salesforceやアクションというアウトプットまで持ってきてくれるのだと思います。土台がしっかりしているから、仕組みがうまく機能しているのですね。

桐原:
そこがとてつもない差別化だと思っていますし、この環境がなければAI活用で精度を上げるのは非常に難しかったと思います。

冨田:
しかも、対人コミュニケーションに深みを持たせられることで、自然と取り出せる情報が濃くなっている。この点に「人の力」を感じます。AIやAIエージェントの環境が土台になり、その上に人のスキルが積み上がって、行ったり来たりしながらループしているイメージです。

桐原:
最近、ハイパフォーマーがAIを活用すると相当楽になるのだと明確に分かってきました。

一方で、完全に依存モードに入ったときのリスクも意識しないとなと。あまり染まりきらないようにしないと、せっかく楽しい営業活動が阻害されるとも感じています。

冨田:
インサイドセールスとしては、AIをどのような場面で活用し、新川さんご自身は対人としてどこに比重を置き始めているのでしょうか?

新川:
インサイドセールスの業務をステップに分けると、「リストを作る」「リサーチをする」「顧客とのコミュニケーション」の3段階かなと思います。

リスト作成は、ほとんどAIのほうが精度も高ければ時間もかからないというのが現状です。昔はSFAを開いて直近の顧客のアクティビティを見たり、MAを使ったりしてリストを作成していました。今は、自分が見ていた観点を全部AIに教えています。

一言伝えれば、2〜3分後に「この100社のリストはどうですか」と返ってくるので、それを承認するかしないかという形です。結果、リスト作成は完全に「指示を出す、承認をする」だけになりました。

社内にはこれまでの商談の記録が連綿と積み重なっています。一般的なリサーチとは別に、顧客の生の声や課題として語られているものも一緒にリサーチできる。昔では考えられませんし、そこまでやる時間は到底なかった。Webに載っていない自社固有のデータも含めて、このお客様にどういう仮説、どういう課題でアプローチしていくかという戦略が、今は一瞬で出来上がります。

そのため、現在比重を置いているのは「アプローチ」です。メールの下書きは一旦AIに書かせますが、それを眺めたときに、自分が伝えたい思いや狙いをどう表現して取り入れていくかを入念にチェックしています。

一見綺麗な文面だと良い内容に感じますが、文面の綺麗さよりも書いてある密度や想いのほうが、結局お客様に響いている気がします。そこを最終的に人がレビューして送信する。そして、電話の中でどうコミュニケーションを取るか。こうした活動に軸足が移ってきています。

冨田:
コピーライティングにより一層こだわるようになったというお話ですね、とても興味深いです。実は私も、日々仕事をする中で近い感覚があるんです。

綺麗に紡がれた言葉には感動しないというか、あまり反応しなくなってきていて。むしろ、泥を被ったような、お客様の言葉から考えて生み出された、上手くはないけれどどこか自分たちらしく、お客様らしいフレーズを、コピーライティングにしようと意識しています。

そうした部分に、時間がかなり使われているということなんですね。

新川:
そこに割く時間がかなり増えました。オペレーティブというよりは、かなりクリエイティブな仕事に移ってきた感覚です。カタログスペックで訴求しようという営業アプローチは、メールでも電話でもほぼなくなりました。

冨田:
従来なら膨大な時間がかかっていた、リスト作成やリサーチといった「手前のアクション」がAIで短縮されるからこそ、アプローチも当日、翌日には実行できる。そして空いた時間をクリエイティブな仕事に充てられるため、接触の回数が増え、関係性や双方の理解度、つまり信頼性が上がりやすくなりますよね。

コミュニケーションはなくなった?社内連携と評価制度

冨田:
営業とインサイドセールスの社内コミュニケーションは、どのようなやり取りをしているのですか?

桐原:
それこそAIを使って、私たちが進めている案件はすべてインサイドセールスが勝手に把握してくれているので……状況を共有するためのコミュニケーションはほとんどないです(笑)。

冨田:
前回の取材では、どう“お化粧”させずに情報を流通させるかを大切にしていました。

記事としてもすごく印象的だったのですが、それがなくなっているとしたらインサイドセールスはどのように情報を把握しているのですか?

新川:
今はAIに聞けば、「いつ、誰と、どんな商談をして、どんな結果だったのか」が一気に得られます。その情報とアカウントプラン、そしてバイヤーマップの3つを揃えると、私たちインサイドセールスが次にどこに動くべきかは会話をせずとも分かるんです。

桐原:
基本的にアカウントプランがあるので戦略は決まっているし、アプローチしたい組織も見えています。「この組織のこの人」までフォーカスされてはいませんが、アカウントマネージャーとしてはそこまでは求めておらず、一定範囲の方々にアプローチしてくれればそれでいい。

実際、AI活用でその精度は格段に上がりましたし、私たちも「ありがとう!ここにアプローチしてくれて助かった」という感じです。

冨田:
1社あたり、どれくらいの人数を管理されているのですか?

新川:
1社あたり多いと200〜300人くらいは対象になる方々がいらっしゃいます。見えていない方々も当然いらっしゃるので、その中から「この方に今行くべきだ」と適宜判断しています。

桐原:
「この方には、最近アプローチしていないと思います」といった打診まで、AIでできるようになってきています。そして、私はこの点がもっとも重要だと思っています。受注するか・しないかはさておき、「最近会っていないし喋っていないよ」といわれて気付けるのは、非常に大きいじゃないですか。

冨田:
営業活動していると、契約に近いお客様に無意識に目が向いてしまいます。それを引き戻してくれる、リコネクトのような働きもしてくれるんですね。バックアップしてもらえるのは相当ありがたいですね。

1社につき200〜300人規模となると、その効果はなおさら高いでしょう。

桐原:
ただ、AI云々を抜きにしても戦略がかなり個別化されているので、「私たちはこれをやる」という方向付けが整っていないと大きなズレが発生しやすいです。

私たちは常に変容しているため、組織がどこに向かっていくべきかは毎週のように会議体で確認し続けています。戦略も複雑化しているので、毎週質問タイムを設けて、戦略の理解が合っているかを徹底的に確認し続けています。

冨田:
「ナレッジワーク社はエンタープライズ企業になぜここまで受け入れられるのか」を最後の質問として準備していたのですが、今のお話で納得しました。近道は決してなく、結局は人間関係や、どれだけ相手の社内に詳しくなれるかにかかっているのですね。

よく語られる話ですが、言うのは簡単で実際にできている企業と対面することは多くありません。そこを実直に実行していることが素晴らしいです。

そこで切っても切り離せない問題が、社内の評価です。エンタープライズ営業は時間軸が長く、一つの商談が四半期や半期で動くことはまれです。インサイドセールスと営業は、それぞれどう評価されているのでしょうか?

新川:
インサイドセールスの場合は、パフォーマンス(業務成果)としての「KPIの達成率」とアクション(発揮能力)としての「等級ごとに定められた、当社が大事にしている『スタイル』に沿ったスタンスやスキルをどれだけ発揮できたか」の半々で評価されます。評価はクォーターごとに区切られて、どれくらいアポイントを獲得できたか、それに資する評価項目を満たせたかを見ています。

冨田:
一人称ではなく、複数人で生み出したトランザクションの数がパイプラインに対して評価されるような仕組みなのでしょうか?

桐原:
いいえ。インサイドセールスは個のパフォーマンスにかなり評価が特化しています。

ただ正直、数ヶ月から年単位にわたる成果を評価するのは極めて難しいですし、成果に波があるのも事実です。だから成果だけでなく、「自分たちが大事にしているスタイル」を体現できているかも、同じくらい重く見ています。

冨田:
エンタープライズ営業を語る中でよくあるのが、「方針」ではなく「評価されるもの」に人が引っ張られてしまうことです。アポイント数、架電数、四半期の受注金額や※MRRといったものが該当すると思います。

ナレッジワーク社は等級や役割、ミッションに対する細かいパフォーマンスが定められていて、方針に従っているかが評価される仕組みになっている。そこに相当な比重が置かれているのですね。

※MRR(Monthly Recurring Revenue)
月次経常収益。サブスクリプション型ビジネスで毎月継続的に得られる売上の指標。

桐原:
究極、3ヶ月のうち2ヶ月はKPIにつながらない仕事に時間を取られたとしても、それだけで全ての評価が決まるわけではありませんし、逆もまた然りです。組織全体のパフォーマンスを長期的に高めるには、等級制度で定められたスタンスやスキルを高めていくことが重要です。

そういう意味では、今の私たちのエンタープライズに絞った戦略と評価制度は、極めて高いレベルで連動していると思います。

冨田:
その考え方がカルチャーとして根ざしているからこそ、成果が着実に積み上がっているのだと思います。

ちなみに、情報の重要性について社内で変化はありましたか?ここまでの話で、CRMのデータやリサーチデータの重要性は低くなる一方、お客様とコミュニケーションしたログ、つまりコンテキストの重要性は増しているのかなと感じました。

桐原:
情報自体は変わらず重要であり、そして大量になりました。切り出した情報が営業方針になり、アカウントプランに反映されるので、情報の種類というよりも、大量の情報をどのように切り出すかが非常に重要です。

アカウントごとの定例ミーティングには、カスタマーサクセスもコンサルチームもインサイドセールスも参加していて、アカウントマネージャーが取り仕切っています。それぞれが方針に基づいて主体性を持って動き、いちいち確認しなくてもいい構成になっているという意味では、情報の扱い方は少し変わったかもしれません。

冨田:
お客様から受け入れられなくなった情報はありますか?これまでは反応が得られていたのに、今はそれほどでもない、みたいな。

桐原:
私たちは大手企業様相手でも一定の型を持って提案できるように、かなり労力を割いてデータを整形してきました。ただ、ターゲットを絞り、関係性をより深めたことで、汎用的な営業資料だけでアプローチするには難易度が上がってきている印象があります。お客様の実情や状況によって表現方法を切り替えなければならなくなっているので、過去の世界観とは変わりつつあります。

とはいえ、汎用的な商品紹介資料のような共通のコンテンツは大事にしながら、お客様の接点上は幅広いコミュニケーションで、バランスを取らないといけないなと。全てをチューニングしてオリジナリティを追求すると、攻めに転じることができなくなります。最適なバランスについては、今も試行錯誤中です。

組織として動くためのオペレーションをどう最大化して仕事をするか。それをしないと、まだこの規模だと厳しいなと思っています。

人へ残る仕事は「信頼のゼロイチ」と「個色」

冨田:
最後にお伺いしたいのは、「人のバリュー」についてです。AIに何をさせるかは存分に語っていただきましたが、人がすべきこと、人に残るべき仕事とは何だと思いますか?

新川:
インサイドセールスは、より「セールスの最初の段階」にどんどん染み出している感覚があります。これまで電話で伝えていたカタログスペックの情報は、お客様がAIで簡単に取得できてしまう。それを語る、訴求する、提案するといったことは、ほとんど必要なくなっていくと思います。誰が聞いても同じような結論に至るものは、AIで十分だなと思うんです。

それに対して、「信頼のゼロイチ」の「1」を生み出すところが、インサイドセールスの“人間”が担うべきポイントになっています。

インサイドセールスが生み出した「1」の信頼を営業にパスして、10や100に広げていき、インサイドセールスの支援によってリコネクトしていく。そうした支援の中で、人をどんどん繋いでいく役を担うことになるのかなと思います。

冨田:
先ほどのコピーライティングというクリエイティブなところに時間を使い、そのうえでリコネクトしていくことに価値が移っているのですね。桐原さんはどうですか?

桐原:
二つあります。一つ目は「トレンド」です。あまりにも変化のスピードが激しく多様なので、自分がお客様とやり取りして感じている共通項をトレンドとして理解し、お客様にお話しする。「情報を持っている人」としてのポジションをいかに取るかは、すごく意識しています。

同じような表現でも、「桐原が喋るからそれがトレンドなんだな」と捉えてくださるお客様がいます。一般化されていない角度で、いかに情報を伝えていくかが重要なのかなと。

常にお客様とやり取りしていて、「昨日と同じ話をしているな」「少し遠巻きだけど課題が共通だな」と感じたら、次の商談で「さっき喋っていたんですけど」と話す。ハイパフォーマーは特にこういうことをやっていますが、この精度と練度は今もなお必要だし、重要なスキルとして残るでしょう。

二つ目はプロジェクトマネジメントです。プロジェクトを組成し、モチベーション高く組織を組成し、一定の時間軸と目標を持って「みんなで頑張ろう」と進めていくリーダーとして介在すること。これは人間のめちゃくちゃ重要な役割で、どんな組織構成でも変わらないポジションだと思っています。

リーダーには、人の魅力から知識まで、あらゆる要素が必要です。それらを持つ人材は、これからなおさら求められるし、限られた人がどんどんその地位を手に入れていくと思います。

冨田:
以前に桐原さんとお話ししたとき、桐原さんが「世界から色が失われつつある、物事がモノクロに変わっていく」と表現したのを鮮明に覚えています。

今、個性や人の感性といった※「個色(こしょく)」が失われやすい状況にあるなと。自分の見ているものをどう捉えるかという目を肥やし、そのための感性を磨かなければいけない。そこが唯一、人に残された砦なのだろうと思います。

※個色
その人だけが持つ独自の魅力や特性、多様性を表現

この個色を「どう磨いていったらいいのか」という質問に、世の中の関心は移っていくと思うんです。あえて答えるとしたら、どんなアドバイスをされますか?

新川:
難しいですね……(笑)。私自身、「個色が強いタイプ」と言われることが多いです。振り返ると、過去も未来も全く見ていなくて「今」しか見ていないタイプで。今この瞬間を、どれくらいハイパフォーマンスで突き抜けるかを追求してきました。

その点、桐原さんの商談のスタイルや運び方も吸収しなくてはいけないし、学ぶべき対象は無限にあります。社内にはハイパフォーマーがたくさんいて、追いつくために日々考えていたら、自然と自分の色のようなものが出てきたと感じています。

私はもともと研究職で、目の前の事象を複数の角度で観察をして、再現性を出すためのファクターを見つけるために、あらゆる観点で検証してきました。一つの真理を追求するためには手段を問わない。かなり理系的なアプローチで、個色を手に入れてきた気がします。

桐原:
理系のアプローチですね。私は全然違うかも。だって喋ろうとしていたアドバイスが、「散歩したらどうですか」ですから(笑)。

最近はスマホを持たず、0歳の娘を抱っこしながら散歩するんです。毎日同じ道でも、気候も違えば香りも違う。上の娘と一緒に、花を生けるワークショップにも行きました。「こっちに挿すとすごく世界観が広がるんだ」とそのたびに感動があるんですよね。

そうした日常や美術などから手に入れられるものはあまりにも多いですし、そこに注目する感性を持ったほうがいい時代だなと思います。

冨田:
桐原さんが生きやすい時代が来たということですね(笑)。

教科書的に語られる物事は、決して変化していないのだとよく分かりました。ただ一方で、どういう土台をしっかり固め、方針をそこに載せていくか。そのうえで人が実行することが重要で、最後にはやはりコミュニケーション、人間力に還っていくんですね。

営業活動においては、どれだけ自分らしい、個色を追い求めるか。ここに尽きるのだろうと共感しました。

桐原:
むしろそれこそが、個色を出すための仕組みなんだと思います。そのためにイネーブルメントの仕組みを作って、人々がより個性を発揮しやすい環境をつくっていく。それが私が最近考えている、イネーブルメントの世界の整理です。

冨田:
最後に、それぞれ一言ずつメッセージをいただきたいと思います。

新川:
私はインサイドセールスにずっと取り組んできて、今はマーケティングへとどんどん染み出していき、役割が変わっている最中にいます。AIでできることが増えた一方で、業務のほうは「個人の色」に引っ張られてきている気がするんです。

個人の特性や得意不得意、好きなことで、どんどん自分の色を出して研ぎ澄ませていけば、この仕事はもっと面白くなると思っています。マーケティング・インサイドセールス領域はAIとの相性もいいので、どんどん突き抜けた職業になっていくのかなとワクワクしています。

桐原:
「営業という仕事はどうなりますか」とよく聞かれます。私は「何も変わらない」と思っているし、人と人との向き合いに集中できる、楽しい時代が来るという感触があります。

そのため、「AI活用に力を入れよう」という目標は、なにか違うなと思っていて。そうではなく、AIに任せられる業務はどんどん任せながら、軽やかに人とやり取りする時間を作るほうに意識を向けたいです。私自身、社内の人たちと会話する時間を明らかに増やせています。

そういった「心の余力」を作れるのがAIの力です。人口も減っていく中、AIを使いながらより質の高い会話と向き合えるようになっていきたいと思います。

冨田:
AIによって個性というものにより比重が置かれて、本来の営業の姿へ原点回帰していく。お二人のお話からまじまじと感じることができ、個人的にとても楽しい時間でした。

桐原さんと新川さん、本日はありがとうございました!

今回の「THE LEADERS」は、お楽しみいただけましたか?本シリーズでは、今後も各業界で活躍するインサイドセールスのリーダーをお招きして対談を行います。次回もぜひ、ご覧ください。

過去のインタビュー記事はこちら

おまけ

今回の取材では、麻布台ヒルズのナレッジワーク社オフィスにお伺いしました。
素敵なオフィスを撮影させていただきましたので、こちらにてご紹介いたします。

この記事の著者WRITTEN BY...
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