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イベントレポート

「正しいABM」のはずが成果が出ない。人は「方針」ではなく「評価」に従う

こんにちは!SALES ROBOTICS マーケティングの三原です。

2026年9月17日、株式会社Maroo主催のオフラインイベント「経営・営業責任者のためのABM戦略」が開催されました。会場にはとても多くの方が集まっていて、開演前から熱気がありました。

大企業(エンタープライズ)開拓の切り札として、ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)に取り組む企業が増えています。一方で、「やっているはずなのに売上が上がらない」「気づけば従来通りのアポ追いに戻っている」という声も少なくありません。

成果が出ている企業とそうでない企業の違いはどこにあるのか。当日の議論で見えてきたのは、自社でコントロールできる 「評価制度(物差し)の再設計」 でした。

当日はABMにまつわる話がたくさん出ましたが、このレポートでは、私がいちばん刺さったこの「評価の物差し」の話に絞ってお届けします。ABMの話でありながら、普段の仕事にもそのまま通じる内容だと感じました。

(構成・執筆・編集:三原 里桜)

Aに報いながら、Bを望む愚かさ

経営層が「ABMを推進しよう」「中長期で信頼関係を築こう」と方針を掲げても、現場の行動が変わらないのはなぜか。理由は、人が日々の行動で一番意識するのが、会社の方針ではなく 自分が何によって評価されるか だからです。

Session 1では、ウェルディレクション合同会社 代表社員の向井 俊介氏が、経営理念や戦略といった「言葉」と、評価や意思決定といった「振る舞い」のズレについて語りました。

向井 俊介氏 ウェルディレクション合同会社 代表社員

約20年にわたるIT業界でのB2B営業経験を基盤にもつ。国内大手IT企業から外資系3社で多様な事業環境で成長を牽引。グローバルトッププレイヤーやトップマネージャーとして400%成長を牽引するなど、常に卓越した成果を創出してきた。2020年7月にはウェルディレクションを創業し、営業改善に特化したアドバイザーとして、業種・規模を問わず、組織が自律的に成長し続ける「自走型営業組織」の構築を支援。2023年には社会構想大学院大学で実務教育学の修士号を取得し、営業の理論を形式知化・体系化する。事業構想大学院大学の客員教授も務める。
HP:https://welldirection.jp/
X:https://x.com/Shun_Mukai0718

「マネジメントの立場の人たちの評価の仕方、意思決定の仕方が、ずれていることがある。行動指針やカルチャーで『チームで勝つぞ』と言いながら、個人評価をしている、というような話です」(向井氏・要旨)

これを受けて、当社取締役CMOの冨田が、事前準備の中で出会った論文を紹介しました。経営学の有名な論文、Kerr(1975)の『On the Folly of Rewarding A, While Hoping for B(Bを望みながらAを報いる愚かさ)』です。多くの組織は、B(中長期の関係構築や成果)を望みながら、実際にはA(目先のアポ数や短期数字)を評価や報酬に結びつけてしまう、という内容でした。

「方針を示しても、物差し、つまり評価が根本的に変わっていなければ、現場の行動は変わらない。これだけ覚えていただければと思います。ABMをやる場合は、評価から根本的に変えていかないと成り立たないと思います。関係性を構築すること、深めることが大事だと言いながら、『で、今月アポ何件取れたの?』と言ってしまってはだめ、という話ですね」(冨田・要旨)

「中長期で顧客と向き合え」と言われながら、会議で問われるのは今月のアポ数。これでは現場が短期的な売り込みに走るのも当然です。

冨田 貴徳 SALES ROBOTICS株式会社 取締役CMO

BtoBマーケティング/SaaS領域で約15年のキャリアを持ち、レベニュー全組織を経験。 一貫してマーケティングと事業成長の最前線を歩んできた。 2021年にCMOとしてSALES ROBOTICSへ参画し2024年12月より現職。 マーケティングで生み出した需要を、いかに分断なく営業成果へつなげるか「マーケと営業の境界」を設計し続けている。Salesforceが運営するユーザーグループ「インサイドセールス分科会」では2023年度会長、Inside Sales Conference統括責任者をも務める。データと人を起点にしたBtoBマーケティング/セールスの実践知を発信している。 

この構造は、ナーチャリングにも表れます。リードを獲得したら、自社が売りたいものや事例を送りつけ、スケジュール調整のURLまで添えてアポを求める。本来は顧客との関係を育てる活動のはずが、評価がアポ数にひもづいているために、自社の都合を押しつける活動に変わってしまいます。向井氏は、この状況をこう指摘しました。

「リードを取ったからと、自分たちの売りたいものを送りつけようとする。事例が出たから送りつけようとする。なんならスケジュール調整のURLまで送る。そんなことをしていたら、嫌われて市場がどんどん減っていく」(向井氏・要旨)

そのうえで向井氏は、ナーチャリング再設計が重要であると強調しました。

「継続的にコミュニケーションして、話をしてもいい状態をつくることを、ナーチャリングの目的として再設定してほしいと思っています」 「特にエンタープライズは、嫌われたらアウトです。商談の話になる前に、いかに嫌われずに、継続的に話ができる状態をつくるか。そのための一つの手段として、ナーチャリングという概念を再定義してインストールしてほしいと思っています」(向井氏・要旨)

大企業がなぜ「嫌われたらアウト」なのか。日本国内で従業員数1万人を超える企業は、全企業数の0.0096%(約170社)しかありません。SMB(中小企業)と同じ感覚で短期的なアポや売り込みを続ければ、顧客から嫌われ、ブロックされ、市場そのものを失いかねません。現場が短期のアポ追いに走るのは努力不足ではなく、経営が与えている物差しのズレ が原因。ここが今回の出発点でした。

三原

私自身、自分の目標が部署の方針に沿っているからこそ、自然と方針に従って動けている実感があります。評価と方針が重なっていると、迷わず動けるんですよね。だから「方針ではなく評価に従う」という言葉は、すっと腑に落ちました。これはABMだけでなく、どんな仕事にも言えることだと思います。

顧客を知っているか?ー経営が変えるのは「聞き方」

評価を変えるカギは、経営や現場が 顧客のことを本当に知っているか にあります。現場の報告やCRMの情報だけで、顧客を知った気になっていないか。そこで必要になるのが、顧客の一次情報を、自分たちで取りに行くことです。ABMは現場の営業だけでは進められず、経営層のコミットメントが欠かせません。経営が顧客の生の声に触れれば、「評価として置くべきもの」も自然と変わっていきます。

「私自身も経営として、お客様に直接会うようにしています。現場から上がってくる報告やCRMに登録されている情報が本当に正しいのか、自分の目と耳で確かめに行く。部下を信じないということではなく、一次情報を経営者自身が取りに行くことは大事だと思っています。 」(冨田・要旨)

顧客を知るための一次情報を、現場はどう取るのか。これを受けて向井氏は、「最後に一つだけ」と付け加えました。前提は、エンタープライズは数が少なく大事にしなければならず、嫌われてはいけないこと。そして、継続的なコミュニケーションが必要になることです。

「その前提に立つなら、オンラインで済ませないでください。特に初回は、あり得ません。絶対に訪問してください。そうしないと一次情報は取れないからです。画面越しでは伝わらない情報、たとえばお客様先のオフィスの雰囲気や、持ち物、態度から得られるものは、とても多いんです。便利だから、というのは逃げです。特にエンタープライズは、効率性ではなく効果を求めてほしい。泥臭いかもしれませんが、コロナ前を思い出して、オフラインでミーティングをしてほしいと思います」(向井氏・要旨)

三原

「顧客視点」は、社内でも本当に口酸っぱく言われています。「お客様は何て言ってた?」は、営業だけでなく、私たちマーケにも向けられた問いだと感じました。 また、オンラインが当たり前になったからこそ、「会いに行く」ことの価値が上がっている気がします。当たり前のようで、意外とできていない。だからこそ、最初の一歩でぐっと差がつくポイントなのではないかと感じました。

「アポ何件」をやめて、何を物差しにするか

経営と現場の双方が一次情報を評価の土台に置くと、目先のアポ数ではなく、将来の売上のもとになる「信用残高・情報資産(BS思考)」を見える化するKPIが機能し始めます。当日はこんな例が紹介されました。

① パーミッション(継続許諾)獲得数
名刺の枚数やアポ数ではなく、個人名・部署・直通アドレスとあわせて「これからも連絡・情報提供をしてよい」という許諾を得た数を評価する指標です。顧客の「検討の窓が開く瞬間」に、真っ先に思い出してもらうための重要な資産になります。

② 双方向コミュニケーショントランザクション数
一方的なメール配信ではなく、1リードに対して電話やメールで「双方向の、文脈のあるやりとり」が何回あったかを評価する指標です(最低3〜5回など)。継続してコミュニケーションが取れる状態をつくるための物差しになります。

「『メールを送りました』だけで終わりではなく、返事が来た、電話に出てくれた、というやりとりを見る。1リードに対して継続コミュニケーションが取れる状態をつくる。そのために何をすればいいか考えなさい、という評価制度に変えました」(向井氏・要旨)

三原

この指標には、強く共感しました。私は最近、一斉配信のツールを使いながらも、宛先を特定の1人に絞り、その方に直接メールを書いているつもりで書き出すようにしています。きっかけは、冨田から「誰か一人を思って書いているか?」と問われたことでした。一方的に送るだけのメルマガは、ナーチャリングとは異なると考えているためです。この書き方に変えてから、書く時間が苦にならなくなり、仕事が楽しいと感じる場面も増えました。「送った数」ではなく、「その人に開封されたか」を見るようになると、仕事の手触りまで変わるのかもしれません。

評価の物差しを変える。ここまで聞いて、「理屈は分かるが、自社で実際にやるとなると難しい」と感じた方もいるかもしれません。Session 1の締めくくりに、向井氏はこの点に触れ、「幕賓(ばくひん)」という言葉を紹介しました。

「幕賓という言葉が好きで、たまに使うのですが、耳の痛いことを外部の立場から言う人間のことです。ABMをやらなければいけない、でもやるからには腹を括ってやりたい、という方は、具体的にどうすればいいのかという壁に直面すると思います。そういう方がいらっしゃったら、ぜひお仕事としてお引き受けしますので、幕賓としてお任せください」(向井氏・要旨)

向井氏のXポストはこちらです。

まとめ:評価を変え、組織で向き合えるか

今回のイベントで見えてきたのは、ABMの成否を分ける差分の一つが、経営陣が評価制度(物差し)を変えられているかどうか ということでした。

  1. 短期的な「アポ数」や「売上」を追うPL思考の評価軸を手放す。
  2. 「パーミッション獲得数」や「双方向の対話」といった信用資産(BS思考)を評価する。
  3. 経営陣自らが顧客の一次情報を取りに行き、相手のハイレイヤーに組織ぐるみで向き合い続ける。

今回のイベントは、経営・営業責任者の方向けでした。ただ、聞きながら強く感じたのは、この話は ABMに閉じた話ではないということです。「実際に評価していることと、望んでいることがずれていたら、うまくいかない」。これは、ABMに限らず、普段の仕事のあらゆる場面に通じる話だと思います。だからこそ、方針を決める立場の方には、ぜひ知っていてほしいし、分かっていてほしい。会場で、私がいちばん強く感じたことです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

この記事の著者WRITTEN BY...
SALES ROBOTICS株式会社
Market Development本部 マーケティング リーダー
三原 里桜(みはら りお)
Rio Mihara

2024年 SALES ROBOTICS株式会社に入社。配属直後よりSEOコンテンツ制作・メルマガ施策に携わり、顧客の興味関心データの分析に従事。現在は、その知見を活かしたイベント企画・運営も兼務し、マーケティングの全体設計を推進している。

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